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第二十三話「これは試練なのか?」

 あれから、そう有奈と華燐がキスをしてから、無言の神経衰弱を続いた。そんな無言の時が続き、両チーム七組ほどになってきたところで、動きがあった。


「うっ……試練カード」


 リリアがクラブの七を捲った後に、試練カードを捲った。リフィルは、その試練カードを受け取り内容を読み上げる。


「試練内容。電流パットを両肩に張り、一緒に捲った数字分のレベル、秒数で耐える」

「で、電流パット? なんだか嫌な予感が……」


 すると、リフィルと同じくバーテンダー風の格好をした御夜さんがとある機械を持ってくる。薄い布のようなものが線で繋がっている機械。

 あー、なんだか見たことあるなあれ。


「はい。これを肩に張ってね」

「は、はい。あの、失礼しますね」

「わ、わかりました。私も覚悟は決めていますから」

「怖がることは無いわ。これ結構効くわよ? 肩こりとかすっごく楽になるから」

「肩こりですか?」


 別に悪気があったわけではないのだろうが、リフィルはリリアの胸を見てあっと声を漏らす。当然のように、リリアもどういう意味の声だったのかを察し、小さく笑う。


「べ、別にいいんですよ。胸なんてなくて。それに、人並みにはありますから。め、メロンパンぐらい」


 全然気にしてないし、と呟きながら体操服のファスナーを下げて、肩を露出させる。ちなみに、リリアはブラジャーではなくタンクトップを着用していた。

 まあこれは、出会った時から変わっていないようだな。


「ほう。それぐらいならば、我もあるぞ」

「え!?」


 そういえば、あいつ小さい体の割にはあるほうだよな。

 リリアは、肩に白い布を張られながらロッサの胸をじっと見詰め両手を構える。


「触ってもいいですか?」

「別にいいぞ」


 いいんかい。まあ、あいつは中身が男だし、相手は女子ということもあって全然恥ずかしくも無いのだろうな。

 優しく、包み込むようにロッサの胸を触り、しばらく感触を確かめた後、リリアは静かに天井を見上げた。


「……お、同じぐらいだった」


 と、小さく呟く。

 なんてことだ。まさか、胸のサイズがロッサと同じぐらいだったなんて。だが、落ち込むことは無い。ロッサは魔族だ。

 しかも、今の体が一体どれくらいの年齢なのか謎のまま。それに、お前は小さくなんてない。美乳だと思えば良いんだ。


「あ、あのそろそろ良いでしょうか?」


 電流を流す準備が出来ていた御夜さんは、落ち込んでいるリリアの後ろでずっと待機していた。


「はい……いつでも」

「そ、それでは一緒に捲った数字は七だったので、電流レベル七で七秒間になりますけど……」


 ちらっとリフィルを見る御夜さん。

 その視線からは、本当に大丈夫なのか? と言っているように見える。おそらく、電流レベル七というのはかなりやばいのか。

 トランプの数字が十三まであることを考えれば、大体真ん中辺りの強さ。有奈と華燐のキスもそうだったが、なぜか一桁の秒数なのに、すごく長く感じた。


「いいんですよ、御夜さん。私はもう覚悟を決めました。これも、神々が与えし試練。シスターとして、与えられた試練はきっちりと」

「ほい」

「あひぃッ!?」


 淡々とシスターらしい言葉を語っていたが、ロッサがスイッチオン。リリアは、ちょっと下品な悲鳴を上げながら体を大きく震わせた。


「あ、あああなた!! いきなり何をするんですかぁっ!?」

「いつまで経ってもやらないからだ」

「お、覚えて、おきなさい……あひぃっ!?」


 その後、無事? 試練を乗り越えたリリアは試練カードを手に入れ、華燐の番になった。そこから更に、一周し華燐の番で。


「し、試練カード……」


 次は華燐が試練カードを捲ってしまった。今の状況的には、こっちが勝っている。地球チームが十組と試練カード一枚。

 対して、ヴィスターラチームは八組と試練カード一枚。ここで、更に試練カードを手に入れられれば十二組になり、シャッフル。

 また捲りなおしになるので、勝利が見えてくるが。


「か、華燐」

「うん。わかってる」


 問題は、試練内容と一緒に捲る数字。まだ、試練内容は公開されていない。リフィルが先に試練カードを受け取り、華燐がもう一枚のカードを捲るまで待っているのだ。

 緊張の一枚。

 華燐が捲った数字は……クラブの二だった。それを見て、まずほっと胸を撫で下ろす華燐。となると、後は試練内容だが。


「じゃあ、試練内容を発表するわ」


 ちなみに、試練カードはただ試練と書かれていただけで、どんな内容なのかはわかっていない。ただ、リフィルに渡った瞬間、カードの表示が変わる仕様になっているんだろう。


「まあこれは比較的優しい試練ね」


 ほう、それなら若干安心するな。しかも、それが二という低い数字だ。これは、俺達に波が来ている。


「プレイヤーの嫌いな食べ物を、一緒に捲った数字分だけ食べるって試練よ。華燐、あんた嫌いな食べ物あるわよね?」

「え? はい、一応ありますけど」


 完璧そうに見えても、やはり華燐も人間。嫌いな食べ物のひとつや二つ普通にあるらしい。リフィルが、指を擦ると御夜さんが高級料理とかがよく入っている銀色のあれを持ってきた。

 それを華燐の目の前に置き、開けた。


「うっ」

「か、華燐ちゃん。嫌だったら、食べなくて良いんだからね?」


 姉として、妹のことを心配している。あの反応……相当嫌いなものなんだろう。えっと、ちょっと華燐が陰になって見えないな。 

 どれどれ。


「……なめこ?」


 そこには、俺達がよく知っているなめこが皿の上に二つ置いてあった。


「む、昔聞いた事があります。華燐がまだ小学生の頃。巨大ななめこの集団に襲われてからというもの、トラウマになっているって……」


 なんだよ、巨大ななめこの集団って……だが、リリーの話が本当なら、あの御夜さんの心配ようもわかる気がする。

 当然、すぐに嫌いな食べ物を出してきたリフィルはそのことを知っているはず。だが、これは試練。心を鬼にして見守っているんだろう。

 華燐は、ごくりと喉を鳴らし、箸で二つのなめこを同時に掴み取る。

 何かの気配を感じると思い、スロットマシンの陰を見ると今まで姿が見えなかった弟の響がなぜかシェフっぽい格好をして心配そうな表情で隠れていた。


「大丈夫……あれからもう何年も経っているんだから」


 意を決し、華燐はなめこを口に入れる。瞬間、体が震えるが我慢してなめこを噛んでいく。正直、俺もぬるっとしたものとかは得意じゃないんだよな。

 華燐の場合は、それに加えて昔のトラウマがあるから相当きついはず。まさか、これで比較的に優しいほうだとは。

 やはり、試練は試練ってことなのか。くっ! 頑張ってくれ二人とも!


「た、食べました……」

「はい、オッケーよ。それじゃ、試練カードよ」

「ありがとう、ございます」

「だ、大丈夫? 華燐ちゃん」

「うん、大丈夫だよ。食べてみると、結構おいしいね。なめこ」


 表情から、本当にそう思っているようには見えない。ともあれ、これで試練カードは二枚。あっちが一枚ってことは、少なくとも後二回は試練が訪れるはず。

 その後は、淡々とカードを捲っては合わず戻したり、合っては一組ゲットするというのが続き試練カードは誰も捲らない。


「ふっ! これもゲットだ!」

「ま、またシャッフルしたばかりなのに」


 現在、地球チームが十三組と試練カード二枚。ヴィスターラチームが十二組と試練カード一枚となっている。そしてテーブルに残っている枚数は、四枚だ。

 つまり、元々のトランプの一組と試練カードが一枚になるわけだ。いや、もしかすると一組と試練カード、ジョーカーかもしれない。

 だけど、事前にジョーカーを入れるやここまで補足としてジョーカーが混ざっていますとは言っていない。そう考えると、最後の一組と試練カード二枚の可能性が高い。


「追い上げてきましたね。あの残り枚数から考えると、ここでロッサが最後の一組を取った時点で」

「リフィル! もし、試練カードだけが残った場合はどうするんだ?」

「その場合は、全部難易度一でやってもらうわ。もし、ここでバルトロッサが最後の一組を手に入れて試練カードだけになった場合は、放棄をしない限り連続で試練カードを捲ることになるわね」

「つまり、こちらが十三組で試練カードが三枚。逆転勝利になるってことですね?」

「その通りよ」


 だがここで、試練カードを捲った場合は俺達が勝利する可能性が高くなる。全ては、ロッサの一手で決まる。


「では、捲るぞ」


 皆の試練が集まる中、ロッサはまず一枚目……ハートの三を捲った。


「あわわ……!」

「その調子です! もう一枚、もう一枚で!」


 ヴィスターラチームの勝利が確定する。

 頼む……外れてくれ! 


「……運が悪かったな」


 ロッサが捲ったのは。


「試練カードだ」

「よし!!」


 残念がるヴィスターラチーム。助かったと喜ぶ地球チーム。そして、試練カードを受け取り、内容を確認するリフィル。

 一緒に捲ったのは三だからそれほどではない、はずがないか。


「試練内容は、自分の下着を捲った数字分の秒数見せる」


 なんだよその試練! 絶対、どこかの変態親父が考えただろ! しかも、試練をやる人物がロッサだから確実に。


「その程度か。容易いことだな」


 とまあこう言うだろうとは思っていた。


『ちなみに、上も下も見せなくちゃならない!! と上からの連絡です!!』

「ふむ、そうか」


 もしこれが、有奈や華燐だった場合は俺が絶対阻止していた。あんな変態の言うことを聞くことは無いってな。


「はーい。それじゃ、バルトロッサが上と下の下着を露にした時点で時間を計るわよー」

「脱いだぞ」


 早い。恥ずかしがることも無く、上下の体操服を脱ぎ捨て、堂々と下着を見せ付ける。テーブルがあり、皆にはよく見えないのでテーブルの上に立って。

 本当……こうやって堂々と見せ付けられると、色気ってものが薄れるよな。


「はい、三秒経ったわ。もう良いわよ」

「この程度が試練とは、お笑いものだな」


 そうだね。どこかの変態が、ここにいる女子達の下着を見たいがために入れたんだろうからな。ま、今はお前でよかったと思うよ。


「まあ、これで地球チームの勝利は確定してしたようなものだけど、次のプレイヤーが捲る前に一応シャッフルさせてもらうわよ」


 終盤だというのに、なんだか微妙な空気になってしまった中、リフィルはテーブルの下に隠しながらカードをシャッフルして、再びカードを広げる。


「それじゃ、いくよ」


 考える間もなく、有奈はカードに手を伸ばす。

 勝利が確定しているという安心感から、今までの緊張が一気にほぐれたのだろう。もしここで試練カードを引いても、それをやり遂げれば同じ十三組だとして試練カードの差で俺達の勝利。

 もし、試練カードではなく最後の一組を手に入れても俺達の勝利になる。

 ……まあ、それは試練カードの内容次第、なんだけど。


「まずは、ハートの三ね」


 先ほどもロッサが捲ったハートの三を有奈も捲る。残り二枚。一枚は試練カード。次に、有奈が捲ったのは……。


「あっ」

「あら?」


 なんてこった。最後の最後に試練カードを捲ってしまった。さっさと終わらせたいのか、早々とリフィルは試練カードを手にして、内容を発表する。


「異性の顔を素足で一緒に捲った数字の秒数分踏みつける」

「だから、何なんだよ! その試練内容は!?」


 だが、その場に居るリフィルもニィもサシャーナさんも答えてくれない。サシャーナさんにいたってはまたカメラを準備しているし。

 あの親父め……絶対面白がって見ているな。


「い、異性って……」


 この場にいる異性と言えば、俺とアデルと一応ニィになる。華燐の試練の時には、響も居たが今はどこにもいない。

 同性とのキスだけではなく、異性の顔を素足で踏みつけるなんて。我が妹は、いったいこの試練でどれだけの経験を積み上げていくのか……。

 戸惑う有奈を見て、俺は覚悟を決めた。


「有奈! 俺を踏むんだ!! 心配するな!! 妹から、踏みつけられるのならば兄としては……本望だ!!」

「お、お兄ちゃん……」


 なんだか若干引き気味だが、俺の覚悟を酌んでくれたようで、仰向けになった俺を有奈は優しく……踏んでくれた。

さあ、いよいよ次回第四の試練! 地球チームはこのまま突き進む三勝するのか? それともヴィスターラチームが追い上げるのか?


というわけで、次回お楽しみに!

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