伝説の漁師の伝説
「うぉぉぉぉ!!! 晴れたーーーー!!!」
翌朝、琴美のテンションは最高潮だった。別荘の窓を勢いよく開けると、昨日の雨が嘘のような青空が広がっていた。
「ほら、見て! これぞ昭和の青空よ!」
「平成も令和も変わらんだろ」と真平がツッコむが、琴美は完全に聞いていない。
「よーし! みんな、準備しなさい! 今日は外で遊ぶわよ!!」
昨日の宿題デーを終えたことで、琴美は完全に自由を取り戻していた。
一方、その様子を見ていた勇馬と真平がこそこそと相談していた。
「なあ、昨日言ってた男子主導の企画、そろそろやるべきじゃないか?」
「おう、琴美たちに任せっきりってのも癪だしな。よし、今日こそ俺たちが仕切ってやる!」
真平が意気込むが、勇馬は「でも具体的に何やるんです?」と冷静なツッコミを入れる。
「……考えてなかった。」
「先輩っ!」
しかし、その時、琴美が元気いっぱいに叫んだ。
「さあ、今日は外で大自然を満喫するわよ!」
勇馬と真平は顔を見合わせ、「よし、じゃあ『男子主導』ってことで適当に便乗しよう」と即決した。
こうして全員が外へ飛び出したものの、次第に個々の行動がバラバラになっていった。
✔ 琴美&シャオ → 「昭和流アウトドア」をやると言い出し、ヤスで川魚を突く気でいる。
✔ 勇馬&真平 → 「男子主導」と言いながら何をするか決めておらず、とりあえず川の石を積み始める。
✔ 美優&萌香 → 「ピクニックがしたい」と言い出し、のんびりシートを広げておやつタイム。
✔ 沙羅 → 「あんたら、統率取れてなさすぎ」と全体を見て回るが、次第に巻き込まれる。
「さあシャオ、今日は 昭和の漁師スタイル でいくわよ!」
「パォ~! でも、ヤスなんて初めてです~!」
川のほとりに立つ二人の手には ヤス(槍のような漁具) が握られていた。
「いい? 川魚はすばしっこいから、動きを読んで一気に突くのよ!」
「パォ~! わかりました~!」
そう言って二人は 気合十分で水の中へ… 。
シャオが静かに魚を狙い、シュバッ!!!槍を突いた瞬間―― 盛大に空振り。
「パォォォォ!!! 逃げました~!」
「なんで!? 今の完璧だったじゃない!」
「完璧なのは 勢い だけでしょ!」と、後ろで見ていた沙羅が冷静にツッコむ。
さらに琴美が「よし、私も!」と水の中に飛び込み…ズルッ!!!
「おわっ!?」バッシャーン!!
「ぎゃあああ!! 水冷たい!!」
「パォ~! 大変です~!」
シャオが助けようと手を差し出すが、琴美の必死のしがみつきにより、 二人そろって川にダイブ。
数秒後、川から顔を出した二人は、ずぶ濡れになりながら ヤスを片手にぼーぜんとしていた。
「……魚、取れなかったね。」
「パォ~…、敗北です~…。」
後ろで見ていた沙羅は 完全に呆れた顔 で言った。
「泳いでいる魚なんて無理に決まってるでしょ!貸してみなさい!!」
琴美からヤスを受け取ると、沙羅は慎重に岩陰を次々と覗き込み、ヤスを構える。そして 一気に川底に向かって突くと、なんと岩魚を2匹同時に突いていた。
「えええええええええ!?!?!」
「パォォォ!?!?!?」
川辺に響くのは、 水しぶきと呆然とする琴美&シャオの声。
二人が大騒ぎする中、沙羅は 何事もなかったかのように岩魚をヤスから外し、冷静に持ち上げた。
「……ふぅ、これでお昼の準備ができたわね。」
「いやいやいやいや!? なんでそんなにあっさり!? どういうこと!?!」
「パォ~!? 沙羅さん、カンフーの達人でしたっけ!?」
驚きに打ち震える琴美&シャオをよそに、沙羅は ヤスを軽く振り、余計な水滴を落とす。
その姿は、まるで 伝説の漁師。
「いい? 魚っていうのは、流れのある場所を泳ぐ時は警戒心が強いの。でも、岩陰や流れの緩やかな場所では油断する。だからそこを狙えば簡単に突けるのよ。」
「えっ、なんでそんなに詳しいの…?」
「うち、お好み焼き屋だけど、じいちゃんが釣り好きだったから、昔よく魚のさばき方とか習ってたのよね。」
まさかの お好み焼き屋の遺伝子から生まれた最強の漁師スキル。
琴美とシャオは 完全敗北。
一方その頃、男子チーム。
「なあ勇馬、俺たち、何かやらなきゃダメじゃないか?」
「そうですね…でも、何を?」
何も決めずに「男子主導」を謳っていた二人。
とりあえず「川の石を積む」という謎の遊びに走る。
「見てくれ! 俺の五段積み!!」
「いやいや、僕は六段積みです!」
どうでもいい競争が始まり、 気づけば二人の目つきは真剣になっていた。
「くっ…! バランスが…!」
「まだまだ、集中するんです!」
この光景を遠目で見ていた美優と萌香。
「えへへ~、なんだか、可愛いですね~。」
「完全に、自由研究の小学生みたいだね。」
その後、彼らの石積みは 見事に七段を突破!
「よし! ついに俺たちも歴史に名を残す――」
バシャーン!!!
シャオの「パォォォォ!」が聞こえた瞬間、川から飛び散った水しぶきが二人の石積みを完全崩壊。
「うわぁぁぁぁ!!!?」
「積み上げた俺たちの努力がぁぁ!!」
男子チーム、絶望。
「えへへ~、やっぱり外で食べるおやつは最高ですね~。」
「ねっ! ほら、ホットミルクもあるよ!」
周囲が騒然とする中、 ひときわ優雅な空間がそこにあった。
「どうして私たち、こんな平和なの?」
「うーん、多分、あの二人(琴美&シャオ)が問題児だから…?」
彼女たちは 安定のピクニックを満喫中。
「ところで、あっちで勇馬さんと真平先輩が何かやってますね。」
「ん? うわぁ、石積み…。」
「なんだか、小学生の自由研究みたいですね~。」
その時、 シャオの水しぶきが男子の石を崩壊させた瞬間を目撃。
「……。」
「……。」
「あっちに混ざらなくて良かったね。」
「ですね~♪」
✔ 琴美&シャオ → 昭和の漁法に失敗、 沙羅のプロ技に完敗。
✔ 勇馬&真平 → 石積みに命をかけるも、シャオの水しぶきで崩壊。
✔ 美優&萌香 → ピクニックを満喫、唯一の平和空間。
✔ 沙羅 → 漁師としての才能が覚醒。
焚き火の前でしょんぼりと座る琴美とシャオ。
「結局、昭和の漁師スタイルは、昭和生まれでも無理だったわ…。」
「パォ~…サバイバル、難しいです~。」
そこへ、沙羅が 釣り上げた岩魚を豪快に串刺し。
「ほら、あんたたちも食べなさい。」
「……あの、沙羅さん?」なぜか敬語の琴美
「何?」
「結局、今日のMVPは… 圧倒的にあんたよね!?」
全員の目線が沙羅に集中する。
沙羅は 涼しい顔で焼き魚をひっくり返し、ただ一言。
「ま、当たり前でしょ?」
その瞬間、 日ノ本文化部の伝説の漁師が誕生したのだった。




