第十一話「クリスマスがやってきた」
そういえば、今日は丁度二十五日。まだ二ヶ月も先ですが、まるで狙ったかのように……偶然なんですがね。
「クーリスーマスが今年もやぁってきたぁ、なのです~」
「お前は、今年が初めてだろ? クリスマス」
昨日のクリスマスイヴから次の日。
まだまだ終わらない冬のイベント。
クリスマスが終わっても、大晦日や元旦などこの短い期間でラッシュのようにイベントがやってくる。まあ、これも一年の終わりと初めだからこそのラッシュなのだろう。
「気分なのですよ。さぁって! 今回も、気合が入った空間を作ったのです! 製作時間はなんと! 一週間もかかったのです! 前回のハロウィンの倍なのです~」
つまり、ハロウィンの時は三日半かかったってことか。
さてはて、今回はどんな感じなのか。
「お客様、今回の会場はこちらでーす」
そう言って、やる気のないミニスカサンタがやってきた。いつもだらだらと過ごしている割に、その抜群のスタイルは全然失われておらず、胸元を強調し肩を露出。
見ているこっちが寒くなるサンタコスでリフィルがはあっとため息を漏らす。
「もうちょっとやる気でないのか、お前は」
「無茶言わないでよー。このくそ寒い時期にこんな格好させられてるのよー。それに、あんただって知ってるでしょ? 今の時期は色んなところでクリスマスイベントをやっているのよ。周回しないとだめなのよ。早くゲームやりたいのよ」
うんうん、それはわかってる。わかっているとも。
まあなんだかんだ言って、普通にやっているところから考えるに。少しは楽しんでいる……わけじゃなさそうだな。
「サンタちゃ~ん。びしっとやってくださいなのです~」
「はい! お客様! 今回の会場はこちらでございやす!!」
「言葉遣いが違うのです!」
「はい!! すみませんした!!」
ニィ教官には逆らえないってところだな、これは。
そんなこんなで、俺は彼女達の聖域にあるハロウィンの時と同じで表札にクリスマスの文字。更に、クリスマスデコの扉が。
ハロウィンの時よりも本当に力入っているな。
「それでは、そろそろ時間なのです。お客様をお呼びするのですよ!」
気合と共に、ニィは次元ホールを同時発動させる。さすが神様だ。次元ホールを複数同時発動など人間には真似できないこと。
全盛期のロッサでもおそらく無理だろうな。
出現した次元ホールは三つ。
そこから現れるのは、ハロウィンの時のメンバーそのまま。いや、今回は新メンバーがいるか。
「うむ。今回も楽しみにしていたぞ、刃太郎くん」
「ああ。天宮家一同、これほど楽しみにしていたパーティーは久方ぶりだからな」
「メリークリスマス! 刃太郎お兄ちゃん!!」
「メリークリスマス。今回も可愛い衣装だな、コトミちゃん。それにコヨミも」
前回のハロウィン以上に気合が入っている天宮家。
卓哉さんとイズミさんはびしっと正装で決めており、コトミちゃんとコヨミはサンタコスで可愛らしく決めていた。
ちなみに持っている袋には、お菓子が入っている模様。
「今回は、どんなピンチが待っているんだ?!」
「もう、隆造さん。ヒーローごっこも程々にしてくださいね。今日は、クリスマスなのですから」
「お待たせしました、刃太郎さん」
「や、やっぱりこれは恥ずかしいよ、さくらぁ……」
「何を言っているんですか!? 見てください! そこかしこにサンタっ娘がいるんですよ! 恥ずかしがることなんてありません!!」
鳳堂家も相変わらずってところだな。隆造さんは、前回のハプニングが今回も起こるんじゃないのかと熱きヒーロー魂が疼いている模様。
一方、コスプレにはまっていると有名になっている御夜さんは、リフィルに負けない色気のあるサンタコスだ。
可愛い二人に、エロい二人。バランスが取られて良い感じだな。
あれ? そういえば、響と雪音さんは……それに、天宮家のほうはサシャーナさんがいないような。駿さんは、舞香さんや他の獣っ娘達と共に料理を作っているから先に会場にいるけど。
……そういうことか。
「メリークリスマスー!! プレゼントは私自身です!!!」
そう言って、コトミちゃんが持っていた袋の中から飛び出し抱きついてこようとするサシャーナさん。俺はすっと動きそれを回避する。
「なにをする」
「避けられてしまいました……」
背後にいたロッサに抱きつきながら、本気で落ち込んでいる。
そんなサシャーナさんをコトミちゃんとコヨミが本気で慰めている。サプライズのつもりだったようだ。確かに、お菓子だけが入っているにしては大きい袋だとは思っていたけど。
いや、それよりも仕える主の娘にやらせるってどうなんだ。
本人達はまったく気にしていないようだけど。
さて、ということは後は響と雪音さんだけだが……。
「どおおわぁっ!?」
「お?」
そろそろ出発する時間ギリギリのところで、次元ホールから転がるように出てくる響。
「逃がさないわよ、響くぅん!! 今日はクリスマス! そして、今の時期は雪女に最大の力を与える!! 完全復活した私は粘り強いんだからぁ……!」
「まだ続いていたのか……」
「マジ勘弁っすよ。なんだか日に日に力が強くなっているみたいで。もう手がつけられなくなってきているっす」
俺の後ろに隠れながら、響は狂人と化した雪音さんを見詰める。確かに、もう最初に聞いていた雪音さんは別人なんじゃないかと思うほどの元気っぷり。
隆造さんと静音さんも、なんだか温かい眼差し見守っているし。
「では、役者達が揃ったところで。今回の会場へと……ご案内なのです!!」
全員揃って、扉の向こうへ。
扉を潜ると、一気に寒気が襲う。
当たり前だ。
見渡す限りの雪景色。今年はまだ雪が降っていないので、皆大喜びだ。そんな雪景色の中に、一際輝き目立つ今回の会場。
前回はハロウィン仕様の城だったが。
「ち、小さくないか?」
「ほう。今回の会場は、所謂サンタの家、と言ったところか?」
そう。俺達の目の前にあるのは、城という大きな建物ではなく。絵本などで出てきそうな赤い屋根の家。煙突からもくもくと煙が出ており、律儀にサンタの家と表札があった。
どう考えても、この大人数が入れるような大きさじゃない。
しかし、そこは抜かりないだろう。
そう思った俺はニィを見る。
「ご心配いらないのです! 見た目は見た目! 中に入れば、あっ! と驚くのですよ。ささ、雪景色を楽しむのは後にして。会場に入るのですよ」
先陣を切り、ニィが数歩前に進む。
ハロウィンの時と同じく会場へと直接ワープするようだ。神様の言葉に、期待に胸を膨らませ会場に入場。
まずは温かい空気が俺達を包み込み、料理のおいしい匂いが腹の虫を刺激する。
ニィの言っていた通り、外見とは違いかなり広い空間が広がっていた。
だが、ハロウィンの時と違いどこか、落ち着く。自分の家にいるような雰囲気がある。
「ふいぃ……なんだか眠ってしまいそうですねぇ」
「私もぉ。このソファーで寝転がってそのまま……」
「二人とも。まだクリスマスは始まったばかりだよ。はい、起きて起きて」
「「ハッ!?」」
ハロウィンは、ちょっと不気味で騒がしいイメージだったが。クリスマスは、明るく皆でゆったり楽しむようなイメージがある。
ニィはそれを見事再現するように、この空間を作ったようだ。暖炉があり、普通にテレビもあり、普通にキッチンもある。
普通の家のリビングを純粋に広くした、そんな感じのところだ。
皆、自然と笑顔になっている。中には、すでにソファーや絨毯が敷かれた床に座り込んで話し合っている者達も。
「今回は、期待できそうだな」
「今回も、なのですよ」
そう言いたいところだけど、ハロウィンのことがあるからなぁ。ま、何もないことを祈って素直に楽しみとしようか。




