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第二十四話「走れ、そして押せ」

「だ、大丈夫だった? お兄ちゃん」

「ああ。お前が優しく踏んでくれたおかげで大したことない。だが、その後に本気で踏んできた奴らの分は危なかった……」


 第三の試練を見事? 勝利し俺達地球チームは二勝した。次の第四の試練で勝利すれば、俺達地球チームがこの異世界交流バトルの勝利チームとなる。

 より一層油断せず挑まなければならない。

 そして、その第四の試練会場へと移動途中。有奈は先ほどのことを気にしているようで、顔を覗いてくる。


 まあ、有奈の踏みつけは優しかったから良いんだ。

 むしろ、こんな体験なんてしたことがないからな。貴重な体験をした。お互いにな。そこまではよかったのだが、ニィの奴がなぜかロッサと二人仲良く俺の顔を踏みつけようとしてきたのだ。

 ニィはともかく、ロッサのあの強さは確実に頭を砕きにきていた強さ。


「ありっちばかりずるいのですー。私も刃くんを踏みつけてみたいのですよー!」

「俺にそんな趣味は無い。遠慮しておく」

「遠慮するな。我は、知っているぞ。女子に踏まれて悦びを覚える変態が、こっちの世界にもいることはな」


 こっちの世界。

 つまりヴィスターラ、もしくは魔界にもそういう趣味の奴がいるってことか。こっちの世界は、どうなんだろうか? よく二次元では出てくるけど現実では見た事が無いなぁ。


「ふざけるな。お前のあれは、確実に悦ぶ暇も無く頭蓋骨が砕ける強さだったぞ」

「貴様も勇者だ。多少強めでも、大丈夫だと踏んだのだ。それを避けるとは……やはり、貴様は妹でなければ駄目の変態シスコンなのか?」

「おいおい。負ける一歩手前だから、俺を煽っているのか? 残念だが、今の俺はそんな挑発に乗るつもりはねぇよ」

「なに、我も挑発しているつもりなどない。そもそもここから一気に二勝を収め、大逆転をすることになっているから問題は無い」


 それはそれは。じゃあ、その大逆転とやらを俺達は全力で阻止してやるとするか。


「もう少しで第四の試練会場に到着致します! なので、その前にこれを腕にお付けください」


 そう言って、俺達に渡してきたのは腕時計のようなものだった。言われるがままに、俺達は腕に装着。次の試練に必要なものなんだろうが。

 まさか次は、タイムを計る、という試練じゃないだろうな。

 今までが今までだからな、かなり変則的な内容になることは明らか。


「リリー。もう気持ちの整理はできた?」

「うん。完璧だよ。次の試練では、冷静に。でも熱く! 地球チームのために活躍してみせるから!」

「頑張ろうね、リリーちゃん。三勝まで後一勝だよ!」

「当然! 今のあたし達はノリにのってるぞー!!」


 いい感じだ。この調子なら、次の試練も勝利を掴み取れそうだ。でも、あっちはあっちで静かに燃えているみたいだな。

 闘志がびんびん伝わってくるぞ。


「到着でーす!! ここが第四の試練会場。通称」

「走れ! そして押せ!! 爆走チームレース会場! なのです~」


 重くでかい扉が開くと、そこは。


「壁?」


 レンガのようなもので出来た壁が囲むところだった。爆走チームレースってことは、バトンタッチをしながらゴールを目指すってことだよな。

 だけど、目の前にあるのは壁。……いや、よく見れば道がある。

 まさかこの作りって。


「もしかして、ここは迷宮ですか?」

『その通りです!』


 小型の飛行艇のようなものに乗って、休めた喉で叫ぶサシャーナさん。


『今回の試練は、チーム一人一人が走り、このようなボタンを押していき、最終的にゴールのボタンを押したチームの勝利! ちなみにボタンを全部押さない限り、ゴールのボタンまでの道は開かれない仕様になっておりますので、必ずボタンは全部押してください!!』


 これはまためんどいものを。

 つまり、最初の走者はこの迷宮内を駆け巡りながらボタンを全部押して、次の走者のところまで辿り着かなければならないってことか。

 もし、最速で最終ゴールまで言っても、ボタンの押し忘れがあった場合と辿り着けない。


「あの、質問いいですか?」


 と、さっそくナナミが挙手。


『はいどーぞ!』

「ボタンの数とかは、わかるようになっているんですか?」

『はい、わかるようになっていますよ。走者の順番を決めた後、その番号を事前にお渡しした時計に設定するとその走者が押すボタンの数が表示されます』

「私も質問いいですか?」


 次は、有奈が挙手。

 この試練で勝てば俺達は三勝。念入りに質問をして確認は怠らないようにしないとな。


『はいはい、どうぞ!』

「走るコースは、この迷宮だけなんですか?」

『他にもありますよー。第一コースは迷宮。第二コースは坂道。第三コースはぬるぬる。最終コースはジグザグとなっております!』

「だ、第三コースだけなんだか異質な気がする……」


 こう考えると最初と第三コースが中々の難関だろうな。

 とはいえ、なんだかんだで最終コースは一番簡単ってこともありえるかもだし……。


『他に質問のある方はおりますかー? いないのであるなら、走者の順番をお決めになってください!!』


 そんなこんなで、各チーム距離を取って走者の順番を決めることになった。

 さて、順番をどうするか。

 どれだけ体力があるか、走る早さには自信があるかなどをまず一人ずつ聞いてから決めるのが一番だろうが、またヴィスターラに有利そうな試練が来たな。

 第二の試練のようにならないように、じっくり考えて決めないと。


「あ、あの!」

「どうした? リリー」


 そんな時だった。リリーが、決意の篭った瞳で手を挙げる。


「最後の走者、あたしがやってもいいですか?」

「リリー?」

「やっぱり、第二の試練はあたしの失態で負けちゃったと思っているんです」

「いや、それは」


 違うぞ。そう言おうと思ったが、リリーは首を横に振る。


「わかっています。でも、やりたいんです。今度こそ、全力でそして最速で走り抜けて、最後の一勝を掴み取りたいんです」


 本来ならば、身体能力から考えれば、最後は俺か華燐のどちらかにするのほうがいいのだろう。だが、俺はリリーの決意にやられた。

 小さく笑い、わかったっと頷く。


「最終走者はお前に任せる」

「あ、ありがとうございます!!」

「でも、それでもし負けたらお仕置きだ」

「お、お仕置き……それは、嬉しい……いえ! お仕置きされないように頑張ります!!」


 なにやら、途中聞いてはならないような言葉が聞こえたような気がしたが、気のせいだと思おう。耳が良いとこういうところが不便だよな。


「それじゃ、残りの走者だけど」


 リリーを最終走者と決めてから、俺達は第一走者、第二走者、第三走者と順調に決めていき、ヴィスターラチームとほぼ同時に最初の場所に集まった。


『どうやらお決まりになったようですね。では、まず第一走者の人挙手をお願い致します!!』


 第一走者は……俺とロッサになった。

 まあ予想通り、と言ったところか。

 そして、第二走者は華燐とアデル。第三走者は有奈とリリアとなり。


『最後に、最終走者の方々! 挙手を!!』


 最終走者はリリーとナナミになった。これは、第二の試練の対戦カード。リリーは静かに、ナナミを見詰め唇を噛み締める。

 その負けないという闘志が伝わったのか、ナナミは首を縦に振る。


『では、走者も決まりましたし。第一走者の二人以外は、こちらにお乗りになってくださーい! それぞれのスタート地点までお運び致しまーす!!』


 上から降りてきたのは、サシャーナさんが乗っているような小型の飛行艇。俺とロッサ以外の走者達は、次々に飛行艇に乗っていく。

 残された俺達は、じっと迷宮の奥を見詰めていた。


「この勝負と次の勝負、簡単には勝たせぬぞ」

「残念だったな。この勝負は俺達の勝ちで、次の勝負なんてないぞ? 魔帝」

「そうか。どうやら、我と貴様の見ている未来は違うようだな。勇者よ」

「ああ。俺に見えているのは、地球チームの勝利だ」


 淡々と言葉のぶつけ合いをして一分半ほどが経ち、再びサシャーナさんの声が響き渡る。


『お待たせしました! 第一走者のお二人とも! 準備は万端のようですね!』

「もちろんですよ」

「今か今かと体がうずうずしているぞ」

『いいですねぇ。では、さっそく第四の試練を開始したいと思います! 走れ! そして押せ!! 爆走チームレース!! 位置について! よーい!!』


 ぐっと足に力を入れる。この第一コース……最速で抜けてみせる。後に続く、皆のために。少しでも、有利になるように。


『スタートです!!!』


 やってみせるさ。勇者の名にかけて!

そろそろ新作を投稿してみようかな……。

そんなことを一ヶ月前から思って、ちょいちょい書き溜めはしているんですよね。とりあえず、投稿するにしても十分予約投稿ができるまで、書き溜めてからですかね。

エタらないために。


あっ。この作品はまだまだ続きますので。ご心配なく。

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