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第二十話「想いを籠めて」

「来たね。それで、答えは?」


 不思議な色の空を見上げながら、俺達を待っていたルーヴは、ニィ達の場所へと向かえる虹色の宝玉を構え、問いかけてくる。

 俺は、皆の見守る中、口を開いた。


「当然助けにいく。だが、行くのは俺だけだ」

「……へえ。てっきり皆で行くって言うのかと思ったけど。それは、大事な仲間達を心配してのことなのかな?」


 それもある。

 だが、それだけじゃない。


「皆で行けば可能性は上がる。けど、もしものことがある。そのもしものために、皆には地球に残ってもらうことにしたんだ」


 今は、地球の神々が戦いの余波で崩壊しないように防いでくれているとはいえ、それも完全ではないと俺は思っている。

 もしもの時に、地球へと被害が及んだ時、皆にはそれへの対処をしてもらいたいんだ。

 天宮家を筆頭に、世界の救助をな。


「それに、勇者が世界を救うのは当然のことだろ?」


 まあ、それを言うなら、勇者とその仲間達、だけどな。


「なるほど。じゃあ、後ろの人達は勇者の提案を呑んだってことでいいのかな?」

「……本当は、私達もついていきたい。でも、私達じゃ足手纏いになりそうだから」


 ごめんな、有奈。でも、今度の戦いは俺でも命を落とす危険があるんだ。


「だから、あたし達は刃太郎さんを信じて、待っていることにした。ううん、ただ待つだけじゃない。刃太郎さんがいない間、地球を護ることにしたの!!」


 ありがとう、リリー。俺の代わりに地球を頼むぞ。


「これまでも、刃太郎さんは地球の危機を救ってくれた。だから、今度も」


 ああ、もちろんだ華燐。今度も、俺が地球を救ってみせる。


「はい。今度も必ず地球を救ってくれるって信じて待つことにしたんです!!」

「お兄ちゃーん!! ファイトー!!」

「刃太郎。絶対、帰ってきてよ」


 無事世界を救って帰ってきたら、その笑顔で俺を迎えてくださいサシャーナさん、コトミちゃん、コヨミ。

 皆の応援が、信頼がある限り、俺は簡単には負けないし、地球を救ってみせる。

 皆が、地球を護ってくれているってわかるからこそ、俺は目の前の敵に集中できるんだ。


「じゃあ、行ってきなよ勇者」


 虹色の宝玉を放り投げる。

 それは、宙で止まり、光を放つ。

 そして、俺の目の前に出現したのは虹色の次元ホール。この先に、ニィ達が……次元の覇者がいる。さあ、行くぞ!


「ちょーっと待ったぁ!!」

「なっ!?」


 これから決戦というシリアスな空気を壊すかのように、現れたのはヴィスターラの創造神オージオだった。


「お、オージオ!?」

「ふう、間に合ったようだな。ほれ、お前に創造神様からの最高の餞別だ」

「これは……アイオラス?」


 突如として現れたオージオが俺に放り投げたのは、何の変哲のないアイオラスだった。


「俺達、創造神は創り、そして与える神。そんな俺が、これから自分の生まれ世界を救うために一人で戦いに行く男へ最高の武器を送る。……そいつに、仲間達の想いを籠めろ」

「皆の想いを?」

「ほれ! 時間がねぇんだろ!! さっさと籠めてやれ!! お前達のありったけをな!!」

「は、はい!!」

「よーし! そういうことなら!!」

「うん!! 籠めよう! 想いを!!」

「刃太郎様が、必ず勝てるように。帰ってこれるように!!」

「仕方ないのぅ! わしも参加してやるわ!!」


 オージオの言葉に、地球に残る仲間達が一気にアイオラスに触れ想いを籠めていく。それは、青白い光となり、アイオラスへと吸い込まれていった。

 

「……」

「ロッサ?」


 皆が離れると同時に、先ほどまでいなかったロッサが一人近づいていく。しばらく、俺のことを見詰め、アイオラスに触れた。


「これは、貴様が約束を破らないようにだ。貴様を倒すのは、この魔帝バルトロッサだ。それを覚えておくがいい」


 青白い光が舞う中、ロッサは俺を見詰め続ける。

 たく……こいつらしいな。


「もちろんだ。俺がいなくなったら、誰がお前を止めるんだ?」

「ふん。であろう? もし、貴様が戻ってこなかった場合、遠慮なく我は地球で暴れてやる」

「それは、死ぬ気で戻ってこないとな」


 想いを籠め終わり、ロッサは離れていく。

 さあ、これでようやくだ。

 いつの間にか、オージオがいなくなっている。……いや、ありがとうな。なんだかんだで、お前には助けてもらってばかりだ。

 お前の期待に応えるために、地球で待っていてくれる皆のために。

 必ず、次元の覇者を倒してみせる!






・・・☆・・・






「はあ……はあ……っ! ちょっと、どうしたのニィ? 足が震えているじゃない。休んでいたほうがいいわよ?」

「り、リフィルこそ。珍しく息が上がっているのですよ? 休んでいたほうがいいのですよ」

「休むたって、あいつから目を逸らしたら、気を抜いたら、こっちがやられるっての」

「ふむ。少し、遊びが過ぎたようであるな。そろそろ終幕とし、地球を破壊してくれる」


 次元の覇者シュバイトと戦い、どれくらいの時が経っただろうか。

 いや、そんなもの気にしたことが無い。

 気にしていたら、簡単に負けていただろう。


 だが、すでに体力、気力共に限界にきている。残っているのは、簡単に負けてやら無いという精神力。対して、シュバイトは多少鎧が欠けているだけで、まだ余裕がありそうだ。

 いくら戦闘向けの神々ではないとはいえ、ここまでの差があるとはニィーテスタ達も思いもしなかった。


「そんなこと、させないのです、よ!!」

「まったくよ。何度も何度も破壊って、あんたにはそれしかないわけ?」

「そうであるな……昔は破壊以外にもあったであろうが、忘れた。今、我がすることは次元の調整のために余分な世界を破壊することのみ。お前達も、いつかわかる時が来るだろう。護るためには、非情にならねばならないということに」


 大剣を大きく構え、刃にエネルギーを収束させていく。

 やばい。今あんなものをまともに受ければ。

 だが、体が動かない。

 意識も徐々に薄れていく。このままじゃ……。


「逝くがいい。ヴィスターラの神々よ!!」


 振り下ろされたエネルギーの刃。

 身動きの取れないニィーテスタ達に、容赦なく襲い掛かってくる。


(刃くん。皆……ごめんなさいなのです。私は……!)

「まだですよ」

「え?」


 聞き覚えのある声が聞こえたと思いきや、シュバイトの放ったエネルギーの刃が翡翠色の障壁にて防がれた。

 そして、現れた男はくいっとめがねの位置を直し、いつもと変わらぬ顔を見せる。。


「ご無事でしたか。ニィーテスタ、リフィル」

「ぐ、グリッドくん!?」

「どうやら、間に合ったみたいだな。よう、お前が次元の覇者とやらか」

「オージオ様も!?」


 ニィーテスタ達を護ったのは、同じヴィスターラの神であるグリッド。そして、上から睨みながらシュバイトへと話しかけた創造神オージオ。

 

「まさか、ヴィスターラの神々が勢ぞろいとはな」

「好きで、お前のところに集まったわけじゃねぇよ。それにしても、随分と俺の可愛い子供達をいたぶってくれたじゃねぇか」

「ふん。だとしたら、どうだというのだ? まさか、創造神自ら我と戦おうと言うのではないだろうな?」


 シュバイトとしては、それを望んでいるように見える。しかし、オージオは冷静にシュバイトの言葉に小さく笑いながら答える。


「やってやろうじゃねぇか! ……と、言いたいところだが。俺は創造神。創造神っていうのは、創り与える存在。それに、俺は弱者とは戦わねぇよ」

「それは、どういう意味であるか?」


 明らかに、弱者と言われ怒りを露にしているシュバイトだが、まだ冷静さを保っている。


「わからねぇのか? お前は、自分よりも弱い相手としか戦っていない。だから、簡単に世界を破壊できているんだ」

「何を言うかと思いきや……我が弱者ばかりを狙っている卑怯者だと言うのであるか?」

「そうだって言っているだろ? 現に、ニィーテスタとリフィルと戦ってどうだった? 久しぶりにダメージを負ったんじゃねぇか?」

 

 と、シュバイトの破損している鎧を見てオージオは問いかける。


「そこまで言うのであれば、貴様は我よりも強いというのか?」

「さあ、それはどうだろうな。それに、今からお前と戦うのは俺じゃない。ついでに言うとそこにいるグリッドでもない」

「では、誰だと言うのだ!?」


 シュバイトが叫んだ刹那。

 虹色の次元ホールが出現した。それを見て、オージオはふっと笑い高らかに叫ぶ。


「現れたぞ! お前を倒す者が! 勇者がな!!!」

「勇者、だと?」

「勇者威田刃太郎。地球を救うため、大切な仲間を助けるため、次元を超えて来たぞ!!!」

「刃くん!!」

「たく……かっこいい登場じゃない」


 刃太郎の姿を見て、ニィーテスタとリフィルは自然と安堵し緊張の糸が切れた。もうしばらくは立てないだろう。

 だが、まだ意識はある。

 見届けなければ。これから起こる、勇者の活躍を。それまでは、休めない。

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