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第三話「その後の雪女」

 あれから早くも五日が経った。

 何事もなく、本当に平和な日常が続いている。今日は、華燐とリリーが遊びに来る日。どうやら、華燐から色々と報告があるようだ。


「報告ってなんだろうね? お兄ちゃん」

「華燐からってことは、やっぱり霊関係……もしかしたら、この前の雪女についてかもな」


 俺達と別れてから、華燐と響は依頼で雪山の奥へと姿を消していった。あの時は、ただ無事に依頼は達成したとしか聞いていなかったけど。

 今回はそれに関係することなのだと俺は睨んでいる。


「お邪魔します!!」

「お邪魔します。遅れてすみません」


 噂をすれば。

 コーヒーや紅茶。茶菓子などを用意して、俺達は最初日常的な会話を楽しんだ。最近こんなことがあったな、とかもうちょっとで今年も終わるなぁとかな。

 そして、用意された飲み物が半分ほどを減ったところで、華燐が切り出した。


「実は、今鳳堂で生活をしている雪女の雪音さんのことなんですけど」

「あぁ、響から聞いてるぞ。今は、霊力の抑え方や人間界で暮らすためのルールとかを教えているんだろ?」

「はい。妖怪などのこの世ならざる者達には、人間に危害を加えないと約束してくれるのならば、こちらも協力を惜しまないことにしているので。雪音さんも順調に霊力を抑えるのがうまくなってきていますし、元から基礎知識は完璧な人だったので、ルール関係も問題はありませんね」


 霊力を抑える道具があるが、それに頼りっきりでは道具がなくなった場合の対処ができなかったら大変なことになる。

 咲子のようなハーフは、やはり力を抑えるのは容易ではないようで、知っての通りまだ道具に頼りっぱなしだ。それでも、なんとか道具に頼らず力を押さえ込めるように努力は続けているとか。


「それにしても、本当に雪女って居たんだね……」

「そりゃあ、うん。私達も、色んな経験したから。なんとなくいるんじゃないかなぁとは思っていたけど」


 しかも、天狗や河童などもいるんだよな。

 もしかすると、世界で有名なあんな奴らとかそんな奴らも探せば本当にいるかもしれない。ま、そんなことをしたら世界が大騒ぎになりかねないけど。


「それで? 今はどんな感じなんだ。そろそろ独り立ちできそうなのか?」

「それがですね……ふふっ」


 なんだ? 華燐が話の途中で意味ありな笑いをするなんて珍しいな。


「なになに? どうしたの、華燐」

「気になるから、早く早く!!」

「うん。実は、雪音さん。響に惚れちゃったらしいの」


 ……なん、だと? 驚愕の事実に、俺はもちろんのこと、有奈やリリーも一瞬硬直してしまう。が、近くに居たニィがおめでとうなのです~っと拍手をしたところでハッと我に帰る。


「そ、それで!! どうなったの!?」

「うんうん。どうなったの? 華燐!」


 さすが、女子高生。

 食いつきが半端ない。


「響は、ただ一番に発見したからって理由で責任っていうのかな。最後まで、独り立ちするまで世話をするって思っていたらしいんだけど」

「それが、雪音さんを惚れさせることになってしまった、てことだね!」

「確かに、響くんってちょっとヤンキーな見た目だけど、料理もできるしなんだかんだで優しいし」


 しかも、聞いたところ雪音さんは日本でも数が少なくなっている雪女の生き残り。

 子孫を残さないと必死だったらしいな。

 響と会った時も、男だとわかって襲い掛かってきたらしいし。それが、今では普通に惚れてしまっているのか……。


「それで、お母さんんが撮った映像があるんだけど」

「静音さんが?」


 どんな映像なんだろうと、舞香さんやニィ、リフィルも加えてテレビの前に集合。

 再生ボタンを押し、映像が流れる。

 そこに映っていたのは……。


『響くーん!! お姉さんといいことしましょうよー!!!』

『だー!!! だから、やらねぇって言ったんだろうが!?』


 聞いていた話とまったく違う性格をした雪音さんが、響に襲い掛かっているところだった。


「オネショタってやつね」

「でも、確かこの雪音って子。かなりの歳なんでしょ?」

「じゃあ、オバショタ?」

「でもそれだと、なんだか違う気がするのよねぇ……やっぱりオネショタのほうがしっくりかしら?」


 舞香さんとリフィルはいきなり何を言い出すんだ。まあ、意味を知っているから普通に聞いていられるけど。

 オネショタ。所謂、年上の女性が、年下の少年を襲うっていうか好きになる? いや、悪戯する……俺も詳細はよくわかっていないが、そんな感じの意味合いだと記憶している。

 でも、響はそこまでショタではないように見えるんだけどな。

 それよりもだ。


「なあ、雪音さん。なんだか性格変わってないか?」

「うん、あたしもそう思った。聞いていた話だと、なんだか清楚でちょっと臆病な感じだって」


 それが今観ている映像では、まるで肉食女子が如く響を襲っている。響も必死に、抵抗をしているみたいだが、謎の押しの強さに圧倒されていた。


「発見した時は、ひどく弱っていたっていうか。必死で余裕がなかったみたい」

「なるほど。それが、今では完全に回復して、普段通りハッスルしちゃっているということなのですね。私もハッスルするのですー!!」


 と、突然抱きついて、頬同士をすりすりと擦り合わせてくるニィ。


「やめい」

「あうん」


 視聴の邪魔になるので、すぐに引き剥がすと素直に大人しくなってくれた。


「静音さんも、随分と楽しそうねぇ。ほら、見て。親指を立てているわ」


 舞香さんの言う通り、静音さんは息子が襲われているというのに親指を立てている。というよりも、カメラを回している時点でなんとなく察してはいたけど。


『はあ……! はあ……!! さあ、響くん。子供は何人がいいかしら? やっぱり野球選手が作れるぐらいが良いわよね!!』

『なんのことだ! いいから退けっての!! って、つめた!?』


 逃れようとしたが、響の手足が氷付けになって身動きが取れなくなっていた。そして、そのまま雪音さんは着物を脱ぎ捨てようと手をかける。

 おっと、このままではR18になってしまうぞ。静音さん! 映像加工は大丈夫なんですか!? と有奈やリリーも釘付けになっているので、俺はリモコンを手に取り消そうとしたが。


『おらあ!!』

『ひゃんっ!?』


 霊力を開放して、氷を砕き、雪音さんを吹き飛ばして一目散に逃げ出す響。よかった……とリモコンから手を放す。


『待ってぇ!! 響くーん!! 逃がさないわよぉ!!!』


 映像は、静音さんが映り以上でーすと笑顔を最後に終わった。


「……大変だな、響」

「家族はすごく楽しそうにしていました……」

「でも、もし響くんと雪音さんが結婚した場合どうなるんだろう。やっぱり雪音さんが嫁入りして、鳳堂雪音になるのかな?」

「名前の響き的に、静音さんと似ているから違和感はないわね」


 しかし、俺は考えた。本来、雪音さんは響とはまったく逆。むしろ出会いが違ったら戦い合う相手だった。それが、結婚するというのは、よくあることなのだろうか。

 ヴィスターラでは、そういう異種族との結婚は普通だったみたいだけど……いや、啓二さんと景子さんの例があるからな。


「……あたしも、本腰を入れないと」

「本腰?」

「いいい、いえ! なんでもないです!! あははは!!」


 なんだったんだろうか。何か意味あり気なことを言っていたようだが。


「あ、そろそろお昼なのです。皆、今日はラーメンなのです!」


 そういえば、昨日から色々と仕込んでいたっけ。


「ちなみに麺は私が作ったわ。いやぁ、腰が逝っちゃうかと思ったわ」

「しかも、スープも特性! 特別にヴィスターラから取り寄せた食材を使っているのです!!」

「ヴィスターラから? いったいどんなものを使ったんだ?」


 俺の問いかけに、ニィは楽しそうに食材のひとつを取り出した。


「例えば……これなのです!! ヒトダーラ!!」

「ひっ!?」

「そ、それを入れたんですか!?」


 有奈達が、怯えるのも無理はない。出てきたのは、ちょうちんあんこうのようなちょうちん部分に目玉がある紫色をした不気味な魚。

 しかも、ぴちぴちとまだ生きているのをニィは鷲掴みしている。


「見た目は不気味でも、かなりいい出汁が取れるのです! 食べてみればわかるのですよ! ささ! テーブルについて待ってるのですー!」


 俺も、若干引いてしまったが。結局、食べてみたらかなりおいしくておかわりをしてしまった。

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