琴美のメンタルケア革命
「……ったく、なんで私がこんなとこに来なきゃいけないのよ!!」
カウンセリングセンターの前で腕を組み、不満を全身で表現する琴美。
「お前が ‘問題ない’ ことを証明するためだろ。」
「ふんっ! ‘異常なし’ って診断書を叩きつけて、アイツらの口を塞いでやるわ!!」
「……先生に ‘異常なし’ って言われる確率、1%未満だと思うけど。」
「はぁ!?なんでよ!!」
「いや、普段の行動見てたら分かるだろ……」
「ムカつくわね……」
不機嫌そうに唸りながら、琴美は受付のカウンターに向かった。
「すみません、今日のカウンセリングの予約をしてる吉峰琴美ですけど?」
受付の女性が柔らかい笑顔で対応する。
「はい、吉峰さんですね。本日はよろしくお願いします。」
「ええ、よろしくお願いします。できれば ‘3分くらい’ で終わらせてください。」
「……は?」
「だって ‘異常なし’ を確認するだけでしょ? ‘おはようございます’ って言って、 ‘大丈夫ですね’ って言われて、 ‘ありがとうございました’ で終わりよ!!」
受付の女性は微妙な表情になりながら、「そ、そうですね……」と返事した。
「吉峰さん、どうぞお座りください。」
カウンセリングルームに案内され、琴美はソファにどかっと腰を下ろした。
目の前には、柔和な笑顔を浮かべた心理カウンセラーの先生。
「はじめまして、吉峰琴美さん。今日はリラックスしてお話ししてくださいね。」
「リラックス?必要ないわね!私、問題なんてないし!!」
「なるほど…… ‘私は問題ない’ と思っている、ということですね。」と先生が琴美を指さした。
「今度あたしのこと指さしたらその指ねじ切ってけつの穴に突っ込んでやんだから!」
先生の顔が一瞬、引きつった。
しかし、そこは心理カウンセラーのプロ。
表情をすぐに穏やかに戻し、冷静にメモを取り始めた。
「なるほど…… ‘攻撃性の表出が速い’ ……っと。」
「ちょっと!何メモしてんのよ!!」
「いえ、今の発言から ‘衝動性の高さ’ と ‘自己主張の強さ’ を確認できたので……」
「ぐぬぬ……!」
琴美は腕を組んでムスッとする。
ここで下手に反論すると、 ‘よりヤバい診断結果’ が出そうだ。
先生は優しく微笑みながら、質問に移る。
「では、最近 ‘楽しかったこと’ はありますか?」
「うーん……そうね……」
琴美は少し考えてから、パッと顔を上げた。
「この前、真平を追いかけ回したときね!」
「……それは ‘遊び’ ですか? ‘狩り’ ですか?」
「ちょっ、なんで狩り!? ‘鬼ごっこ’ みたいなもんよ!!」
「ちなみに、どうして追いかけ回したんですか?」
「そりゃ、アイツが『琴美、戦国時代なら絶対 ‘野武士’ だな』とか言ったからよ!!」
「なるほど…… ‘自己のアイデンティティを否定されると、即時に物理的報復に移る傾向’ ……っと。」
「ちょっと待て!!今なんかすごく ‘ヤバい診断結果’ が書かれなかった!?」
先生は微笑みを崩さず、優雅にメモを続ける。
「では、吉峰さん。 ‘落ち着く方法’ は何かありますか?」
「落ち着く……?」
「はい。例えば、怒ったときやイライラしたときに、心を鎮めるためにやることは?」
「うーん……そうねぇ……」琴美は少し考えてから、ボソッと答えた。
「大好きな昭和に囲まれているとき、昭和歌謡なんかもいいわね」
先生は少しだけ驚いたように目を瞬かせた。
「なるほど…… ‘昭和文化が精神安定に寄与する’ ……っと。」
「ちょっと!!またなんか書いたでしょ!!」
「いえいえ、 ‘精神的な拠り所’ があるのは素晴らしいことですよ。」先生は優しく微笑む。
「そうよ!昭和はいいのよ!!あの時代の音楽、建築、家電、すべてが ‘温かみ’ に溢れているの!!」
「確かに、昭和の文化には独特の良さがありますよね。」先生が頷く。「特にどんな曲を聴くと落ち着きますか?」
「うーん……やっぱりテレサ・テンとかね。 ‘時の流れに身をまかせ’ を聞くと、なんか心が穏やかになるのよ。」
「なるほど…… ‘テレサ・テンが琴美さんのメンタルバランスを保つ重要な要素’ ……っと。」
「だから!!いちいち書かないでってば!!!」
先生はメモを取りながら、ふと何かを思いついたように頷いた。
「それなら、これから ‘怒りを感じたときは昭和歌謡を聴く’ という方法を試してみるのはどうでしょう?」
「……まあ、それなら別にいいわね。ちょうどウォークマン持ち歩いてるし。」
「ウォークマン!? えっ、あのカセットテープのやつですか!?」
「そうよ!!最近のデジタル音楽なんて味気ないのよ!!」
「…… ‘現代技術を拒否する強いこだわり’ ……っと。」
「だからメモするなー!!!」
カウンセリングセンターを出ると、真平が待っていた。
「で、どうだった?」
「ふふん、私 ‘異常なし’ ってことで終わったわ!!」
「絶対そんなはずないだろ。」
「ほら、 ‘怒ったら昭和歌謡を聴く’ って対策が出たのよ!!」
「……お前、それって ‘根本的な解決’ じゃなくて、ただの ‘昭和教布教活動’ になってないか?」
「何よ!!昭和文化に包まれてれば、世界は平和になるのよ!!」
「やっぱりお前の ‘思想’ が一番ヤバいと思うんだが……」
「うるさい!! ‘戦国武将も昭和歌謡を聴けば争いがなくなる’ これでいいのよ!!」
「理論めちゃくちゃすぎるわ!!」




