グレイス編
「大人しくしてろよ。嬢ちゃん。死にたくなかったらな」
お父さん。お母さん。死んじゃった……。
――――。
「しかし、こんなことをするとはターデ教団も悪ですなあ」
「まあ、俺たちは仕事をするだけだ」
「なあ」
「何だ?」
「こいつ、可愛いし、犯さねえか?」
「バレたらやべえだろ」
神様。
「バレなきゃいいんだよ」
もし、私が生きる必要があるなら。
「なるほど」
どうか、奇跡を起こしてくれませんか?
「ということで嬢ちゃん。ぐへへへ」
「大変だ! グホッ!」
――グレイス。
「何やつ! グハッ!」
「殲滅しにきやしたー」
「クソッ! 見張りは一体何を! ガハッ!」
アリサの情報は確かだな。ターデ教団が裏で悪事を働いてるとは。
「ん?」
「…………」
女の子が一人いる。
「なるほど。攫われた子か。嬢ちゃん名は?」
「ミラーナ」
「両親の元に返すからどこに住んでるか教えてくれ」
「お父さんもお母さんも死んじゃった」
女の子は泣きじゃくった。
ターデ教団め。人攫いだけでなく殺人までしていたのか。
「はあ、こちとら人を養える立場じゃないんだが……」
「う、ぐすん」
「嬢ちゃん。立てるか?」
「ぐすんぐすん」
「泣くのは今はやめてくれないか? それどころじゃない」
「……すいませんでした」
とりあえず、ここは脱出だな。
――グレイス園。
「ただいま」
「お帰り。グレイス兄ちゃん。その女の子は?」
「ああ、ちょっとな」
「お帰りなさい」
「アリサ。ちょっと」
「何かしら」
――――。
「両親も殺されちゃったのね」
「そうみたいだ。今の子たちですら養うのは大変だ。この子ともなると」
「構わないわ。私に任せて頂戴」
「いいのか?」
「ええ」
「まあ世話はお前に任せるとしても、養うのには金がかかる」
「それを含めて、貴方の仕事よ」
「へいへい。分かりやしたよっと」
ミラーナの顔を見る。
「…………」
何か気まずいな。
「ってことでアリサ。後は任せる。俺は仕事があるから」
「あ、ちょっと!」
――――。
俺は仕事を続けた。俺の仕事は大雑把に言うと、悪と戦うことだ。現在、ターデ教を攻略中。ターデ教とはエドワード・ラタルタという預言者が創設した教団で、最初の頃は活動にも善意が見られたのだが、腐敗したのだろうな。今じゃ、裏で悪事を働くようになった。
「ただいま」
「お帰りグレイス兄ちゃん。今日もお疲れ様」
子供たちが遊んで欲しそうにこちらを見つめている。
「いい子にしてたか。ちょっとアリサに用があるから今は遊ぶ時間が取れない。すまないな」
「ちっ、分かったよー」
――――。
「なるほど、今度はここに向かえばいいのか。オーケー。じゃあ早速」
「あら?」
アリサが見ている方向へ振り返る。そこにいるのはミラーナだった。
「わ、私も付いて行っていいですか?」
「はあ!?」
何を言ってんだ。この子は。
「あのなあ。俺の仕事はとても危険なんだ。子供が付いて行っていいものではない」
「それでもお願いします!」
「足手まといになるだけだ。大人しくアリサと一緒に」
「あら。いいじゃない」
「はあ!?」
何を言ってんだ。この子に続いて、アリサは。
「この子は貴方の仕事において役に立ってくれるわ。ラタルタの預言にそう書いてある」
「いくらラタルタの預言と言っても」
「貴方がここまでこれたのはラタルタの預言のおかげ、お分かり?」
「はあ、分かったよ」
「ほんとですか!?」
ミラーナの表情が輝いた。
「ただ命の保証はしないからな? 分かったな?」
「はい!」
こうして、俺とミラーナは一緒に仕事をすることになった。
――ミラーナの問い。
俺はミラーナと仕事を遂行していった。最初は足手まといになり危険だと思ったが、ミラーナは俺の指示を厳重に守る。そのお陰もあって、特に邪魔だと思うことはなかった。
俺は今日もミラーナと仕事に向かった。その道中。
「グレイス様」
「何だ?」
「グレイス様は神様はいると思いますか?」
「どうした? 急に」
「いいから答えてください」
「神様……か」
――グレイスの過去。
俺は信仰深い家庭に生を受けた。
特に何不自由のない生活を受けていた俺は、両親に今の生活があるのは神のおかげだと教えられていた。
その教えも受けてからか、俺も信仰深かった。
ある日。
戦争が始まると噂が広まった。いあ、噂どころじゃない、ほぼ確実に始まると思えていた。
俺たち家族が信仰深かった。神に祈れば、戦争は起こらないだろう。本気でそう思っていた。しかし……。
「グレイス。アルス。逃げるぞ!!」
戦争が始まり、俺たち家族は避難することになった。俺たちは必死に逃げ回った。生き残るために。
「グレイス。アルス。あと少しだからな」
!?
大きな音が鳴り、俺はいつの間にかどこかに弾き飛ばされていた。
「父ちゃん? 母ちゃん? アルス?」
俺は傷ついた体を必死に動かし、家族を探し回った。
「…………。そんな!? どうして!?」
家族は見つかった。体がバラバラになって無残な姿になった家族が……。
「ククク、あ、あははははは」
笑いが止まらなかった。あまりの惨状に。
そして、俺は
「奇跡なんて無い、希望なんて無い、そうだろ? 神様」
――グレイスの解答。
「いないと思うな」
「なぜです?」
「この世界を見れば分かるさ」
「そうですね。でも」
「ん?」
「神様はいますよ」
ミラーナの確信めいた瞳になぜか俺は惹かれた。
――ターデ教大聖堂侵入。
「ミラーナ! 行くぞ!」
「はい!」
俺たちは順調に仕事をこなして言った。ミラーナと仕事をしてどれくらい経っただろうか? いろいろあったが、何とかここまでやってこれた。俺はミラーナとずっとこの仕事をするのだろうか? それはそれでいいな。
ターデ教団大聖堂。俺たちはそこに潜入した。目標は現・ターデ教司祭ミリイス・ブリジロット。彼を仕留めるのが俺の役目だ。
「思ったより数が多いな」
「どうしましょう?」
「ミラーナはここで待機だ。もし、俺が帰って来なかったら、アリサに伝えてくれ、立派な最後だったと」
「そんな……嫌です。グレイス様が死んだら、私……私!」
「帰って来なかったらの場合だ。心配するな。俺は帰ってくるつもりだ。では、行ってくる」
帰ってくるとは言ったものの。この数相手はさすがにそうもいかないだろう。ミラーナには嘘をついてしまったな。
――ミラーナの心配。
グレイス様は大丈夫と言ったものの。やはり心配です。
私はこっそり、グレイス様の後に付いていきました。
「今から、私はこの娘と交わる。これも神聖な儀式だ。皆の者、とくと見ておくがいい」
「ははっ!」
私ももしかしたら、ああなってたのかな?
それよりもグレイス様は?
「ぐはああああ!?」
「何やつ」
「ミリイス! 覚悟!」
「ちっ、邪魔をしおって」
グレイス様が戦ってる! どうしよう私も何かしないと!
――――。
まずいな。劣勢だ。このままではミリイスですら、仕留めそこない俺は朽ち果ててしまう。
「もう少し、丁寧に作戦を練るべきだったな。がははははっ」
畜生。俺はこのまま終わるのか……。
「な!? 目の前に」
「神様。どうか私の命に代えても!」
――ミラーナの犠牲。
「ん?」
あれ? 俺は死んだはずでは。
辺りを見回してみると誰もいない。どういうことだ?
「な……!」
俺の目の前に女の子が倒れていた。ミラーナだった。
「ミラーナ!」
「グレ……イス様」
「どうしてお前が」
「グレイス様が……私を助けたあの時、神様っているんだな……と思えたのです」
「…………」
「グレ……イス様……今まで……ありがとう……ございました」
「もういい。喋るな! 今助けるから!」
俺はミラーナを抱きかかえて、連れ帰った。
――。
「お帰り、グレイスお兄ちゃん。ミラーナお姉ちゃん……?」
「アリサ!」
俺は子供たちを無視して、アリサのほうへ向かった。
「…………」
「お前のラタルタの預言でミラーナを救ってくれ! 俺はどうすればいい?」
「無理ね」
「なぜ!」
「貴方を守るのが彼女の役目だった。それだけよ」
「な!……」
そんなの理解出来るわけがない。
「なあ、アリサ。神様はいるんだよな?」
「ええ」
「じゃあさ、俺の命に代えてミラーナを助けるのはどうだ? な? な!?」
「無理よ」
「なぜだ!? 神様がいるんだったら」
「貴方には役目がある。彼女は役目が終った。それが事実よ」
「お前って前前から思ってるけど、残酷だよな」
「いくらでも言ってくれていいわ」
「もういい! ミラーナ。今助けるからな待っててくれ!」
――。
「お前って残酷だよな」
もう、どれだけそんな言葉を聞かされることだろう。
グレイス。彼も定めを受け入れられない。昔の私と一緒ね。
今の私は全てを受け入れてる。だけど、
「ねえ、ラタルタ。私たちって正しいのかしら?」
――。
俺はいろんな病院を渡った。しかし、
「お金ならいくらでも払います。だから!」
「残念ですが、もう助かりません」
「そんな」
どの病院でも受け入れ拒否。
「ミラーナ」
奇跡なんて無い。希望なんて無い。そうだろ? 神様…………。
――。
「グレイス兄ちゃん……お願いだから食べて」
何も口に入らなかった。無理やり入れようとしたら、吐いた。次第に俺はやせ細っていった。このまま俺は死ぬのだろうな。
「グレイス様」
……どこだ? ここは?
見慣れない風景。どこか美しかった。
目の前には……。
「ミラーナ! ミラーナ!!」
「グレイス様!」
俺たちは抱き合った。感動の再会だ。
「グレイス様に会わせたい人がいます」
「俺に会わせたい人?」
しばらく、歩くと目の前には教会があった。
教会の庭で子供たちが遊んでいる。
「お帰り、ミラーナ」
「ただいま、ラタルタ様」
ラタルタって……。
「あのターデ教司祭の?」
「ああ、そうだとも」
「…………」
「グレイス」
「はい」
「君は生きなければならない」
「………………なぜ!?」
俺はありったけの想いをぶちまけた。
「俺は今まで頑張ってきた。神がいないから、俺がこの世界を何とかしようって!」「なのに、世界はそんな俺を嘲笑うかのように進む」「ミラーナの死だって!」
俺は泣いた。ミラーナが俺を心配そうに覗き込む。
「そんな君だからこそ神は選んだのだろうな」
「え?」
「グレイス。君には役目がある。神から与えられた役目だ」
「…………」
「君はその役目が終わるまで死ぬことは許されないだろうな」
「ラタルタ様」
「何だね?」
「神はいるのでしょうか?」
「いるとも」
「奇跡あるのでしょうか? 希望はあるのでしょうか?」
「ああ、あるとも」
俺は決意を固めることとなった。
――。
「アリサ、行ってくる」」
「行ってらっしゃい」
あれからと言うもの、俺は自分の役目を達成することを目標にして生きてる。あの体験を通して、神様がいることを俺は知った。ミラーナとはしばらく会えないが、いつか俺が役目を終えてこの世を去った時、俺たちはずっと一緒にいられる。その時が楽しみだ。それまで俺は頑張るのみだ。
ミラーナ。いつか会うその日まで……。
FIN




