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帰ってきた日ノ本文化部

 飛行機が日本の滑走路に降り立つと、文化部メンバーは一斉に歓声を上げた。

「うぉぉぉぉ!!! 日本の空気だ!!」

 琴美は思いっきり深呼吸をする。勇馬は空港の案内表示を見つめながら、しみじみとつぶやいた。

「おぉ……帰ってきたんだな……」

 真平はスーツケースを転がしながら、遠い目をする。

「いやぁ……楽しかったけど……すごい旅だったよな……」

「えへへ~♪ 温泉が恋しくなりますね~♪」

 美優がのほほんと微笑む。萌香がふと沙羅の荷物を見つめた。

「お姉ちゃん、スーツケースの中身ほぼ ‘食べ物’ じゃない?」

「バレたか……!!!」

 沙羅はハッとするが、すぐに開き直る。

「だって台湾グルメ美味しかったんだもん!! みんなで食べる用だから!!」

「うわぁぁぁぁ……まだ ‘台湾ロス’ から抜け出せない……」

 琴美はスマホの写真をスクロールしながらため息をつく。真平も額を押さえて苦笑した。

「いや、むしろ ‘文化部 in 台湾’ のせいで、現実感が麻痺してるんだが……」

 勇馬が車窓の景色を眺めながらつぶやく。

「……なぁ、なんか ‘異世界から戻ってきた’ 感、すごくない?」

「日本に帰ってきたのに、まだ夢の中みたいな気分ですね~♪」

 美優がほわほわとした声で言う。窓の外には、見慣れた那須塩原の景色が広がっていた。

「あっ!! あの風景、懐かしい!!」

 琴美が指をさす。

「いやいや、たった ‘数日’ だっただろ!? 何年ぶりに帰ってきたみたいなリアクションするな!」

 真平がツッコむと、沙羅がしみじみとつぶやいた。

「たしかに、台湾では ‘全部VIP’ だったもんね……」

「パォ~♪ ……あっ、いないんでした~!」

 シャオの口癖が聞こえないことに、一瞬しんみりするメンバー。

「そっか……シャオ、まだ台湾かぁ……」

 萌香が少し寂しそうに言うと、琴美は笑顔で言った。

「始業式には戻ってくるって言ってたし、またすぐ会えるよな!」

 そう言うと、みんなも自然と笑顔になった。

 

 学校に戻り、文化部の部室へ向かう。扉を開けると、いつもと変わらない昭和レトロな空間がそこにあった。

「ただいまーー!!!」

 琴美が勢いよく畳にダイブする。

「うわぁぁぁ……この懐かしい雰囲気!!」

「いや、帰ってきたばっかで ‘もう昭和成分補充’ してるの?」

 真平が呆れながら部室を見回す。勇馬は棚を見つめながら静かに言った。

「そうだね…… ‘日常’ に帰ってきた感じがする……」

 沙羅が腕を組んでニヤリと笑う。「みんな!宿題の残りどう?」

 一瞬にして部室の空気が凍りつく。

「えっ?」琴美の笑顔が止まる。

「……え?」真平もピタリと動きを止める。

「は?」勇馬が冷静に状況を把握しようとするが、頭が追いつかない。

「宿題?」美優がぽかんとしながら小首をかしげる。

 萌香が焦りながら沙羅を見上げた。

「お姉ちゃん!? いきなり ‘残酷な質問’ しないでよ!!」

「え? だって ‘新学期’ もうすぐじゃん?」

「うわぁぁぁぁ!!!」琴美、絶叫。

「やべぇぇぇぇ!!!」真平、額に手を当てる。

「いや……僕は、 ‘旅行前にちゃんと終わらせましたけど……」

 勇馬が淡々と答えると、琴美と真平が猛スピードで振り向いた。

「マジかお前!? 未来人か!?」

「異次元の存在……!」

「えへへ~♪ 私も終わってます~♪」

 美優がほんわか笑顔で言うと、琴美と真平はさらにショックを受ける。

「なん……だと……!?」

「美優が ‘天才’ すぎる……!」

「え? みんな普通に終わらせてるんじゃないの?」

 沙羅がキョトンとする。

「無理無理無理!!!」琴美が机に突っ伏す。

「ま、まぁ、残りの時間で頑張るしかないわね。」

「いやいやいや!! 残り時間 ‘数日’ しかないんだけど!?」

 琴美が半泣きで叫ぶ。

「おい、ちょっと待て…… ‘夏休みの宿題’ って、どのくらい残ってるんだ?」

 真平が恐る恐る尋ねると、美優が指を折りながら数え始めた。

「えっとねー…… ‘読書感想文’ 、 ‘数学ドリル’ 、 ‘理科の自由研究’ 、 ‘社会のレポート’ 、 ‘英語の課題’ でしょ~?」

「多い!! てか ‘自由研究’ は ‘台湾旅行’ でいけるんじゃないか!?」

「いやいや、 ‘自由研究’ って ‘何かしらのデータや考察’ が必要でしょ?」

「うわぁぁぁぁあああ!!!」琴美、机に突っ伏す。

「終わった……俺たちの ‘夏’ は終わった……」

「まぁまぁ、 ‘みんなでやれば’ 何とかなるんじゃない?」

「え? ‘みんな’ って ‘誰’ のこと?」

「えへへ~♪ ‘文化部のみんな’ です~♪」

「えっ!? ‘文化部’ って ‘助け合いの場’ じゃないんですか?」

 美優がキラキラした目で言う。琴美はふと幻聴が聞こえた気がした。

「パォ~♪ 私も ‘台湾’ から戻ったら手伝いますね~!」

「シャオ~!!! 戻ってきてくれぇぇぇぇぇ!!!!」

 こうして、文化部メンバーは夏休みの宿題との戦いに突入することとなる——。

「さぁあんた達、今日から部室で宿題の残り片付けるわよ!!」

 琴美と真平は旅行の余韻ひたる間もなく絶望が訪れた。


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