第二十五話「迷宮を抜け出せ」
つい先日、この作品の累計PVが三百万を突破致しました。
それに、後一話ほどで累計文字数が四十万を突破しようとしています。これからも、皆様に長らくご愛読頂けれるように投稿し続けていこうと思いますので、これからもスタイリッシュ警備員の作品をよろしくお願い致します。
『速い! 速いぞ!! これが人間の走る速度!? もはや、オリンピックで金メダルを簡単に獲得できるほどの速度で、迷宮を駆け回っています! 行き止まりに行こうとも即座にUターン! 何事も無かったかのように次々に新たな道を見つけ出す! これが、勇者と魔帝の戦いだというのでしょうか!?』
『あの程度なら、二人にとっては余裕なのです。まあ、魔帝さんのほうは全盛期よりも大分力が落ちているので、少々遅いようにも感じるのです』
第四試練は、レースだ。それぞれのコースを走り、それぞれのコースにあるボタンを押していく。第一コースが始まってから一分。
チラッと腕に装着してある時計を確認。
この第一コースで俺が押すべきボタンは、六つ。そして、すでに四つは押してある。なので、残り二つを押して第二のコースへと向かう道を見つけ出さなければならない。
ロッサよりも先に。次の走者である華燐へとバトンタッチを果たさなければ。
「あそこは、通った。こっちだ!」
それにしても、さすが後半の試練だ。第一コース目からかなりの難易度。しかも、俺の目がおかしくなければこの迷宮。
少しずつではあるが、道が変化している。
しかも、各々で迷宮を攻略しつつ、ボタンを押さなければならないため、相手の様子はサシャーナさんの実況頼り。
魔力を察知しようとしたが、案の定それを阻止する結界が張られているようだ。
「よし! これで五つ目!」
『刃太郎選手! 五つ目のボタンを押しました! 対して、ロッサ選手は四つ! なんとか喰らいついていますが、刃太郎選手のほうが優勢です!!』
このまま六つ目のボタンを押して、俺が先に突破してみせる!
そんな意気込みと共に右に曲がったところで、ちょっとイラッとするものを発見。
「……」
だが、ぐっと堪え俺は次の道を探しに走り出す。
そこには、オージオのお遊びで仕掛けたのだろう行き止まりに辿り着いた走者を小馬鹿にする絵が描かれていた。
それからというもの、行き止まりに差し掛かる度にその絵が出現。
少しずつではあるが、馬鹿にする内容も変わってきている。
無駄に絵がうまいところが、またイラッとくる。
あのおっさん、子供っぽいところがあるからな……あれで、世界を創った創造神だって言うんだから信じられない。
とはいえ、力は本物で、ニィ達からもしっかりと慕われているわけで……。
『おっと! 刃太郎選手が最後のボタンを見つけ出すのに苦戦している間に、ロッサ選手五つ目のボタンを押しましたぁ!!』
「さすがに、速いな。だけど、俺も負けていられない」
俺達が押しているボタンは、力強く押す必要はないようだ。少しだけ触れるだけで反応する。だからこそ、少し触れ素早く次のボタンを探しにいける。
六つ目……こっちは、行ったか。
考えるんだ。
そして、感覚を研ぎ澄ませろ。これまで、見てきた道はどう変化していた? それを頭に入れて、導き出せ俺。
「こっち!」
丁度道が変化した瞬間、そこへと飛び込む。
走り出した向こうには、念願の六つ目のボタンを発見。奥へと行っている暇はない。俺は魔力の塊を作り出しそれをボタンへと発射する。
見事に命中し、ボタンは輝いた。
『ついに刃太郎選手、全てのボタンを押しました! さあ、後は迷宮の出口を見つけ出し第二走者へとバトンタッチをするだけ!! そして、ロッサ選手は追いつけるのでしょうか!?』
「負けるかあぁああッ!!」
どこからともなく、ロッサの声が響き渡る。
残念だが、このまま早々に出口を見つけ出し、おさらばだ。
全てのボタンを押すまで、大体四分。
このまま出口を見つけ出し、華燐にバトンタッチをするとなると五分ってところか。いや、一分すら遅い。もっと速く出口を見つけ出さなければ。
ボタンを全て押したが、迷宮はまだまだ変化し続けている。
だがもうこれには慣れた。
相手に対して魔力察知などはできないようだが、魔法が、魔力が使えないわけではない。なので、通る道毎に俺は魔力を残してきている。
もし、その魔力の反応が移動したらそこは道が変化したことになる。とはいえ、俺もそこまで察知系が得意なわけではないので、数が限られる。
なので、そこは速度で補っていた。有り余った体力と魔力で身体能力を底上げしてサシャーナさんもびっくりするほどの速度で迷宮を駆け回っていたのだ。
「ん? 壁の色が……」
出口を目指し更に迷宮を駆け回っていたが、いつの間にか壁の色が変化していた。今までは茶色だったが今は、薄い茶色。
まさか、出口に近づいている? それとも新たなギミックなのか?
迷宮を駆け回っていたおかげか、今自分がいる場所が新たなエリアのような感覚がある。
「っと、そうこう考えているうちにあからさまな扉を発見!」
何かを填め込むくぼみがある扉を発見。
明らかに、俺達が装着している時計の形だよな。俺は、そのくぼみに腕に装着したまま時計を填め込んでみた。
すると、ぴぴぴっと何かをスキャンするような機械音が鳴り、開錠。
自動的に扉は開き、その先は壁がない真っ直ぐな道だった。
やっと出られたか。
『ロッサ選手! 六つ目のボタンを押し出口を探しに走り出す! ですが、すでに刃太郎選手は出口を見つけ出してしまっています! 一歩遅かったぁ!』
「じゃあな、ロッサ! 今回の勝負俺の勝ちってことで!!」
俺は、迷宮とロッサに別れを告げ華燐のところまで走り出した。
「おのれえええっ!! 次は負けぬぞおおおおッ!!!」
・・・☆・・・
第二コースでは、今か今かと第一走者の到着を華燐とアデルトが待っていた。開始から、もうすぐ五分が経とうとしている。
五分など、大きめのカップ麺にお湯を入れて待っている時間。
短いようで長い待ち時間の中、華燐とアデルトはこちらに向かってくる人影を目視した。バルトロッサか? いやそれにしては大きい。
あの人影は……。
「刃太郎さん!!」
「待たせたな! 華燐!! 後は頼んだぞ!!」
余裕の表情で、一人駆けてくる刃太郎。
後ろには、まだバルトロッサの姿はない。ということは、バルトロッサと大差をつけて迷宮を抜けてきたということ。
「はい! このまま大差をつけて有奈に繋げてみせます!!」
バトンタッチ。
パン! と気持ちのいい音を響かせ、華燐は第二コースを走り出す。第二コースは坂道と言っていたが、確かにここから少し走ったところに急な坂道が見える。
「さすがですね、刃太郎先輩」
華燐が走り出すところを、アデルトはただただ見詰めていた。その堂々とした立ち方には、まだ追いつけるという自信が満ちている。
「総合的な身体能力はこっちが下だからな。あいつも頑張っていたみたいだけど、今回も俺の勝ちだ」
「とはいえ、まだ追いつける距離です。一分ぐらいの差がついても……追いついてみせますよ」
だがすでに、華燐は坂道に辿り着き上り始めている。
ここから見える限りでは、かなりの急な坂道。その急な坂道を上りつつも、ボタンを押していく。だが、肝心のボタンはここからでは見えない。
まさか、途中から出てくるのか? そうこう考えていると、背後から気配を感じた。
アデルトは、小さく笑い振り向く。
「刃太郎!!」
「俺じゃなくて、さっさとアデルにバトンタッチしろ馬鹿」
到着したと思いきや、すぐに刃太郎の目の前で止まり睨みつける。こっちもバトンタッチをするつもりで手を挙げていたのだが、軽くスルーされてしまい苦笑いをするアデルト。
「……ふう、そうであったな。アデルトよ。必ず追いつけ。いや、追い越せ。我らの勝利のために」
「やってみせますよ。もう負けられませんから!!」
パン! と互いに叩きつけるようにハイタッチ。
目つきをより一層鋭くし、アデルトは走り出した。その速度は、まるで弾丸。あっという間にその背中は小さくなってしまった。




