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暴力性95%の女子高生

 帰りのホームルームが終わり、部室に向かおうとする真平に、歴史教師であり日ノ本文化部の顧問・織田市子先生が声をかけた。

「伊勢野君、少し時間いいかな?」

「?」と首をかしげながらも、真平は織田先生に促され、歴史資料準備室へと足を運んだ。

「話というのはね、この間の ‘人間性及び性格判断’ なんだけど…」先生の言葉は、どこか歯切れが悪い。

「琴美…ですか?」真平の直感が当たったらしく、織田先生は小さくため息をついた。

「……まあ、簡単に言うと、吉峰さんの ‘女性らしさ’ の数値がほぼゼロなのよね。」

「は?」突然の話に、真平は思わず声を漏らした。

「それだけじゃなくてね、あの子…… ‘暴力性の傾向’ が突出してるのよ。」

「いや、それってもう ‘問題児’ じゃないですか!?」

「そうねぇ……」先生は苦笑いしながら、机の上の資料をペラペラとめくる。

「ほら、この ‘性格傾向グラフ’ を見てごらんなさい。」

 渡された紙には、琴美の性格分析結果がグラフ化されていた。

——女性らしさ: 1 / 100

——攻撃性: 95 / 100

——自己主張の強さ: 98 / 100

——他者支配傾向: 90 / 100

——協調性: 40 / 100

「……ちょっと待ってください、これ ‘戦国武将’ のデータじゃないですか?」

「私もそう思ったわ。でも、これは現代の女子高生のデータなのよね……」先生は資料を見つめながら、複雑そうな表情を浮かべる。

「そこで、ちょっと気になって ‘ルーツ’ を調べてみたの。」

「ルーツ……?」

「吉峰家の祖先を調査してみたら、どうやら坂上田村麻呂の配下にいた戦士たちが、この地に根付いたのが起源らしいのよ。」

「……歴史のスケールがデカすぎるんですが。」

「それだけじゃないの。鎌倉時代は那須氏の郎等ろうとう、室町時代から戦国時代にかけては野武士の頭目として活躍していた記録があるのよ。」

「……なるほど、筋金入りの ‘武人の血統’ ってことですね。」

「ええ。そして、江戸時代以降は ‘刀鍛冶’ や ‘足の裏マッサージ’ を生業にしていたみたいなのよね。」

「……ちょっと ‘戦’ から ‘癒し’ への転換が極端すぎません?」

「まぁ、人は戦うだけじゃ生きていけないってことかしらね。」

先生は資料を閉じると、少しだけ真剣な表情になった。

「さて、本題なんだけど……伊勢野君、琴美さんを ‘カウンセリング’ に行かせられないかしら?」

「は!? カウンセリング!?」

「ええ、やっぱり ‘暴力性の傾向’ が高いのは心配なのよね。」

「……でも先生、琴美に ‘カウンセリング行こう’ って言ったら、たぶん ‘私は問題ない!’ って言って終わりますよ?」

「そこを、なんとか ‘自然な流れ’ で誘導してほしいのよ。」

「いや、だから、それが無理だって……。」真平は頭を抱えた。

「伊勢野君、頼んだわね♪」

「ちょっと待って!先生!? 俺、また ‘無理難題’ 押しつけられてません!?」

「フフフ~、期待してるわ♪」


「いやよ!絶対にイヤ!!どこも悪くないのにどうして病院なんか!!!」

 案の定、部室で真平が話題にしただけで、琴美は全身で拒否反応を示した。

「ただお医者さんと話をするだけ、注射じゃない!口の中にガーガーする機械もいれない。簡単なカウンセリングだ」

 真平はなるべく落ち着いた声で説得しようとしたが、琴美は腕を組んで強固な防御体勢に入っている。

「それでもイヤ!なんで私がそんなの行かなきゃいけないのよ!」

「だってお前、攻撃性95% って結果が出てるんだぞ……」

「はぁ!?なによその ‘攻撃性’ って!戦国時代の武士か何か!?」

「実際に先生が ‘戦国武将レベル’ って言ってたんだけど……」

「ふざけんな!そんな診断、インチキよ!私のどこが ‘暴力性が高い’ っていうのよ!!」

「いやいや、琴美先輩……先週の放課後、ドアを開けた勇馬に飛び蹴りかましてませんでした?」

「それは ‘勢い余っただけ’ でしょ!」

「じゃあ昨日の体育館前で、バスケ部の男子がぶつかってきたとき、投げ飛ばしたのは?」

「はぁ!?あれは ‘反射’ よ ‘反射’!!」

「……反射で人を投げ飛ばす時点でヤバい ってことに気づいてくれ!!」

「ぐぬぬ……」

「パォ~……たしかに琴美先輩、日常的に ‘武人’ みたいな動きしてますよね~。」

シャオが無邪気に言うと、琴美はバッと振り返った。

「お前も言うんじゃない!!そもそも ‘攻撃性’ って何よ!?私、誰かに襲いかかったことなんてある!?」

「……昨日、プリンを巡って沙羅先輩と小競り合いしてましたよね?」

「いや、あれは ‘食の戦い’ であって ‘暴力’ じゃないわ!」

「パォ~、先輩、それを ‘暴力’ って言うのでは?」

「うるさい!!!」琴美は机をバン!と叩く。

「ねえねえ、ちょっと待って。」美優がほんわかした声で口を挟んだ。「カウンセリングって、お話するだけなんですよね~?それって、別に怖くないんじゃ?」

「そうよね~。ただの ‘お話’ なのに、そんなに拒否するのは逆に ‘ヤマシイ’ んじゃないですか~?」

沙羅がニヤニヤしながら挑発すると、琴美はギリリと歯を食いしばった。

「ぐぬぬ……別に ‘ヤマシイ’ ことなんてないわよ!!!」

「じゃあ行けばいいじゃん。」

「……行かないわよ!!!」

 真平は深くため息をついた。

「……琴美、お前、 ‘敵陣に単騎で突っ込む’ くらいの勇気はあるのに、なんで ‘カウンセリング’ だけはそんなにビビるんだよ……」

「ちょっと待ちなさいよ!私が ‘ビビってる’ って言いたいわけ!?違うわよ!!!」

「じゃあ、行けば?」

「……ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」

 琴美の葛藤する表情を見ながら、勇馬がぼそりと呟いた。

「琴美先輩、 ‘行かない’ って言ってるけどさ、これってもう ‘負け’ じゃないですか?」

「……はぁ!?なによそれ!!」

「ほら、結局 ‘怖くて行けない’ って思われちゃってるんじゃないですか?」

「…………」

 琴美はしばらく黙っていたが、やがてフンッと鼻を鳴らして、

「……べ、別に ‘怖くて行けない’ わけじゃないわよ!ただ ‘必要ない’ って言ってるだけよ!!」

「じゃあ、行けば?」

「…………ッ!!!」

 琴美はぎりぎりと拳を握りしめたあと、

「……わかったわよ!!行けばいいんでしょ!!行けば!!」

 ようやく折れた。

「おぉー!」

 部員たちが拍手をすると、琴美はムスッとした顔で腕を組んだ。

「ただし!! ‘私に問題がない’ って証明できたら、これ以降 ‘カウンセリング’ なんて話を持ち出さないこと!!」

「はいはい、わかったわかった。」

「ふんっ!覚悟してなさいよ!! ‘何も問題ありません’ って診断をもらって、‘私の無実’ を証明してやるんだから!!!」

 琴美は勝ち誇った顔で宣言したが、

 その様子を見ていた真平と沙羅は、同時に小さく呟いた。

「……いや、むしろ ‘問題しかない’ と思うけどな。」


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