第十話「クリスマスに向けて」
同時投稿で、新連載があります。
現地主人公の異世界ものです。よろしければ、そちらのほうも評価、ブックマーク、感想等などをよろしくお願いいたします。
「えっと、大丈夫か? なんだか魂が抜けているような顔しているけど」
「はい……だ、大丈夫、です」
とても大丈夫のようには見えないんだが。
リリーとショッピングモールに買い物に来て、今は昼食時。ショッピングモールの中にある飲食店に入り、席に着いたところだ。
なんだか、あれからリリーの様子がおかしい。
やっぱり、体調が悪いんだろうか。
どっと疲れた様子で、大丈夫だと言っているけど、明らかに元気がない。やっぱり、あの時手を繋いで子供のように場から離れたのが原因だったんだろうか……。
ずっと俯いていたままだったし。
顔だって赤かった。
男に手を繋がれるのが恥ずかしかった、のかな。そういえば、同い年の女の子と手を繋ぐなんて初めてだったな。
結局帰還してからというもの、有奈とは手を繋いでいなかったし。コトミちゃんやコヨミは、年下だし。
ん? そういえば、今思えば歳が近い女の子とこうやって二人で買い物をしたり、飲食店に行くのって……デートじゃね?
……ハッ!? そうか。そういうことだったのか。
どうして、リリーが元気がないのかなんとなくだがわかった気がする。
「すまん、リリー。俺が悪かった」
「え? い、いきなり。どうしたんですか?」
いきなりの俺からの謝罪にリリーは首を傾げる。
だが、気づいてしまったからには言っておかなければならない。
「いや、これって所謂デート、だよな」
「へっ!?」
俺は、申し訳ない気持ちで、言葉を続けた。
「女の子にとって、デートっていうのは好きな人と一緒にするものだ」
「は、はい……」
俺が言葉を続ける度、リリーは緊張した様子で耳を傾けている。
「それが……俺なんかとデートをさせてしまって」
「……え?」
「本当にすまない。初デートはやっぱり、好きな人と行きたかったんだよな……」
「あ、いやあの。じ、刃太郎さん?」
リリーの声が聞こえるが、俺は止まらなかった。
本当に申し訳ない気持ちだったからだ。
「大丈夫だ。これは、練習。そう練習だと思ってくれ。本番は、本当に好きになった人と思いっきり楽しんでくれ。デート経験なんて、全然な俺じゃ役に立てるかどうかわからないけど。お前の力に、なってみせる!」
そう言って、俺はリリーを元気付けるため右手を両手で握り締めた。
「あ、あのですから」
「そうと決まれば、この後のことを考えないとな。結局午前中にプレゼントを選べ終えなかったわけだし。午後には」
そこからは、二人で午後の予定を話し合った。
昼食を食べた後は、俺が気になった店へと向かいそこで俺のプレゼントを購入。その後、リリーのプレゼントを二人で選び購入し、大体十四時頃にはショッピングモールを出る。
予定が決まった俺達はさっそく俺が気になった店へと向かった。
そこは、先ほど訪れたおもちゃやゲームなどが売られているところ。さっきは、ゲームコーナーしか見ることが出来なかったけど、
離れる時、これは! というものを発見したんだ。
「それじゃ、ちょっと買ってくるから、そこで待っていてくれるか?」
「はい。わかりました」
プレゼント交換用なので、どんなものを買うのかは秘密にしておくこと。ニィからは、そう言われていた。確かに、そのほうがより緊張感があるし、楽しめる。
「よし、これだな」
さっそく、目的のものを発見し俺はレジへとそれを持って行き包装をしてもらった。どんなものかわからないように……って言っていたけど、ちょっと大きめだから簡単に予想されてしまうかもな。
包装も終わり、リリーの元へと帰っていく。
しかし、そこには男に絡まれているリリーの姿があった。前にもこんなことがあったけど。あの時は、有奈や華燐も居たけど。
迂闊だった……この時期だとああいう奴が活発になるって絵里さんが言っていたっけ。
「すまん、待たせたな」
「ん? なんだ、おたく。まさか、この子の彼氏? うはっ! すっげぇ似合わねぇ! やっぱりさ、俺と一緒のほうが絶対楽しいって!」
「そ、そんなこと!!」
リリーが言い返そうとしたが、俺ははあっとため息を漏らしながら彼女の手を引いた。
「はいはい。そういうのいいから。ナンパもほどほどにしておけよ」
と、その場から立ち去ろうとするが肩を掴まれ止められる。
「ちょっと待てって。話はまだ」
しつこいな。また魔力で。
そう思った刹那。
「うおっ!?」
「ん?」
男が何もないところでいきなり転んだのだ。これは、チャンスだと思い俺達はその場から一気に離れていく。
(さっきの……霊力を感じた。やっぱり)
「あ、あの刃太郎さん」
「なんだ?」
手を繋いだまま、歩いているとリリーが若干落ち込んだ表情で呟く。
「ごめんなさい。ご迷惑ばかりおかけして……せっかく、貴重な時間を使ってまでお付き合いしてくださっているのに」
「別に迷惑だなんて思ってないって。それに、一緒に買い物をしようって頼んだのは俺だ」
「え? でも、お誘いしたのは」
確かに、誘ったのはリリーだ。
とはいえ、決断をしたのは俺のほう。それに、冷静に考えれば今のだって、その前のだって俺に原因があるのは明白。
それに。
「トラブルは慣れっこだ。そんなことよりも、しっかり握ってろよ。またあんな奴に絡まれないように俺が護ってやるから」
体温が上昇しているのか。
温かく小さなリリーを握り締め俺は笑う。
「……は、はい」
恥ずかしそうに返事をするも、リリーはしっかりと俺の手を握り返してくれた。それからは、リリーのプレゼントを買うためにショッピングモールの隅々まで移動し、予定していた時間ギリギリでようやく決まった。
お互いにプレゼントを買い、満足したところでショッピングモールを出る。
この後の予定は全然決まっていないが……せっかくだしもう少し二人で街を歩くことにした。
「今日は、ありがとうございました。おかげで、プレゼントを選ぶことができました!」
「いや、それはこっちの台詞だ。もし、リリーに誘われていなかったらこれを買うことはなかったと思う」
「そ、それは言い過ぎですよぉ……!」
「いやいや。本当にリリーのおかげだって!」
「は、恥ずかしくなるからそれ以上言わないでくださいぃ……!!」
ははは、可愛い反応するなリリーは。
異性とデートをするっていうのは、こういう感じで良いんだろうか。異世界では、結局こういう経験をしなかったからなぁ。
いや、したけど。あの時は、すでにナナミに好きな人がいるってことを理解した時だったからデートって感じはしなかった。
リリアとだって、デートと言うよりもリリアに付き合わされていた、て感じだったし。
「そうだ、この後だけど」
喫茶店にでも寄って、明日のクリスマスパーティーのことを話し合おう。そう提案しようとした時だった。
「じ、刃太郎さーん!!!」
目の前から、全速力で近づいてくる響の姿が見えた。
その後ろには、雪音さんがだらしない表情で逃げる響を追いかけている。そんな光景を見た瞬間、あっと思い出した。
「ひ、ひどいっすよ!! 俺との約束を忘れるなんて!?」
「あ、いや。でもほら? あんなにも愛してくれているんだから、それを受け止めれば」
「無理っす!! 受け止めたら、確実に凍らされて永遠のものにされてしまいますよ!?」
さ、さすがにそれはないと思うが。
「響くぅーん!! そんな必死に逃げなくても、お姉さんが優しく愛してあげるからぁ!!!」
「氷付けにするのが優しくなのか!? ふざけるな!! じ、刃太郎さん! お願いします!!」
俺の背に隠れる響に対して、俺はどうしたらいいんだろうと頬を掻く。
「はあ……! はあ……! あ、あなたは私達の愛を邪魔すると言うのですか!? でしたら、容赦しませんことよぉ!!!」
やばい、霊力が上がっている。
周りに居る人達も、今よりも断然寒くなったことに驚き、近くの店に逃げ込んだり自分の息で温め始めている。
「もう! 響!! せっかくいい雰囲気だったのに!」
「そうだよ! 邪魔しちゃだめだよ!!」
そんな時だった。有奈と華燐が突如として怒りながら姿を現す。
やっぱり、俺達のことをつけていたんだな。
「え? いや、俺は!」
「いいから! 雪音さん。弟のことお願いしますね」
そう言って、響の首根っこを掴み、雪音さんの前に突き出す。
瞬間。
獲物を捕らえた獣のように、目を怪しく光らせた。
「任せて! ふふふ……今夜は寝かせないわよ、響くん」
「ふ、ふざけるなぁ!! 俺はまだ死にたくねぇ!!!」
「待ちなさーい!!」
響……すまん。強く生きろ……さて。
逃げ去っていく響の姿を見送った後、俺はそろーっと逃げていく有奈と華燐に声をかける。さすがに、こんなにはっきり姿を見せてしまっては、俺も見逃すわけがない。
「ずっと、つけていたんだな。二人とも」
「う、うん……」
「さっき、リリーに絡んできた男を転ばせたのは」
「わ、私です……」
やっぱりそうだったか。まあ、別に俺は怒っているわけじゃない。二人だって、友達であるリリーのことが心配でやったことなんだろう。
俯いている二人に対して、俺はぽんっと頭に手を置く。
「まあ、外で話すのもなんだし、近くの喫茶店にでも行こうぜ。今日は、俺が奢ってやる」
「やっ! ……ご、ごめんお兄ちゃん。この近くの喫茶店はちょっと」
「ほ、他のところじゃ、だめですか?」
「別にいいけど……」
なんでなんだろうか。あ、そういえばこの近くの喫茶店って、初めて二人の気配を感じたところだったな。同じ店に連続で訪れるのは抵抗があるってことなんだろうか。
そういうことなら、仕方ないな。
「というわけで。これから、四人で明日のクリスマスパーティーについて話し合うけど。いいか?」
「はい。もちろん、大丈夫です。皆のほうが、楽しいですから」
リリーのいい笑顔を記憶に焼付けたところで、俺達は四人仲良く歩き出した。




