表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/241

琴美異変

 カウンセリングから帰ってきた琴美は、一人自室で処方されたQRコードをジッと見ていた。

「暴力性を抑えないと、いずれ人が離れていきますよ。」先生の言葉が胸に残る。

「……これ聞いて性格変わるんなら苦労しないわ……。」

 スマホでQRコードを読み込み、2時間後に再生するようタイマーをセットする。

「……バカバカしい。寝よ寝よ。」

 イヤフォンをしっかり耳に収め、そのまま眠りについた。


 翌朝、真平が教室に入ると、琴美が柔らかい笑顔で挨拶した。

「おはよう! 伊勢野くん♪」

「……伊勢野くん???」真平は一瞬、自分の耳を疑った。

「……おい、どうしたんだ。熱でもあるのか?」

「ううん? そんなことないわよ?」琴美は優雅に髪をかき上げ、にこやかに微笑んでいる。

 その様子は、これまで見てきた“琴美”とはまるで別人だった。

「……なぁ、俺の知ってる吉峰琴美って、おはようの代わりに『どこ見てんのよ!この軟弱者!!』って言ってくるやつだったと思うんだけど?」

「もう、そんな乱暴な言葉遣いなんてしませんわ。これからは “上品で淑やかなレディ” を目指すの♪」

「!?!?!?」真平の目が飛び出そうになる。

 クラスメイトたちもザワつき始めた。

「えっ、なんか吉峰さん、雰囲気変わってない?」

「すげぇ…… ‘女子力1’ だったあの琴美が……!」

「まさか昨日、何か ‘呪い’ でも受けたんじゃ……?」

 そんな周囲の反応をよそに、琴美は机に座り、上品に手を組んで微笑んだ。

「伊勢野くん、昨日は素敵なアドバイスをありがとう♪」

「えっと、お前……昨日、何かあった?」

「ううん、特に? あ、でも昨日 ‘素敵な音楽’ を聴いたの。」琴美は優雅に微笑んだ。

「音楽?」

「ええ、とても穏やかな気持ちになれるの。 ‘怒り’ や ‘衝動’ を抑えて、心を落ち着かせるための ‘特別なセラピー音源’ なんですって。」

「……セラピー音源?」

「そう、昨日のカウンセリングで先生にいただいたものよ。聞いたら、なんだか ‘暴力なんて馬鹿らしい’ って思えるようになったの♪」

「……マジかよ。なんか ‘催眠音声’ みたいな効果があったんじゃ……」

「まあ、きっと私は ‘本来の自分’ に戻ったのね♪ 今までの私は ‘荒くれ者のふりをしていた’ だけだったのよ。」

「それ、お前が言うと ‘歴戦の野武士が戦をやめた’ みたいに聞こえるんだが……」

「ふふっ♪ もう私は ‘争いとは無縁の優雅なレディ’ なの。さ、次の授業の準備をしましょう♪」


「パォ~~~~!?!?!?!? だ、誰ですか~~!!?」

 部室に入った途端、シャオの悲鳴が響き渡った。

「え? 何が? 私よ、琴美♪」

「パォォ…… 琴美先輩じゃありません~~!! だ、誰ですか~~!!!」

「だから琴美だって!」

「ええええ!? ど、どういうこと!? 琴美、もしかして ‘清楚な双子’ がいたとか!?」

 沙羅も目を丸くしながら、琴美を上から下までじっくりと見つめている。

「ふふっ、磯貝さん。双子なんていないわよ? どうしたの?」

「あんたがどうしたのよォォォォォ!!!!!!」

「おい、琴美! いい加減にしろよ!!」琴美の肩をガシッと掴んで揺さぶる真平。

「な、なにをするの!? レディに対して無礼よ!!」

「違う!!! ‘琴美’ に ‘レディ’ なんて単語、今まで出てきたことねぇんだよ!!!」

「ひどい……私は ‘本当の私’ に目覚めただけなのに……。」

 勇馬がカタカタとキーボードを叩きながら、冷静に分析を続ける。

「これは……やはり ‘音響催眠’ による人格抑制の可能性が高いですね。」

「音響催眠!? なんだそりゃ!?」真平が勇馬の肩を覗き込む。

「一定の周波数を持った音声を聴き続けることで、潜在意識に暗示をかける手法です。いわゆる ‘洗脳’ に近いものですが、琴美先輩は深層心理の ‘攻撃性’ を抑え込まれた可能性があります。」

「ええ……つまり、どういうこと?」沙羅が眉をひそめる。

「簡単に言うと、琴美先輩の ‘野武士魂’ が封印されてしまったんです。」

「パォ~~~~!? ‘琴美先輩’ が ‘野武士’ なのを ‘封印’ !? えええ~~~!!?」シャオが頭を抱えてジタバタする。

その横で、美優だけは相変わらず穏やかに微笑み、琴美にお茶を注いでいた。

「えへへ~、琴美さん、今日はなんだか ‘とってもおしとやか’ ですねぇ~。」

「ありがとう、美優ちゃん♪ 私、もう ‘乱暴な生き方’ はやめるの。穏やかで、上品で、誰からも愛される ‘素敵なレディ’ になるの♪」

琴美は、優雅に紅茶のカップを持ち上げ、上品に小指を立てた。

「……おい、 ‘紅茶のカップ’ を ‘小指立てて持つ’ って、完全に ‘別人’ じゃねぇか……!」真平が震えながら言う。

「これ、もう ‘琴美’ じゃないでしょ……!?」沙羅も青ざめる。

「……これは ‘深刻な文化的危機’ です!!!」シャオが涙目になりながら叫ぶ。

勇馬は冷静にメガネをクイッと上げた。

「問題は、どうやって ‘元に戻す’ かですね。」

「おい、琴美、お前 ‘カモミールティー’ なんか飲んでていいのか?」真平が試しに挑発してみる。

「ええ♪ とてもリラックスできるわ♪ こうして優雅に紅茶を飲んでいると、心が穏やかになって、とても落ち着くの。」

「嘘だろ…… ‘琴美’ に ‘落ち着く’ なんて概念、今まであったか?」沙羅が信じられないという顔をする。

「うふふ♪ もう ‘怒ったりしない’ のよ♪」琴美はカップを置き、微笑む。

「うわぁぁぁぁ!! 誰か ‘除霊’ できるやつ呼べぇぇぇぇ!!」真平が頭を抱えた。

「お、おい……これ、 ‘どこまで本気’ なのか、試してみないか?」沙羅が ヒソヒソ声 で言う。

「お、おう……そうだな……。」真平も 冷や汗をかきながら 頷いた。

「じゃあ、琴美……」沙羅が わざとらしく 言う。

「実はさぁ…… お前のプリン、さっき食べちゃったんだよね。 」

「……。」琴美は ゆっくりと目を閉じた 。

「そう……そうなのね。」

「(おおおおおおい!!! 怒らねぇのかよ!!!???)」真平が 心の中で絶叫 する。

「まぁ、食べてしまったものは仕方ないわ……。」琴美は 静かに微笑む 。

「 ‘あなたがそれで満足したなら’ 、それでいいのよ。」

「うわああああああああ!!!!!!!!!」

全員 戦慄 した。

「え、じゃあさ……」今度は勇馬が メガネを直しながら 試す。

「 ‘琴美先輩、昭和より平成のほうが文化的に優れてるよな’ って言ったら?」

「……そう。」琴美は 静かに頷く 。

「それは ‘人それぞれの感じ方’ ね。私は ‘昭和の良さ’ を大切にするけれど…… ‘他の価値観’ も尊重するわ。」

「ギャアアアアアア!!!!!!」

全員、 絶叫 。

「こ、これ ‘洗脳’ じゃないか!?!?!?!」

「おい ‘性格改善オーディオ’ って ‘別人格誕生装置’ だったのか!?!?!?」

「えええええ!!? 琴美先輩、 ‘令嬢’ になっちゃったんですか~!?!?」

「パォ~! ‘気品’ ですね~!」シャオは 感動して拍手 する。

「違う違う違う!!! これ ‘琴美’ じゃない!!!!」

「琴美を……返せええええ!!!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ