王総帥の感謝
ディナーの宴もたけなわ。
豪華な円卓に並ぶ台湾料理を楽しみながら、文化部メンバーは 王家の歓待 に圧倒されていた。
そんな中、王家の当主 王立徳 が静かに席を立ち、文化部の方へと歩み寄った。
「……改めまして、皆さん」
彼は重厚な声で語り始める。
その威厳に満ちた佇まいに、文化部メンバーは 思わず背筋を正した 。
王立徳は、じっと 生徒会長・博美の方を見つめ 、深々と頭を下げた。
「大野博美さん」
「……はい?」
「あなたが、寮生活を支えてくださったこと、心より感謝いたします」
「っ……!」博美は 驚いたように目を見開く 。
「私は財閥の長として多忙の身。小梅を日本に送り出すと決めた時、彼女が異国の地で寂しい思いをしないか、それだけが心配でした」
「しかし、あなたが寮に残り、彼女の面倒を見てくれていると聞きました。あなたのような面倒見の良い方がいてくれたこと、私にとっては何よりの安心でした」
「……私は、生徒会長として当然のことをしたまでです」博美は、そう静かに答えた。
「当然、ですか」王立徳は少し微笑み、言葉を続けた。
「手紙に、あなたのことがよく書かれていました。『生徒会長さんは厳しいけれど、いつも見守ってくれている』と」
「……」
「彼女はまだ若い。しかし、そんな彼女があなたを信頼していることは、親として何より嬉しいことです」
「……ありがとうございます」博美は 静かに頭を下げた 。
そんな彼女を、シャオは にこにこと見つめていた 。
次に、王立徳は 琴美の方へと視線を向ける 。
「吉峰琴美さん」
「は、はいっ!」
「日ノ本文化部を作り上げ、素晴らしい拠り所 を与えてくれたこと……心から感謝します」
「っ!?」琴美は 驚きと感動で目を丸くする 。
「日本に留学したのは、単なる学びのためではありません。彼女には、新しい文化に触れ、友情を育み、人生を楽しんでほしいと思っていました」
「しかし、彼女が日本に渡ってすぐの頃、私は少しだけ不安だったのです」
「……え?」
「もともと自由奔放な娘です。だが、その自由さが逆に孤独につながることもあるのではないか、と」
「……」
「だが、彼女が日ノ本文化部に入ったと聞いた時、私は思いました。『この子は、素晴らしい居場所を見つけたのだ』と」
「……」琴美は、何とも言えない気持ちになった。
「琴美さん。あなたがこの部を立ち上げてくれたこと、私は心から感謝します 」
「……っ」琴美は 涙をこらえながら、言葉を続ける。
「お父様にはパソコン手配していただいたり、別荘にお魚差し入れしていただいたり、本当にお世話になってるのはこっちの方です!」
琴美は、感謝の気持ちを必死に伝えようとするが、言葉が詰まり、思わず拳を握りしめた。
王立徳はそんな彼女を優しく見つめ、静かに頷いた。「いいんです。文化とは、本来こういうもの。互いに与え合い、育んでいくものです」
「琴美さん、あなたは文化を大切にし、人とのつながりを何よりも重んじる人だと聞いています。それが、小梅にとってどれほど救いになったか、あなた自身が思っている以上の価値があるのです」
琴美はぐっと唇を噛み、ついに堪えきれず、目頭を押さえながら「うぅ…そんな大げさなことじゃ…!」と泣き笑いしながら言った。
「ふふ、琴美先輩らしいですね」シャオが笑いながら琴美の袖を引っ張る。「でも、本当にありがとう!私、文化部に入って、すごく楽しいし、みんなと一緒にいられて幸せ!」
「うん…うん…!」琴美は勢いよくうなずき、シャオの手をぎゅっと握った。
最後に、王立徳は 真平の方へと向き直る 。
「伊勢野真平くん」
「え、えっ!? 俺!?」突然の指名に、真平は うろたえながらも姿勢を正す 。
「君には、特に礼を言わねばなりません」
「は、はあ……?」
「君は、シャオにとって “壮士”と呼ぶにふさわしい人物 だと聞いています」
「…………壮士」
真平は 混乱しながら 琴美の方を見るが、琴美も「知らん」と言いたげに肩をすくめた。
「シャオは、いつも君のことを楽しそうに話していた。『真平先輩は、なんだかんだ言って いつも助けてくれるんです~! すごく優しくて、頼りになるんですよ~!』と」
「お、おいシャオ!? そんなこと言ってたのかよ!?」真平が 真っ赤になりながら シャオの方を見る。
シャオは ニコニコしながら親指を立てている 。
「パォ~♪ 本当のことです~♪」
「……はぁぁ……マジかよ……」真平は 気恥ずかしそうに後頭部をかいた 。
「君が、シャオにとって 兄のような存在であったこと 、私はとても感謝しています」
「いやいや、俺はただ……文化部の活動に巻き込まれてただけというか……」
「それでも、シャオが『君がいたから楽しい』と言っているのなら、それは 君が彼女にとって大切な存在 だからだ」
「……っ」
「これからも、彼女のことを よろしく頼みます 」
王立徳は 穏やかに微笑み、深く頭を下げた 。
「い、いやいやいや!! そんなこと言われたら、俺の方が恐縮なんだけど!!」
「パォ~♪ 真平先輩、よろしくお願いしますね~♪」
真平の「お、お前なぁぁぁぁ!!!」という叫びが響くなか、宴の場は一瞬の静寂に包まれた。
しかし、その次の瞬間――
「パォ~♪ 真平先輩、顔が赤いです~!」
「うるせぇぇぇぇぇ!!! こんな大勢の前で言われたら誰だって恥ずかしいだろ!!!」
「えへへ~♪ じゃあ、もっと照れる話をしましょうか~?」
「いや、やめろやめろやめろ!!!」
シャオの小悪魔的な笑みに、文化部メンバーは思わず苦笑した。
そんな光景を見ながら、王家の家族たちは微笑ましく見守っていた。
王美玲(シャオの母)は優雅に微笑みながら、
「ふふ、シャオがここまで楽しそうに話すのは珍しいわね」
王天翔(シャオの兄)は腕を組みながら、
「……ふむ。伊勢野くん、君はまさか妹のボディガードなのか?」
「いや、違います!!!!」即答する真平。
「パォ~♪ でも、真平先輩は なんとなく護衛みたいな存在です~♪」
「だから違うっての!!!」
王豊明(シャオの姉)はクスクスと笑いながら、
「なるほど、これは面白いわね。君たちの学校生活、ぜひ取材したいわ」
「取材!?!?」琴美が 目を輝かせる 。
「えっ、テレビ出演!? 文化部がついに全国放送デビュー!?」
「パォ~!? それは面白そうです~!」
「いやいやいや!!! 俺は目立ちたくないから!!!」真平、ますます翻弄される。
一方、文化部とは別の視線があった。
シャオの弟、王子涵(15歳)が ジッと博美を見つめている 。
「……」
「……?」
博美は王家のエリート弟の 妙な視線 に気づいた。
「何か?」
「……君、強いのか?」
「え?」
突然の質問に、文化部メンバーは 「え?」「どういうこと?」 とざわつく。
「姉貴から聞いた。君は空手をやっているらしいな?」
「……ええ、そうですが?」
王子涵は ニヤリと笑う 。「なら、俺と手合わせしてみないか?」
「えっ!? ま、まさかの戦闘フラグ!?」琴美が 興奮しながら実況モード に入る。
「いや、ここ晩餐の席だから!!」沙羅が 即ツッコミを入れる 。
しかし――
「ふむ……」
博美は 少しだけ考え込んだ後 、静かに微笑んだ。
「……いいでしょう」
「うおおおおお!?!?!?!?」
文化部メンバー 衝撃の展開に仰天 。
「パォ~!? すごいです~! 生徒会長さん、私の弟と試合するんですか~!?」
「……まあ、君の家に泊めてもらう身ですし。興味はありますね」
「か、会長……まさか 戦う気満々 なのですか!?」巫鈴が訊ねる。




