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戦士の休日

「猫カフェ以外ならどこでもいいぞ」真平のその一言に、沙羅はちょっとだけ笑った。

 結局、二人は映画を観ながらスナック菓子を食べ、なんとなく落ち着きを取り戻した。画面の中ではカンフー映画の主人公が華麗な動きを見せている。

「……ふぅ。まぁ、こんなのを見てると、 ‘こんな体も悪くないかもな’ って思えてくるわね……。」

「だろ?」

「でも、 ‘文化部のせい’ で知らぬ間に鍛えられてたのは納得いかないわ。」

「まぁ、文化部だからな……。ってか、バイクに乗るのに筋肉って邪魔にならないのか?」

「……どうなんだろう?」

 少し考えた後、沙羅はスマホで検索を始めた。

「バイク 筋肉 必要?」

 しばらくの沈黙の後、彼女はじっと検索結果を見つめた。

——「意外にもバイクは体幹を使うスポーツです!」

「……あれ? もしかして、鍛えられてた方が ‘ツーリング向き’ ってこと……?」

「よかったな、 ‘戦士の体’ も役に立つぞ。」

「なんか、負けた気がする……。」


翌朝。

 すっかり晴れ渡った青空の下、磯貝家のガレージには、颯爽とした姿の沙羅がいた。

「さてと……。真平、行くわよ。」

「おいおい、まだエンジンかけてもねぇのに ‘出発’ みたいなテンションやめろって。」

「私の ‘戦士の体’ の威力を確かめるには、走るしかないのよ!」

「いや、バイクに乗るのって ‘筋トレの成果’ を試すもんじゃねぇだろ!!」

「細かいことは気にしない!!」

 朝日が降り注ぐ中、ガレージに響くのはエンジンの鼓動。磯貝沙羅はバイクにまたがり、サイドカーに真平を乗せる準備をしていた。

「さてと……。」

 革ジャンの襟を正し、軽くストレッチをする。ショートパンツにロングブーツの沙羅はかっこよかった。

 昨日気づいた“戦士の体”が、自然と馴染んできた気がする。

「ゲームに出てくる女戦士みたいだな。」真平は思わず本音を漏らしてしまった。

「……は?」バイクのヘルメットを手にしたまま、沙羅がゆっくりと振り向く。

「あ、いや、その……その格好といい、腹筋といい……。なんか ‘ファンタジーRPGの女戦士’ っぽいっていうか……。」

「……つまり?」

「……カッコいいってことだよ!!」

 瞬時に命の危機を察知し、全力でフォローを入れる真平。

「ふん、最初からそう言いなさいよ。」

 沙羅はニヤリと笑い、満足そうにヘルメットをかぶった。

「さて、戦士のツーリングを始めるわよ!」

「おいおい、まだ ‘戦士’ の肩書き捨ててなかったのかよ……。」

「当然でしょ? ‘戦士の体’ を得たからには、それを ‘活かす’ のが文化部流よ!」

「それ、文化部っていうか ‘筋肉至上主義の部活’ みたいになってない?」

「細かいことは気にしない!!」

 朝日を浴びながら、バイクのエンジンが唸る。

「ほら、乗りなさいよ、雑用係!」

「もうその呼び方で定着してんのかよ……。」

 真平は渋々サイドカーに乗り込むと、大きく息を吐いた。

「出発よ!!」

「うぉぉおい!!!? まだ心の準備が——」

ブオォォォォン!!!!

 磯貝家のガレージから勢いよく飛び出すサイドカー。サイドカーに乗ったまま、真平は顔を青ざめさせる。

「おまえ、スピード落とせぇぇぇ!!!」

「戦士はスピードに恐れちゃダメなのよ!」

「俺 ‘戦士’ じゃねぇんだけど!?!?」

 那須の山道を駆け抜ける二人。道は空いており、ツーリングには最高のコンディション。

「ほら、見なさい! 空も綺麗、風も気持ちいい……これが ‘戦士の走り’ よ!」

「いや、 ‘普通のツーリング’ だろ、どう考えても!!」

「まぁ、せっかくだし ‘戦士の特訓’ も兼ねて、ちょっと山の方まで行ってみようかしら。」

「おい、山道はやめろ!!! 俺の ‘雑用係人生’ に終止符が打たれる!!!」

 だが、沙羅は聞く耳を持たず、ハンドルを山道へと向ける。

「行くわよ、 ‘サイドカーの勇士’ !!」

「だから、その ‘謎の称号’ をやめろってぇぇぇ!!!」

 カーブを鋭く曲がり、加速するバイク。

「おい、ここ道細くね!? マジで危ないって!!!」

「真平、戦士は ‘ちょっとやそっとの障害’ で怖がってちゃダメなのよ!!」

「いや、普通に ‘安全運転’ しろよ!!!」

 結局、無事に山道を走破し、二人はツーリングスポットのカフェに到着した。山の絶景を見渡しながら、コーヒーを片手にひと息つく。

「……ふぅ、紅葉にはまだ早かったな。」

 真平は大きく息をつきながら、カフェのテラス席でホットコーヒーを一口。先ほどまでの “命がけの戦士ツーリング” のせいで、胃がキリキリしている。

「まぁ、でも天気もいいし、こうやってツーリングの休憩をするのは悪くないかもな。」

「でしょ? ‘戦士’ の走りを経験したら、こんな景色のありがたみも増すってもんよ!」

「いや、俺は ‘ただの雑用係’ だからな? ‘戦士の走り’ じゃなくて ‘サバイバルの走り’ だったんだけど。」

 真平は肩をすくめながら、目の前のカップを手に取る。

「……つーか、やっぱりおまえの運転、ヤバすぎるだろ……。」

「何言ってんのよ、私は ‘戦士’ なのよ? スピードとパワーがあるのは当然でしょ?」

「戦士だからって ‘公道’ で ‘クエストモード’ に入るな!!! 俺、途中から ‘クエスト失敗’ するかと思ったんだぞ!!!」

「まぁまぁ、結果オーライよ。」

 沙羅は紅茶を飲みながら、スマホを操作する。

「でも、思ったより ‘この体’ にも慣れてきたわね。」

「……もう ‘戦士の体’ を受け入れたのかよ……。」

「最初はショックだったけど、こうやって走ってると ‘悪くないな’ って思えてきたわ。」

 沙羅は腕を伸ばし、軽く肩を回す。バイクにまたがったときの安定感、ワインディングでの操作性——確かに以前より楽に感じるのは、“戦士の体” の恩恵かもしれない。

 二人はコーヒーを飲みながら、しばし静かに景色を眺めた。

「……で、この後どうする?」

「決まってるでしょ。」

 沙羅はグッと拳を握り、目を輝かせた。

「 ‘戦士’ の体を活かして、このまま温泉に行くわよ!!!」

「……おまえ、結局 ‘戦士’ って肩書き、気に入ってんじゃねぇか。」

「いいじゃない、どうせなら ‘戦士ライフ’ 楽しまなきゃ!」

「……はぁ、もう好きにしてくれ……。」


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