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第十話「全力で遊ぶ」

 なんでもありの雪合戦が開始されてから、早十分。

 今どれだけの参加者がやられたのか、わからない。

 もしかしたら、すでに半数ほど減っている可能性だってある。参加者が参加者だけに、本当に予想ができない。


「少しでも油断したら……こっちがやられる!」


 雪玉をしっかりと手の中に納め、周りを見渡すリリー。

 未だに、誰とも出会っていないが、もしバルトロッサや旋風丸などの容赦の無い者達に出会った場合、まだまだ未熟な自分は確実にやられるだろう。


 多少なりとも、神力を手に入れ、神や刃太郎から直接指導を受けているとはいえ不安はある。相手は、こちらとは違い長年戦ってきた猛者。

 雪合戦とはいえ、気を緩めることなどできない。


「それにしても、雪合戦か……小学校以来、だったかな」


 木に隠れながら、リリーは思い出す。

 それは、小さい頃の記憶。

 まだ外で遊ぶことがどうしても楽しかったあの頃。


「確かに、小学校以来だね」

「か、華燐!?」


 右から現れた華燐に驚き、リリーは距離を取る。


「……まさか、最初の相手が華燐だなんて。ううん、華燐でよかったかも」

「私も。昔は、雪が降るとさ、二人で雪だるまを作ったり、雪合戦をしたり……楽しかったよね」

「うん。でもいつの間にか、あたし達は成長していった。色々と変な方向にだけど」


 だね、と苦笑しあう二人。

 どうして、あんなにも純粋だったのに変な方向に成長をしてしまったのか。リリーの場合は、昔の母親の影響なのだろうか? とも考えた。

 華燐の場合は、昔から夜に霊能力者としての仕事をしていたために、夜に慣れすぎたのかもしれない。

 ともあれ、今はこうして正しい道を進んでいる。

 これも、有奈に出会いそして刃太郎に出会ったおかげ。


「リリー。今、リリーがどれだけ戦えるのか。試してあげる」

「うむ。試させてあげよう!」


 と、軽く返事をするリリーだったが。

 次の瞬間。

 表情は、真剣そのものへと引き締まる。いや、華燐も同じだ。二人の両手には雪玉があるが、これから始まるのは真剣の戦い。


「いくよ!!」

「いつでも!」


 まず動いたのはリリーだった。足に神力を溜め込み一気に移動をする。早い、だが華燐にはまだ終える速度だった。

 華燐も、足に霊力を溜め素早く動く。


「そこ!」

「おっと! そう簡単には当たってあげないよ!」

「だったら」


 札を一枚取り出し、霊力を込める。

 そして、それをリリーへと投げつけた。だが、それも簡単に回避できる。それに、雪玉以外は当たってもライフゲージは減らない。

 とはいえ、当たれば何が起こるかわからないため当たるわけにもいかない。


「一枚無駄にしちゃったね、華燐!」

「そうでもないよ」

「え?」


 華燐の意味深の言葉の直後、背後から霊力の爆発を感じた。

 何かが、背後から襲ってくる! と思った時にはもう遅かった。まるで、体を縛るかのように霊力の鎖が空中から出現し、リリーの動きを封じる。


「それ!」

「あぶっ!?」


 その一瞬の隙を見逃さず、リリーの顔面に雪玉を当てた華燐。それにより、ライフゲージがひとつ減ってしまう。

 すぐ神力で鎖を弾き、顔についた雪を犬のようにふるふると振るい落とし。


「もう! いきなり顔面に当てるなんてひどいよ!」

「あはは。ごめんごめん。昔を思い出しちゃって、ついね」


 そういえば、よく雪合戦をしてた時は、顔面に当たっていたような記憶が……。そう言われれば懐かしいが、やはり顔面に当てられるのは冷たいし痛い。

 それに、リリーにはめがねがあるのだ。

 曲がってないかな? と確認。


「ふう……ちょっと本気出す」


 めがねが無事なことを確認し、リリーは体中に神力を纏わせる。瞬間、空気は揺れ周りの雪もまるでリリーを避けているかのように消えていく。


「さすが、神の力ってところかな」

「あたしを怒らせたこと後悔しろー!」


 怒りの猛ダッシュ。

 リリーは正面から挑んでいったのだ。普通ならば無謀な行動だが。


「そこ!」

「えい!」


 華燐の投げた雪玉を神力の刃のようなもので切り裂き、一気に距離を詰めていく。そして、目の前で姿を暗まし。


「いたっ!?」

「いえーい! 一気に二つも減らしちゃったよ!」


 背後からの衝撃。

 先ほどのお返しとばかりに、華燐のライフゲージは二つも減ってしまった。すでに、神力は消えているが、いつでも対処できるような距離は取ってあるリリーは、やってやったという笑顔を作っていた。


「……本当に、見違えちゃったね」

「もしかしたら、華燐を超えちゃったかもよ」

「それはないよ。経験は私のほうが上だから。それに、さっきのそう長くは使えないでしょ?」


 まだ始まって少ししか経っていないが、リリーは息を切らしている。神力を操れるようになったとはいえ、まだまだ修行途中。

 人のみで神々の力を扱うのは、相当難しいことだということだ。

 しかも、全身に神力を纏わせ常人では考えられない動きをした。息を切らすのも当たり前のこと。いや、むしろ息を切らす程度で済んでいるがすごい。

 これも修行の成果なのだろう。


「見破られちゃってるか……でも、あたしはまだまだ動けるから!」

「それはこっちも同じだよ」


 小さく笑い、霊力で複数の雪玉を自分の周りに浮かせる華燐。その迫力は、本気でリリーを倒しに行くと言う意思を感じられる。


「……」

「……」


 しばらくの静寂。

 それを壊したのは。


「いたっ!? え? う、後ろから?」


 リリーの背後から襲う突然の衝撃。ライフゲージを見ると、二つも減っていた。背中を見ると髪の毛にも背中にも雪がついていた。

 いったいどうやって? まさか、華燐以外の誰かが? と考えたが、目の前にお返しのやってやったという顔を見て、そうじゃないと理解した。

 今のは、確実に華燐がやったこと。おそらく、あの複数の雪玉はおとりの役目もあったのだろう。そうして釘付けになっている間に、霊力で操った雪玉が……。


「気づかなかったでしょ」

「うん。参考までに、どうやったのか、教えてよ」

「簡単だよ。霊力を操って、それで雪玉を作っただけ」


 つまり、霊力だけで雪玉を作りあげ、リリーに当てた。


「……まったく、改めて華燐ってすごいなぁって思うよ」

「それはどうも」


 だが、もうリリーのライフは二つ。油断すれば、一気に持っていかれる。だが、華燐も残り少ないライフを減らすため勝負に出てくるはずだ。

 だったら、こっちも。


 そこからは、防御なしのぶつかり合い。

 雪玉が飛んでこようとも、前に突き進み、ライフを減らしに行く。昔のように、ただただ雪に歓喜し、雪玉を投げていたあの頃のように。


「あははは」

「ふふ」


 自然と二人には笑顔がこぼれる。他人から見れば、雪合戦とはとても思えない戦いを繰り広げているが。それでも、今二人は楽しい。

 どんな戦い方であれ、楽しいのだ。


「いっくよー! 華燐!!」

「いくよ、リリー!!」


 お互いに、ライフゲージはひとつ。

 一気にキメに行くために、二人同時に雪玉を構える。

 そして。


「はぶっ!?」

「いたっ!?」


 二人仲良く、顔面に雪玉が当たり戦いは終わった。

 力尽きるように、地面に仰向けに倒れ、冷たい雪の絨毯に寝転がり、リリーは乱れた呼吸を整えながら語りだす。


「あたしね……ずっとこうやって華燐と真剣勝負するのが怖かったんだぁ」

「……うん、知ってたよ」

「昔は、華燐が不思議な力を持っていてすごい! って、思っていたけど。やっぱり、成長するとそのすごさと怖さがわかってきて……いつの間にか、こうやって遊ぶことをあたしから避けてきた」


 もし、華燐が誤って力を使って大怪我をしたらどうしよう。そんな恐怖が、成長すると理解してきて自然と避けていた。

 だが、それだけではない。

 確かに、怖いと思っていたが、それよりも。


「それに、もしその力であたしを傷つけて、華燐の心が傷ついちゃったらどうしようって」

「それも……知ってた」

「さすが、幼馴染」


 華燐は、鳳堂家始まって以来の天才。その力で、自分達では対抗できない相手と戦って平和を護ってくれている。

 そんな華燐が、自分のせいで傷ついてしまったらどうしよう。

 それで、力が使えなくなり、自分から避けていくんじゃないか……不安だった。


「でも、今はこうやってまた息が切れるまで全力で遊べた」


 疲れた体を起こし、リリーは立ち上がる。


「華燐。楽しかった? あたしは、楽しかったよ」


 まだ倒れている華燐に近づいていき、手を差し伸べた。


「私も。当然、楽しかったよ。だって」


 差し伸べられた手を華燐は掴み、微笑む。


「大好きな幼馴染とこうやって全力で遊べたんだから」

「えへへ。照れちゃうなぁ……でも、あたしも大好きだよ。あ、当然幼馴染として」

「当然。リリーが本当に大好きなのは、刃太郎さんだもね」

「なっ!? なななななにをいきなりっ!?」

「なんで、照れちゃうの。本当、乙女だなぁ。リリーは」


 雪塗れになりながら本気でぶつかり合い、本気で遊んだことで、より一層二人の絆は深まった。

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