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第十五話「屈服する悪魔娘」

「リリー。待たせたな。サシャーナさんも、お疲れ様です」

「刃太郎さん! それにロッサも!」

「お二人も、お疲れ様です。ここに来たと言うことは、一人目は無事保護したみたいですね」


 ベイクに、今の状況とこれからのことをある程度説明し、天宮家に預けてきた。それから、俺とロッサはリリーにサシャーナさんが待つハワイへとやってきていた。

 まさか、こうして外国へと渡ることになるとはな。


「それで、見つかったのか?」

「いえ、それがまだ」

「相手は、相当姿を暗ますのがうまいみたいで」


 ちなみに、言語のほうは大丈夫だ。

 その辺りは、ちゃんと言葉の境界線をいじっているからな。ちゃんと共通言語になっているはずだ。それにしても、さすがのハワイも二月はちょっと冷え込んでいるな。

 なんだか一年中温かいところってイメージだったけど。


「ロッサ。何か感じるか?」

「待て。今、探っている」

「頼むぞ」

「任せておくがいい」

「……」


 と、俺達のやり取りを見て、リリーとサシャーナさんはぽかんっとした表情で見詰めていた。


「どうしたんだ? 二人とも」

「い、いえ。なんだか、知らない内に随分と信頼しあっているなぁっと思いまして」

「そうですよ! あんなに敵対心バリバリだったのに! はっ!? まさか、二人だけで無人島に向かい、あんなことやそんなことを!?」

「いや、それはないですから安心してくださいサシャーナさん」


 勘違いをされているので、無人島であったことを俺は二人に説明した。ロッサが協力してくれるように、とある約束をしたことを。

 それを聞いた、二人はなーんだとほっと胸を撫で下ろしている。


「おい、刃太郎。それらしき魔力を感知したぞ」

「どっちだ?」

「ふむ……ここから南東の方角だ。どうやら、複数の人間と一緒にいるようだな」


 すでに、人と接触してしまっているのか。

 そうなると中々厄介だな。


「そうか。さすがに、次元ホールでの移動は怪しまれるな。ここから近いのか?」


 だが、相手は姿を暗ますのがうまいみたいだし。どちらかというと、次元ホールで一気に近くまで移動したほうが捕らえやすいか?


「それほど遠くは無い走れば、すぐだ……むっ!?」

「どうしたの? ロッサ」


 何かに気づいたようで、ロッサは南東の方角から方向転換。

 その視線の先には……ステーキハウスがあった。

 こいつ、匂いじゃなくて気配で食べ物を感じ取りやがった。俺は、はあっとため息を漏らしながらロッサの首根っこを掴む。


「食べている暇は無いんだ。後で、好きなだけ奢ってやるから」

「そ、それは本当か! くっ! だが、この気配は相当の肉厚!!」


 そりゃあそうだろうな。

 あそこにあるのは、高級ステーキだろうし。今までの俺だったら行くことすら無理だったろうけど。今は、色々あって結構金があるからな。

 それに。


「大丈夫ですよ。ステーキが食べたいのであれば、我々天宮家にお任せください!」


 うんうん。頼りになる天宮家様がいるわけだし、その辺りは大丈夫だろう。今は、残り二人を迅速に回収することだ。

 すでに、地球の人間と接触しているなら尚更だ。


「それで? 人間の人数は? 魔力は感じるのか?」


 なんとかステーキハウスから離れた俺は、ロッサに詳しい情報を聞き出す。


「人間に魔力はない。ただの人間だろうな。数は……三人ぐらいだろう。ちなみに、これから会うのは人間ではないな」

「え? 人間じゃないって、じゃあ」

「この感じ。我と同じ魔族だろうな」


 ますます、やばいな。

 魔族が人間に接触している。なにかよからぬことを考えていなければいいが。しばらく歩き、人目が無いことを確認し、俺達は一気に次元ホールで移動することにした。


「あそこだ」


 幸い、回収対象は人気のない路地裏にいたらしく。視線の先には、かなり筋肉質な男達が集まっていた。なにをしているんだ? と耳を済ませたところ。


「ほ、本当にいいのか?」

「いいわよ。思いっきりやっちゃいなさいよ。溜まっているんでしょ?」

「お、おっしゃ! やってやるぜ!!」


 ……ふっ。どうやら、さっき聞こえたのが回収対象のようだな。

 ちらっと、ロッサを見ると間違いないと頷く。

 リリーは何をしているのかわかっていないようだが、サシャーナさんは妙にわくわくした表情をしている。


「おい、そこの!」


 躊躇の無い奴め。

 突然、小さな女の子の登場。そして、声をかけられたことで男達は体を振るわせる。仕方ないので、俺達も出て行くことにした。


「すみません。実は、俺達ハワイに来るのが初めてで道に迷ってしまったんですけど」


 とりあえず、観光客風に演じるとするか。

 あ、でもサシャーナさんというどう考えても違和感のある人がいるからちょっときついか? 観光に着たのに、どうしてメイドがいるんだ? と疑われないだろうか。


「そ、そうか。俺達もそこまで詳しくないからな」

「そうそう。すまんな」

「じゃあ、俺達はこれで」


 しかし、そんな心配はいらなかった。相当焦っていたらしく、一目散に逃げ去っていく。


「何を焦っていたのだ? 奴らは」

「あたしも気になります! あの男の人達は何をしていたんですか? 逃げるってことは悪いことをしていたんですか?」

「うん、まあ……悪い、ことかなぁ」


 歯切れの悪い感じに答え、俺は二人の頭を撫で前に出る。一人だけ、逃げずにその場に止まっていた回収対象と会話をするために。


「もう、せっかく良いところだったのに。どうしてくれるのよ、あなた達」


 明らかに不機嫌な様子の赤髪の少女。

 とても過激な格好をしており、その豊満な胸や尻、へそなどを露出し、衣服も拭くと言うよりも布という人々の目を集めるために作られたようなものだった。


「言葉は通じるみたいだな」

「もちろんよ。って、あら? あらあら?」

「なんだ?」


 少女は、俺を観察するように近づいてくる。そして、全身を嘗め回すように見た後、にっと笑う。


「あなた、かなりいい生命力に溢れているわね。ふふ、どう? これからあたしと良いことしない?」

「断る」

「え?」


 俺の即答に、少女は唖然とする。

 断られるとは思っていなかったんだろう。


「ね、ねえ。もう一度言うわよ? あたしと」

「だから断るって言っているだろう。今は、そんな気分じゃないし。そんなことをしている状況じゃないんだ」

「う、嘘……あたしの魅力が通じていない? た、確かに普通の人間じゃないみたいだけど、そんな……!」


 相当ショックだったのだろう。嘘よー!! と頭を抱えている。まあ、異世界召喚前の俺だったら、堕ちていたかもな。

 だが、今の俺には通じない。いや、通じないようにした。


「おい、小娘」


 ショックを受けている少女に、ロッサが声をかける。


「なによ!! ……っ!?」


 八つ当たりのように、叫ぶ少女だったが。一瞬にして、顔が青ざめていく。その理由は、ロッサが久しぶりに魔帝としての威厳をかもし出しているからだろうな。

 相手が、同じ魔族で尚且つ格下であるならば。


「名は?」

「ゆ、ユフィカと言います」


 屈服するように膝をつき、自分の名を語った。


「では、ユフィカよ。貴様、自分がどんな状況におかれているか理解しているか?」

「は、はい。別世界に、飛ばされたと」

「うむ。刃太郎よ、どうやらこいつで間違いはないようだな。さっそく回収し、次に向かうぞ」

「あ、あの! あなた様はいったい……」


 ユフィカの問いかけに、ロッサは我か? と不適に笑みを浮かべ叫んだ。


「我が名は、魔帝バルトロッサ!! 魔を統べる者!! 喜ぶが良い。貴様を、今から我が配下に加えてやるぞ」

「あ、あたしを?」

「そうだ。我が配下となった暁には、貴様の知らぬ世界を見せてやろう」

「あ、あたしの知らない、世界……!」


 ロッサの言葉に、顔を赤くし、呼吸を荒くしているユフィカ。これは、完全に勘違いしているな。ロッサは、そっちの意味で言ったのではないのだろうが、ユフィカは完全にそっちの方向で考えているだろう。

 後ろでは、リリーがサシャーナさんになんで赤くなっているのかと問いかけている。

 サシャーナさんも律儀に、それはですねぇっと説明しようとするので、俺は止めた。


「だが、今はお預けだ」

「ほ、放置プレイですか……!」

「放置プレイ? なんのことか、わからぬがそうだ! 今は、貴様に構っている暇はない!! 我が戻ってくるまで指定した場所で大人しく待っているのだ!! よいな!!」

「は、はい!! このユフィカ。バルトロッサ様のお帰りを心からお待ちしております!!」


 なんだかんだで、魔族の頂点だな。

 こうも簡単に、屈服させるとは。とはいえ、これで後は一人。急がないと。

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