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文化部、取り調べは物理で

 悪夢のような週末が終わり、いつもの日常が始まろうとしていた。

 真平と沙羅は並んで歩き、少し後に萌香が続いて登校する。

「……いやぁ、本当に ‘戦士’ になっちまうかと思ったぜ……。」

 真平は大きく伸びをしながら、どっと疲れが残る週末を思い出していた。

「まぁ、最終的に ‘気のコントロール’ をマスターして、元の体に戻れたんだから結果オーライでしょ♪」沙羅は涼しい顔で笑う。

「でも、お姉ちゃんだけかな?」萌香が後ろから顔を覗かせ、興味津々に尋ねる。

「……え?」

「琴っちや美優っちもバキバキになってたりして?」

「……いやいやいや、さすがにそれはないだろ?」真平は苦笑しながらツッコむが、どこか不安がよぎる。

「でも、お姉ちゃんだけ ‘戦士化’ したわけじゃないでしょ? 文化部のみんなも、無意識に ‘気’ を使ってるかもしれないよ?」

萌香はまるで探偵のように、推理するような目つきで言った。

「いやいや、琴美なら‘ほら見て真平!シックスパック’とか言って自慢するだろ」だがもし美優がバキバキになっていたら…

「……いや、待て待て待て!! 美優が ‘戦士化’ してたら、それこそ文化部の未来が危ういだろ!!」

真平は全力で首を振りながら、恐怖の想像を振り払おうとした。

「美優ちゃんもしかしたら一人で悩んでいるかも、確認しないとね♪」


 昼休みみんなが集まり弁当を広げ始め、美優はいつものように優雅な手つきでお茶を淹れ、琴美はご機嫌にサンドイッチをかじっている。沙羅と真平は、美優の様子をじっと観察していた。

 ——琴美は、どう見ても戦士化とは無縁だ。

「ほら、見てよ! このタマゴサンド、ふわふわでめっちゃ美味しいよ~♪」

 そう言いながら、無邪気にサンドイッチをかじる琴美。彼女の体型に、ムキムキの筋肉などどこにも見当たらない。

「うん、琴美はやっぱり ‘普通’ だな……。」真平がホッと胸をなでおろす。

 さて、どうやって確認しようものかと思案していると、片付けに炊事場に向かう美優の後を沙羅とシャオが続く。

「ねぇ美優、悪いんだけどお腹見せて」

 沙羅の直球すぎる要求に、美優はキョトンとした表情を浮かべる。

 シャオも興味津々といった様子で、美優の反応を見守っている。

「え……? お腹……ですか?」

美優はぽわぽわとした笑顔を浮かべながら、自分の手をそっとお腹に当てた。

「いや、違うのよ美優。ちょっと、文化部の ‘新しい問題’ について調査しててね……」

沙羅は探るような視線を美優の腹部に向ける。

「えぇっ!? わ、私、お腹なんて見せるのはちょっと恥ずかしいです~!」

美優は顔を赤らめながら、制服の裾をぎゅっと握りしめる。

「いやいや、別に恥ずかしがることないでしょ? ただの ‘確認’ なんだからさ!」

沙羅はグイグイと迫るが、美優は後ずさりして首を振る。

「ダメです~! 私、そんな突然 ‘見せて’ なんて……!」

「あぁ~もう~じれったい!」沙羅は美優を宿直室の畳に押し倒し、「シャオ!両手押さえて!」「パォ!」

「あ~~~~ん」部室に美優のあまっとろい悲鳴が響く。

「ちょっ……!? 沙羅先輩~~!? そんな乱暴はダメですぅ~!」

美優は、畳の上で困惑した顔をしながらも、か細い声で抗議する。

「いいから観念しなさい!」

沙羅は美優の制服の裾をめくろうとし、シャオも両手をしっかり押さえる。

「パォ~♪ これも ‘文化部の研究’ のためです~♪」

「いやいやいや!!!」

その場に入ってきた真平が、盛大にツッコミを入れながら駆け寄った。

「お前ら、どんだけ強引なんだよ!! これはもう ‘文化部の調査’ じゃなくて ‘取り調べ’ だろ!!」

「いいから協力しなさいよ、真平!」

「協力するわけねぇだろ!!!」

「ちょっと、何の騒ぎ?」そこへ、琴美がのんびりとお茶を片手にやってくる。

「……え?」琴美は目の前の光景を見て、一瞬フリーズする。

——畳の上に押し倒された美優。

——その両腕をしっかり押さえるシャオ。

——その裾をめくろうとする沙羅。

——そして、慌てふためく真平。

「えぇ~~~……??何やってんの!あんたたち!!」琴美の大声で拘束が緩み美優は慌てて琴美の後ろに隠れる。

「沙羅!あんたそっちのほうだったの?!」

「違ーーーーーーーーーう!!」沙羅は勢いよく立ち上がり、全力で否定した。

「違うの!? でも、今の流れは完全に ‘そっち系’ だったでしょ!!?」

琴美はお茶をこぼしそうになりながら、目を見開く。

「いやだから、これは ‘文化部の調査’ であって!! 変な意味じゃない!!!」

「でも、私……すごく恥ずかしかったです~……」

美優は琴美の背中に隠れたまま、顔を真っ赤にしている。

「……パォ?」シャオも状況をよく分かっていないのか、首を傾げている。

「だからさ、美優が ‘戦士化’ してるかどうかを確認しようとしただけなんだよ!!」

沙羅が必死に弁明するが、琴美の疑いの目は鋭い。

「……戦士化?」

「えっと……説明すると長くなるんだけど……」真平は頭を抱えた。

「ちょっと待ってよ、文化部って ‘昭和文化を研究する’ んだよね? なんで ‘戦士化’ の確認が必要なの?」琴美は呆れたように腕を組む。

「いや、それが……文化部の ‘活動の影響’ で、私が ‘気’ を操れるようになって、筋肉ムキムキになっちゃったのよ!」

「……え?」

琴美がポカンとした顔で沙羅を見る。

「だから、それが ‘気のコントロール’ で元の体型に戻ったんだけど、もしかして美優も ‘戦士化’ してたら大変だと思って……」

「……で、お腹をめくろうとしたの?」

「そう!! いや、違う!!! いや、違わないけど!!!」

「どっちよ!!」

琴美の鋭いツッコミが炸裂した。

「でも、美優が ‘戦士化’ してないのなら、問題は解決ってことでいいのよね?」

「……はい~。私は ‘普通’ のままみたいです~。」

美優はようやく落ち着いた様子で、そっと胸を撫でおろした。


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