夏休みの寮生活
花火の残り香が漂う夜空を見上げながら、文化部メンバーはそれぞれ余韻に浸っていた。
「……ふぅ、食べすぎたな」
真平が腹をさすりながらつぶやく。
「パォ~! 私もです~! でも、お好み焼きは別腹ですね~!」
シャオは満面の笑みで手を広げた。
「シャオの早食い大会、すごかったよな……」
勇馬が呆れたように言う。
「うふふ~♪ 台湾でもよく食べますから~!」
そんなやり取りをしながら、磯貝亭の片付けを手伝っていた時、ふと真平がシャオに尋ねた。
「そういや、シャオって夏休みの間、寮でどうやって過ごしてるんだ?」
「パォ~?」
シャオは少し考えてから、ニコニコと答えた。
「えっとですね~、寮は意外と静かです~。夏休みは帰省する人が多いですから~」
「なるほどな。でも、一人だと退屈しねぇ?」
「そんなことないですよ~! 生徒会長さんが残ってますから!」
「……生徒会長?」
その言葉を聞いて、真平は驚いた。
「ええっ!? あの 大野博美 さんが寮に残ってるのか?」
「パォ~! そうです~!」
生徒会長・大野博美――この学園の生徒会を仕切るクールビューティーとして有名な人物だ。
学業優秀・品行方正・完璧主義。
そんな彼女が寮に残っているというのは、かなり意外な情報だった。
「まじかよ……てっきり実家があるのかと思ってた」
「パォ~、生徒会のお仕事があるらしいです~! だから、夏休みも寮に残ってるみたいです~」
「……さすが生徒会長だな」
真平は、学園のトップがわざわざ寮に残ることに違和感を覚えた。
「それで、シャオはその生徒会長と仲いいのか?」
「パォ~! 仲良しです~!」
「ほんとかよ!? なんか生徒会長って、めっちゃキッチリしてて話しかけづらそうなイメージあるけど……」
「そんなことないですよ~! 生徒会長さん、すっごく面倒見がいいです~!」
「……なんか、イメージと違うな」
「パォ~! 例えばですね~……」
夜の見回り
「王さん、夜更かしは厳禁ですよ」
「パォ~!? まだ22時ですよ~!」
「22時は寮の消灯時間です」
「パォォォォ~!!!」
シャオは泣く泣く部屋に戻される。
朝の健康管理
「王さん、朝食はちゃんと食べましたか?」
「パォ~! 今日はパンだけです~」
「ダメです。バランスよく食べなさい。これ、野菜ジュース」
「うぅ~……生徒会長さん、お母さんみたいです~!」
そんなやり取りをしながらも、シャオは 大野博美の優しさ を感じていた。
「……って感じで、生徒会長さん、すっごくしっかりしてるんですけど、優しいんですよ~!」
シャオの話を聞き終え、真平は妙に納得したように頷いた。
「なるほどな……それ、もう寮母さんじゃね?」
「パォ~! そんな感じです~!」
「へぇ~、でもそんな生徒会長が寮にいるなら、ちょっと安心かもな」
「パォ~! そうです~!」
その時、沙羅がふと思い出したように口を挟んだ。
「あれ? そういえば、大野先輩って 文化部の活動を結構気にしてる って聞いたことあるわよ」
「え? そうなの?」
「なんか、学園の『伝統』を重んじるタイプらしいし……文化部の活動、気になってるんじゃない?」
「パォ~! そうかもしれません~!」
「……ってことは、そのうち 生徒会の視察 とか来る可能性あるのか!?」
「パォォォ!? それはちょっとプレッシャーです~!!!」
シャオからの話を聞いていた真平は、ふと あること に気がついた。
「なぁ、シャオ」
「パォ~? なんですか~?」
「……生徒会長が寮に残ってるのって、ひょっとして お前のことが心配だから なんじゃないか?」
シャオはぽかんとした顔をした。
「パォ~? ええっ!? そんなわけないですよ~!! 生徒会長さんは 生徒会のお仕事 のために残ってるんです~!」
しかし、真平は腕を組んで考え込む。
「確かに、あの生徒会長が学園の仕事を優先するのはわかる。けど、それだけなら、わざわざ寮に残る必要はねぇんじゃないか?」
「……パォ~?」
シャオはきょとんとしたまま、少し考え込む。
すると、沙羅が ニヤリ と笑って言った。
「確かに……シャオが言ってた話、ほとんど 生徒会長がシャオの世話を焼いてる みたいだったわね」
「パォ~! そ、そうですか~!? でも、寮では私だけじゃなくて、他の人にも声かけてますよ~!」
「でも、夏休みに残ってるのは ほぼシャオだけ なんだろ?」
「……パォォォ!?」
ようやく 何かに気づいた シャオの顔が ほんのり赤くなる。
「おいおい、マジで気づいてなかったのかよ……」
真平は呆れつつも、ちょっと 面白そう だなと思い始める。
学園の女子寮・夏休み期間中
☑ 毎朝、シャオに声をかける
☑ 夜更かしを見つけると注意
☑ 部屋の掃除をしていないとチェック
「……って、これもう 完全にお母さん じゃね?」
真平の ツッコミ に、シャオは 顔をプクッと膨らませた。
「パォ~! 生徒会長さんは そんなつもりじゃないですよ!」
「いやいやいや、これ普通に 面倒見すぎだろ……」
「……まぁ、確かに お母さんっぽい けど」
シャオは 頬をかきながら つぶやく。
すると、沙羅が 鋭い推理 を口にした。
「ねぇ、もしかして、生徒会長って 昔シャオみたいなタイプの子と関わったことがあるんじゃない?」
「え……?」
「ほら、シャオって自由奔放なタイプじゃない? だから、もしかしたら 生徒会長は、シャオを放っておけない理由がある のかもしれないわね」
「……パォォォ~!? まさかの 特別扱い ですか~!?」
翌日、シャオは もやもやした気持ち を抱えながら、生徒会長・大野博美 に話を聞くことを決意した。
「パォ~…! でも、どうやって聞けばいいんですか~!?」
シャオは、文化部の仲間たちに相談。
「そのまま ズバッと聞けばいいんじゃないか?」真平が肩をすくめる。
「それで素直に答えてくれれば苦労しないのよ」沙羅が冷静に指摘する。
「えへへ~、でも、生徒会長さんって 真面目 ですし、嘘はつかなそうですよね~♪」美優が優しく微笑む。
「よし! だったら、ストレートに聞く作戦でいく!!」琴美が拳を握る。
「……いや、だから、それが通じるかどうかが問題なのよ」沙羅がため息をつく。
「シャオっち!当たって砕けろだよ」と無責任な萌香の励まし。
「パォォォ~!」シャオも 気合を入れて 決意。
シャオが 恐る恐る 生徒会室の扉をノックする。
「失礼します~!」
「……あら、王さん?」
生徒会室では、生徒会長・大野博美 が書類を整理していた。
彼女は 端正な顔立ちの知的な美人 で、鋭い視線を向けてきた。
「どうかしましたか?」
シャオは 一瞬、ビクッ とするが、勇気を出して聞いた。
「パォ~! あの、生徒会長さん、どうして 夏休み中も寮に残っているんですか~?」
博美は一瞬 手を止めた。
「……どうして、そんなことを?」
「パォ~!? そ、それは、その……気になったからです~!」
博美は じっとシャオを見つめる。
「……ふむ」
博美は 少し考えて から、静かに言った。
「もちろん、生徒会の仕事があるからです」
「それだけですか~?」
「……他に、何かあると思いますか?」
「パォォ~!? そ、そ、それは~~!!」
シャオは動揺し、顔が真っ赤になる。
(だ、だめです~! 生徒会長さんの圧が強すぎます~!!)
シャオが 焦って目を泳がせていると——
「……王さん」
博美は ふっと表情を和らげた。
「確かに、生徒会の仕事だけが理由ではありません」
「パォ~!?」
「……あなたがいるからです」
「パォォォォォ~~!?!?!?」
「王さんが日本に来て、まだ慣れないことも多いでしょう?」
「パ、パォ~!? も、もう慣れましたよ~!」
「それに、文化部の活動もある。あなたは いつも元気で明るいけれど、海外での生活は大変なこともあるでしょう?」
「パ、パォ……?」
シャオは キョトン とする。
「私は、生徒会長として 生徒をサポートするのが役目です」
「だから、王さんが 寮で困らないように 様子を見ているんです」
「……パォォ~!!!」
シャオは 驚きと感動で目を丸くする。
(生徒会長さん、そんなことを考えてくれてたんですか~!?)




