閑話「ヘルフェスと柳輪」
妾の名は柳輪
預言者じゃ
妾は5歳から預言者を始めて2年になる
妾は大層もてはやされて来た
妾は主に著名人の暗殺を予言することが多い
その予言は的中しその著名人が殺されることがいくつもあった
皆、妾の予言を信じるようになり著名人の暗殺を免れることも出来るようになった
しかし、それを快く思わない輩もいる
妾は次第に命を狙われるようになった
ある日、妾が数名の護衛と共に用事があってに出かけていると
物陰から10名以上の輩が妾に襲いかかってきた
対するこちらは数名の護衛
結果は見えていた
「輪様!!お逃げください!!!」
妾は一人で必死に走って逃げた
しかし、ほかの場所でも十数名の輩に待ち伏せされていた
「輪、覚悟!!!」
終わった
妾の人生が
まだ幼い妾にはやり残したことがたくさんある
ここで死にたくない
男の一人が妾に向けて剣を振りかざす
妾は思わず目を瞑る
「頼む!!誰か助けてたたもれ!!!」
妾は心の底から叫ぶかのように願った
カキン
「何奴?」
妾は目を開けた
目の前には青年がいて
男が振りかざした剣を防いでいた
「とりあえず、てめえら邪魔だ、消え失せろ」
「ええい、護衛はたった一人だ!叩きのめせ!!」
数十名の輩が一斉に青年に遅いかかる
戦いは数
勝負は見えていた
はずだった
「何だ!?こいつ!?化けもんだあああああ!!」
生き残った数名の輩は逃げ去っていった
「はあ」
青年はため息を付いていた
「助けてくれて感謝なのじゃ、そなた、名を名乗れ」
「俺はヘルフェス、訳あっててめえの護衛をすることになった」
「そなたの活躍に免じて妾の側近に任命してやろう」
「俺はアリサ様の下僕だ、てめえの下につくつもりはない」
「むう、連れないやつじゃのう」
「それよりてめえをある場所に連れて行くよう頼まれてる」
「ほう、その場所とは?」
「それはまだ分からない、とりあえず、ここから東の街に行けとのことだ」
「助けてもらった恩もある、よかろうそなたに付いて行ってやろうじゃないか」
こうして妾に側近が出来た
彼はそれを否定しているが妾の中では側近なのじゃ
妾たちは次の街へ行く間
他愛もない会話をしていた
「ヘルフェスと言ったな、そなたは自分のことをアリサ様の下僕と申していたがそのアリサとやらは何やつじゃ?」
「アリサ様は偉大な方だ」
ヘルフェスの惚気話が始まった
やれ”アリサ様は自分を犠牲にして悪魔たちを説得しただの”
やれ”アリサ様の言葉には癒しを感じるだの”
やれ”アリサ様の全てを見据えたかのような青い瞳がいいだの”
そんなにこやつはアリサという少女が好きなのか?
そうこうしているうちに次の街に付いた
妾を見るなり街の人々が
「りんさまあああ」
と尊敬の眼差しを向ける
妾は偉大なる預言者じゃ
当然のことじゃろう
妾はこの街で宿を取ることにした
「ほう、次は北の街か」
「どうした?ヘルフェス」
「いや、何でもないこっちの話だ」
妾はヘルフェスと同じ部屋で寝ることになった
朝
「おい、輪、起きろ」
「何じゃヘルフェス妾はまだ眠たいのじゃ」
妾は毛布にくるまる
「このねぼすけが!」
そう言うとヘルフェスは妾の毛布を取り払った
「何をする!?妾は偉大なる預言者なのだぞ」
「知るかそんなもん、それより出発の準備だ」
妾は不服だったがヘルフェスの言う通りに進むことにした
北の街に着く
妾たちは宿を取り
ヘルフェスが闘技場に参加登録をした
「ここの闘技場に俺が参加することになっている」
「なんじゃ闘技場に参加してどうなるのじゃ?」
「それは俺にも分からん」
「どういうことじゃ」
「まあいい、お前にも話してやろう」
「な!?」
そう言うとヘルフェスの右手から変な本が出現した
本は真っ黒でタイトルに”ラタルタの予言”と金色の文字で書いてあった
「この本には俺が次にするべきことが書いてある」
「ほう、見せてたもれ」
「しょうがねえなあ」
妾は興味津々だった
ヘルフェスは妾にその本を渡す
妾は本のページをめくった
「おろ?何も書かれておらぬが」
「やはりそうか」
ヘルフェスは納得したかのような口調で言った
「どうやらこの本は限られたものにしか読めないらしい」
「ほう」
「まあそんなことはどうでもいい、俺はこの本の言う通りにしてさっさとラタルタに会って始末するだけだ」
「どういうことじゃ?」
「ラタルタは俺からアリサ様を奪った極悪人だ」
「ほう」
「俺はそいつに辿りつくためにこの予言書に従っている」
「この預言書に従ってラタルタに会えるという根拠はあるのか?」
「それはわからねえ、しかし、俺にはこれしかやることがない」
「ということは闘技場に参加するのもこの本に書いてあるということか?」
「ああ、しかも人を殺さずにだ、無茶ぶりにもほどがある」
「そなたには出来そうだがのう」
「ああ、やるからにはやってやるさ」
翌朝
ヘルフェスが闘技場に向かう
妾は観戦席でヘルフェスの様子を見守る
「ええ、只今より第456回闘技大会を始めます」
司会がアナウンスをする
殺し合いの始まりじゃ
「おおっヘルフェスやるではないか!!」
彼は50mの距離から一瞬で間合いを詰め
相手の喉元に剣を突きつけた
その後も同じ展開だった
「優勝はヘルフェス!!」
「おおっ!!!」
「優勝者にはトロフィーと賞金が与えられ」
「その賞金、募金に当ててくれ」
「おっと!!ヘルフェスさんは賞金を募金に当てろと言っています!前代未聞です!!」
こうして闘技大会が幕を閉じた
「ヘルフェス!かっこ良かったぞ!そなたを妾の側近ではなく婿として迎え入れてやろう」
「だから俺はアリサ様の下僕であっててめえの婿になどなるつもりはない」
「むぅ!意固地なやつじゃのう」
妾は頬を含まらせた
「さあ、さらに北の町に行くぞ」
「預言書にそう書いてあるのか?」
「ああ」
妾たちは預言書の指し示す方向へと進んだ
北の街についた
「な!?」
「どうした?」
「この街でてめえと共に宿屋で働けとさ」
「そなたは妾を目的地へ案内するんじゃろう」
「それもそうだが、まずは今書かれてる内容を重視したほうがいい」
「ほう」
「不服か?」
「いや、構わんぞよ」
預言者として以外一度も働いたことがない妾にとって
楽しみな内容じゃ
働き口はすぐ見つかった
妾たちは宿屋で働いた
妾は宿屋の看板娘として
ヘルフェスは宿屋の雑用や掃除などをした
妾のキュートな顔のおかげか
店は繁盛した
「ヘルフェス、あれを買ってなのじゃ」
「ったく、わがままなガキだなあ」
そういいつつヘルフェスは妾の言うことを聞いてくれる
「ヘルフェスどうじゃこの衣装、妾に似合ってるだろう」
「アリサ様が着たほうが似合う」
「なんじゃと!!!」
アリサとやらめ
ヘルフェスをこんなにも虜にする娘
一度会ってみたいものじゃ
夜
妾はヘルフェスと共に一緒の部屋で休んだ
「どうした?輪」
「気づきおったか、さすがヘルフェスじゃ」
「俺に近づいてきて何がしたい?」
「ヘルフェスになら妾の貞操を捧げてもいいと思ったのじゃ」
ヘルフェスとの生活は楽しかった
妾は預言者として生きていたが
正直その生き方に満足していなかった
彼が妾に新しい生き方を与えてくれたのじゃ
貞操はそのご褒美なのじゃ
「俺はお前には興味がない」
「アリサとやらならいいのか?」
「俺はアリサ様の忠実な下僕だ、そんなこと出来るわけがないだろう」
こやつは何かと自分をアリサとやらの下僕と主張する
アリサという少女にますます会いたくなってきたぞ
「そのアリサとやらはどこに行ったのじゃ」
「天国だよ」
「は?」
「ラタルタのせいでアリサ様は死んだ」
「・・・・・・」
「前も言ったが俺はラタルタに少しでも近づくためにこの預言書の通りに動いている」
「・・・・・・」
「悪いがお前がそれに関係する以上、お前にも付き合ってもらう」
「別に構わんが、そなたと妾は運命共同体じゃからな」
「俺はお前と何かしらの関係を結ぶつもりはない」
「意固地なやつじゃのう」
「何とでも言え」
「そういえばヘルフェス」
妾は話を変えた
「何だ?」
「妾は五歳のころから親から引き離されてな」
「それがどうした?」
「もう二年も親とは会ってないのじゃ」
「・・・・・・・・」
「だから妾の父を演じてくれぬか?」
「はあ?」
唐突な妾の願いにヘルフェスは驚いた様子じゃった
まあ無理もない
「頼む!!一生のお願いじゃ!!」
「そんなこと言われてもなあ」
「頼む!!!」
「はあ、仕方ねえなあ」
ヘルフェスはベッドから起き上がり
立ち上がると
「輪、パパだよ、おいで」
と優しく話しかけてくれた
「う・・ぐす・・・パパあああああああ!!」
妾はヘルフェスに駆け寄り抱きついた
「会いたかった・・ずっと会いたかった・・・・」
「そうかい」
妾はパパ(ヘルフェス)にずっと話しかけた
預言者として頑張ったことや
宿屋の看板娘として頑張ったこと
命の危険をヘルフェスというかっこいい青年に助けてもらったことなど
この二年間にあったことをいろいろ話した
パパは妾を褒めたり相槌をうったりした
「ヘルフェス、もうよい」
「不服だったか?」
「いや、そなたは立派に妾の父を演じてくれた」
「・・・・・・・」
「そなたは優しいなあ」
「俺は自分を優しいだなんて思ったことはない、お前とこうしているのも自分の利益のためだ」
「それでも優しい、そうじゃないと妾の父など演じてはくれぬ」
「・・・・・・・」
「もうこんな時間か明日は仕事じゃから早く寝ないとのう」
「そうだな」
こうして妾とヘルフェスは眠りについた
こんな生活がずっと続いてくれると思っていた
ある昼
妾が休憩時間に入って休んでいると
同じく休憩時間が入ってきたヘルフェスがやってきた
そして妾にこう話しかけてきた
「今日でここを辞めるぞ」
「なんじゃと!?」
「”ラタルタの予言”が開いた次の目的地へと向かう」
「そうか・・・」
「残念そうだな」
「そりゃあな」
こうして妾とヘルフェスは宿屋の仕事を辞めた
次の街についた
「な!?」
「どうした?ヘルフェス」
「この街の王宮にある光水晶を取ってこいだとよ」
「それは大変なことじゃのう」
「それも人を殺さずにだ」
「そうか」
「俺は潜伏という手段が得意じゃない、王宮の守りを強制的に突破する必要があるだろう」
「ふうむ」
「輪はどこかで待っておけ」
「いや、妾も行く」
「ついてこない方がいいぞ」
「どのみち妾は有名な預言者、それにこのキュートな妾を襲う輩は大勢いる」
「言ってろよ」
「とりあえず付いていく、いいな!」
「・・・分かった」
妾とヘルフェスは王宮へと向かう
「おい!貴様!!ここから先は許可が無いと通せんぞ」
「あれ出来るかな?」
「何をいっ・・・え?」
突然ヘルフェスの姿が化物へと変化した
「出来たか・・良かった・・・これで戦わずに済む」
「ば、ば、化けもんだあああああああ!!!」
王宮の家来たちが逃げ出した
「輪、これが本当の俺だ」
「それがどうした?」
「お前は俺が怖くないのか?」
「命の恩人を怖がってどうする、まあ少しは驚いたがの」
「フッ」
ヘルフェスは鼻で軽く笑うと
王宮の内部へと入っていった
「な、な、何が望みだ」
「光水晶とやらを渡してもらおう」
「分かった・・分かったからどうかこの街を襲うのをやめていただきたい」
こうしてヘルフェスは光水晶を手に入れることが出来た
「おっ!」
「どうした、ヘルフェス」
「次の目的地が決まった」
「そうか」
「次はお前に活躍してもらう」
「ほお、妾の力が必要なのか?」
「ああ」
「分かった力を貸してやろう、その代わり」
「何だ?」
「妾の婿になってもらう」
「はあ!?」
ヘルフェスは驚愕していた
「だから前も言っただろう、お前の婿になぞ」
「じゃあこの取引は無しだ」
「・・・・・分かったよ」
「素直でよろしい」
妾とヘルフェスは次の目的地へと向かった
「ここは・・・?」
「どうやらド田舎のようだな」
「どこへ向かうのか分かっているのかヘルフェス」
「ああ、ここの教会だ」
ヘルフェスと妾は静かな道を浸すら歩く
聞こえるのは小鳥の鳴き声ぐらいだ
道中妾はヘルフェスと他愛もない話をした
もちろん話しかけるのは妾じゃ
「なあ、ヘルフェス、式はどこであげる?」
「知らねえよ、ってかお前みたいな子供にはまだ先の話だ」
「むう、連れないやつじゃのう」
「着いたぞ」
見る限り寂れた教会だ
中には誰もいないだろう
「入るぞ」
妾たちは教会の中に入った
予想通り中には誰もいない
目の前には1mほどの十字架があって
中心に丸いくぼみがあった
「さあ、輪、この窪みに光水晶をはめろ」
そう言ってヘルフェスが光水晶を渡してきた
「分かった」
妾は言うとおりにする
カチッ
光水晶は綺麗にはまった
「輪、この水晶に手を当てて念じろ」
「どう念じればいいんじゃ」
「それは俺にも分からん」
「無茶ぶりじゃのう」
「とりあえずお前が思ったことを念じればいいんじゃないか?」
「分かった」
妾は光水晶に手を当てて目を閉じた
嫌な記憶が妾の中に蘇ってくる
”妾の命を狙ってくるもの”
”妾が有名な預言者だからといって擦り寄るもの”
どれも己の利益を求める嫌な輩ばかりだった
妾はそれを見て何を思ったか
何を願ったか
「分かったぞヘルフェス」
「何がだ?」
「念じる内容が」
「まさか俺がてめえの婿になるとかいう下らないことじゃないよな?」
「違うわ!!妾を馬鹿にするのもいい加減にせい」
「とりあえずその内容を念じろよ」
「ああ」
妾は心の底から溢れる思いを
この光水晶にぶちまけるかのようにこう願った
「神よ、どうかこの世界が幸福で満たされた平和な世界になりますように」
光水晶が輝きを放った
とても眩しい
「どうやらお前の願いが通じたようだな」
「そうじゃな」
「輪、外を見てみろ」
「わあ、綺麗」
外を覗くとさっきまで曇りだった空が
虹色に輝いていた
「さて、輪、戻るぞ」
「嫌じゃ」
「な!?」
「妾はまた預言者として生きなければならないのじゃろう?」
「誰がそう言った」
「え?」
「あの宿屋にだよ、もう一度一緒に働こうぜ」
「本当か!!」
「これが嘘を言う顔に見えるか」
妾とヘルフェスは宿屋に戻り働いた
楽しい
とても楽しい
預言者の時は全然楽しくなかった
この口調も元々強いられてきたものだし
何よりかたっ苦しくて嫌だったのだ
変に妾に擦り寄るものもいないしのう
夜
「ヘルフェス、今日の妾も可愛かったろう」
「アリサ様の足元にも及ばないね」
「まだ言うか」
「でも」
「でも?」
「前よりは可愛くなったと思うぞ」
「そなたに褒めてもらったのはこれが初めてじゃ」
今日もヘルフェスと他愛もない話をする
そう思った瞬間
ピカーン
ヘルフェスが右腕にしている腕輪が光った
「なんじゃ?」
「ごめん、輪、俺はもう行かないといけないみたいだ」
「嫌じゃヘルフェス」
妾はそう言ってヘルフェスに抱きついた
しかし、ヘルフェスの体は薄くなっていて
感触がなかった
「妾との取引はどうするのじゃ!」
「大丈夫、いづれまた会える」
「約束じゃぞ!本当に約束じゃぞ!!」
「分かってるよ」
「待ってるからな!妾、ずっと待ってるからな!!」
「俺もその時を楽しみに待ってるよ、それじゃあな、あばよ」
ヘルフェスは消えた
「う、ぐす、うわああああああああああんんん」
妾はたくさん泣いた
ヘルフェスは妾の全てをさらけ出せる
最高の旦那だった
あれから
「ここの宿屋のベッドはふかふかで気持ちいいぞ!!」
妾は相変わらず宿屋で働いている
ヘルフェスはいないが
充実していた
「ヘルフェス、必ずまた会いに来るのじゃぞ」
妾はそう心の中で思いつつ今日も看板娘としての役目を果たす
ー閑話「ヘルフェスと柳凛」ー
完
ここまで読んで下さりありがとうございます^♥^♪
何か指摘があれば遠慮せずお願いしますね




