琴美異変
カウンセリングから帰ってきた琴美は、一人自室で処方されたQRコードをジッと見ていた。
「暴力性を抑えないと、いずれ人が離れていきますよ。」先生の言葉が胸に残る。
「……これ聞いて性格変わるんなら苦労しないわ……。」
スマホでQRコードを読み込み、2時間後に再生するようタイマーをセットする。
「……バカバカしい。寝よ寝よ。」
イヤフォンをしっかり耳に収め、そのまま眠りについた。
翌朝、真平が教室に入ると、琴美が柔らかい笑顔で挨拶した。
「おはよう! 伊勢野くん♪」
「……伊勢野くん???」真平は一瞬、自分の耳を疑った。
「……おい、どうしたんだ。熱でもあるのか?」
「ううん? そんなことないわよ?」琴美は優雅に髪をかき上げ、にこやかに微笑んでいる。
その様子は、これまで見てきた“琴美”とはまるで別人だった。
「……なぁ、俺の知ってる吉峰琴美って、おはようの代わりに『どこ見てんのよ!この軟弱者!!』って言ってくるやつだったと思うんだけど?」
「もう、そんな乱暴な言葉遣いなんてしませんわ。これからは “上品で淑やかなレディ” を目指すの♪」
「!?!?!?」真平の目が飛び出そうになる。
クラスメイトたちもザワつき始めた。
「えっ、なんか吉峰さん、雰囲気変わってない?」
「すげぇ…… ‘女子力1’ だったあの琴美が……!」
「まさか昨日、何か ‘呪い’ でも受けたんじゃ……?」
そんな周囲の反応をよそに、琴美は机に座り、上品に手を組んで微笑んだ。
「伊勢野くん、昨日は素敵なアドバイスをありがとう♪」
「えっと、お前……昨日、何かあった?」
「ううん、特に? あ、でも昨日 ‘素敵な音楽’ を聴いたの。」琴美は優雅に微笑んだ。
「音楽?」
「ええ、とても穏やかな気持ちになれるの。 ‘怒り’ や ‘衝動’ を抑えて、心を落ち着かせるための ‘特別なセラピー音源’ なんですって。」
「……セラピー音源?」
「そう、昨日のカウンセリングで先生にいただいたものよ。聞いたら、なんだか ‘暴力なんて馬鹿らしい’ って思えるようになったの♪」
「……マジかよ。なんか ‘催眠音声’ みたいな効果があったんじゃ……」
「まあ、きっと私は ‘本来の自分’ に戻ったのね♪ 今までの私は ‘荒くれ者のふりをしていた’ だけだったのよ。」
「それ、お前が言うと ‘歴戦の野武士が戦をやめた’ みたいに聞こえるんだが……」
「ふふっ♪ もう私は ‘争いとは無縁の優雅なレディ’ なの。さ、次の授業の準備をしましょう♪」
「パォ~~~~!?!?!?!? だ、誰ですか~~!!?」
部室に入った途端、シャオの悲鳴が響き渡った。
「え? 何が? 私よ、琴美♪」
「パォォ…… 琴美先輩じゃありません~~!! だ、誰ですか~~!!!」
「だから琴美だって!」
「ええええ!? ど、どういうこと!? 琴美、もしかして ‘清楚な双子’ がいたとか!?」
沙羅も目を丸くしながら、琴美を上から下までじっくりと見つめている。
「ふふっ、磯貝さん。双子なんていないわよ? どうしたの?」
「あんたがどうしたのよォォォォォ!!!!!!」
「おい、琴美! いい加減にしろよ!!」琴美の肩をガシッと掴んで揺さぶる真平。
「な、なにをするの!? レディに対して無礼よ!!」
「違う!!! ‘琴美’ に ‘レディ’ なんて単語、今まで出てきたことねぇんだよ!!!」
「ひどい……私は ‘本当の私’ に目覚めただけなのに……。」
勇馬がカタカタとキーボードを叩きながら、冷静に分析を続ける。
「これは……やはり ‘音響催眠’ による人格抑制の可能性が高いですね。」
「音響催眠!? なんだそりゃ!?」真平が勇馬の肩を覗き込む。
「一定の周波数を持った音声を聴き続けることで、潜在意識に暗示をかける手法です。いわゆる ‘洗脳’ に近いものですが、琴美先輩は深層心理の ‘攻撃性’ を抑え込まれた可能性があります。」
「ええ……つまり、どういうこと?」沙羅が眉をひそめる。
「簡単に言うと、琴美先輩の ‘野武士魂’ が封印されてしまったんです。」
「パォ~~~~!? ‘琴美先輩’ が ‘野武士’ なのを ‘封印’ !? えええ~~~!!?」シャオが頭を抱えてジタバタする。
その横で、美優だけは相変わらず穏やかに微笑み、琴美にお茶を注いでいた。
「えへへ~、琴美さん、今日はなんだか ‘とってもおしとやか’ ですねぇ~。」
「ありがとう、美優ちゃん♪ 私、もう ‘乱暴な生き方’ はやめるの。穏やかで、上品で、誰からも愛される ‘素敵なレディ’ になるの♪」
琴美は、優雅に紅茶のカップを持ち上げ、上品に小指を立てた。
「……おい、 ‘紅茶のカップ’ を ‘小指立てて持つ’ って、完全に ‘別人’ じゃねぇか……!」真平が震えながら言う。
「これ、もう ‘琴美’ じゃないでしょ……!?」沙羅も青ざめる。
「……これは ‘深刻な文化的危機’ です!!!」シャオが涙目になりながら叫ぶ。
勇馬は冷静にメガネをクイッと上げた。
「問題は、どうやって ‘元に戻す’ かですね。」
「おい、琴美、お前 ‘カモミールティー’ なんか飲んでていいのか?」真平が試しに挑発してみる。
「ええ♪ とてもリラックスできるわ♪ こうして優雅に紅茶を飲んでいると、心が穏やかになって、とても落ち着くの。」
「嘘だろ…… ‘琴美’ に ‘落ち着く’ なんて概念、今まであったか?」沙羅が信じられないという顔をする。
「うふふ♪ もう ‘怒ったりしない’ のよ♪」琴美はカップを置き、微笑む。
「うわぁぁぁぁ!! 誰か ‘除霊’ できるやつ呼べぇぇぇぇ!!」真平が頭を抱えた。
「お、おい……これ、 ‘どこまで本気’ なのか、試してみないか?」沙羅が ヒソヒソ声 で言う。
「お、おう……そうだな……。」真平も 冷や汗をかきながら 頷いた。
「じゃあ、琴美……」沙羅が わざとらしく 言う。
「実はさぁ…… お前のプリン、さっき食べちゃったんだよね。 」
「……。」琴美は ゆっくりと目を閉じた 。
「そう……そうなのね。」
「(おおおおおおい!!! 怒らねぇのかよ!!!???)」真平が 心の中で絶叫 する。
「まぁ、食べてしまったものは仕方ないわ……。」琴美は 静かに微笑む 。
「 ‘あなたがそれで満足したなら’ 、それでいいのよ。」
「うわああああああああ!!!!!!!!!」
全員 戦慄 した。
「え、じゃあさ……」今度は勇馬が メガネを直しながら 試す。
「 ‘琴美先輩、昭和より平成のほうが文化的に優れてるよな’ って言ったら?」
「……そう。」琴美は 静かに頷く 。
「それは ‘人それぞれの感じ方’ ね。私は ‘昭和の良さ’ を大切にするけれど…… ‘他の価値観’ も尊重するわ。」
「ギャアアアアアア!!!!!!」
全員、 絶叫 。
「こ、これ ‘洗脳’ じゃないか!?!?!?!」
「おい ‘性格改善オーディオ’ って ‘別人格誕生装置’ だったのか!?!?!?」
「えええええ!!? 琴美先輩、 ‘令嬢’ になっちゃったんですか~!?!?」
「パォ~! ‘気品’ ですね~!」シャオは 感動して拍手 する。
「違う違う違う!!! これ ‘琴美’ じゃない!!!!」
「琴美を……返せええええ!!!!!」




