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とつぜんの故意のあと

 真平が草刈りの最中に見つけた「怪しい男」を追いかけ、ホッケーマスク姿で大騒ぎした結果、別荘に戻ってみんなに事情を説明した後、全員がどっと疲れた表情で椅子に腰掛けていた。


 そこに、別荘のインターフォンの音が響いた。


「…また何か来た?」

 琴美が少し緊張した声で言うと、勇馬が「大丈夫ですよ。僕が出ます」と立ち上がった。


 ドアを開けると、そこにはさっき真平が追いかけていた「怪しい男」が立っていた。男は驚いたような顔をして手を挙げた。


「あ、あの…すみません! 僕、別荘の管理人なんですが…」


 そう言うと、全員が「えええええ!?」と声を揃えた。


 男は帽子を取って頭を下げた。

「すみません、勝手に敷地内に入ってしまって。こちらのお嬢さんのお父様から時々様子を見るよう頼まれていたものですから・・・」


 真平が驚きと困惑の表情で声を上げた。「え、じゃあ…俺が追いかけたのって…?」


「はい、たぶん私ですね。」

 管理人は苦笑しながら頷いた。「いきなりホッケーマスクをかぶった人が草刈り鎌を振り回しながら追いかけてきたので、逃げたんです。」


 真平は頭を抱えながら、「…まさか、管理人さんだとは思わなかった…」とつぶやいた。


 琴美は肩を震わせながら笑いをこらえきれず、「ホッケーマスクで追いかけるなんて、確かに相手もびっくりするよね!」と言い、沙羅も「あんた、それで完全にホラー映画だったわけね」と呆れ顔で言った。


「いや、俺だって悪気があったわけじゃないんだよ!」

 真平が必死に弁解するも、全員の笑いは止まらなかった。


 管理人は事情を聞いて「いえいえ、こちらも確認不足でお騒がせしました」と頭を下げ、真平も「すみません、ほんと…」と謝罪した。


 全員が管理人の説明を聞いてほっとすると同時に、疲れ切った様子で椅子に座り直した。


「いや、俺、完全に泥棒だと思ってたんですよ。本当にすみません…」

 真平は心底申し訳なさそうに頭を下げた。


 管理人は笑いながら「まあまあ、驚いたのはこちらの方ですから。ホッケーマスク姿で追いかけられるなんて、映画の世界かと思いましたよ」と冗談めかして場を和ませた。


「でもさ、琴美も何か怪しいよね。そのメールって、本当に泥棒の話だったの?」

沙羅がじっと琴美を見つめる。


「え? だって『食べ物を荒らされるから注意』って書いてあったじゃん…」

琴美がスマホを取り出し、転送されたメールをもう一度読み上げる。


「……『泥棒』じゃなくて、『野生動物』って書いてあるじゃん!」

沙羅がメールの文面を指差しながらツッコむと、全員の視線が琴美に集中した。


「えええ!? 野生動物だったの!? 確かに『荒らされる』ってあったけど…泥棒だとばっかり思ってた!」

琴美は慌てて頭を抱えた。


「おいおい…そんな早とちりのせいで俺はホッケーマスクで管理人さんを追いかける羽目になったのかよ!」

真平がガックリと肩を落とすと、シャオが「パォ~! それは笑っちゃいますね~!」と大笑い。


「えへへ~、でも泥棒じゃなくて良かったですよね~♪」

美優もにっこり笑顔で、場の空気を和らげようとする。


 管理人は改めて「この辺りは確かに野生動物が出ます。特に夜中は食べ物を外に置きっぱなしにしないでくださいね」とアドバイスを残し、帰っていった。


「つまり、全部琴美の早とちりが原因ってことか…」

 沙羅が呆れながら言うと、琴美は「だ、だって! あんな紛らわしいメールが悪いのよ!」と必死に弁解。


「琴っチ、ドンマイ!」萌香がフォローし、「いやいや、読む人次第ですよ!」

 勇馬が苦笑しながら指摘すると、琴美は「もういいじゃん、結果オーライってことで!」と笑顔で切り抜けようとした。


 夕食時、管理人が帰った後も、ホッケーマスク事件の話題で食卓は大盛り上がりだった。鍋を囲みながら、全員が事件のあれこれを笑い話として振り返っていた。


「でも、真平先輩のホッケーマスク姿、ガチで怖かったですよ~!」

 シャオが笑いながら手を叩くと、萌香も「私、リビングの椅子の後ろから動けなかったもん!」と大げさにジェスチャーを交えて語った。


「いやいや、あれは俺だって追い詰められてたんだよ! 管理人さんが泥棒に見えたら仕方ないだろ!」

真平が反論するも、みんなの笑いは止まらない。


「それにしても、琴美の早とちりが発端だったとはね。野生動物の話でここまで大事になるなんて…」

沙羅がため息をつきながらも笑みを浮かべて言うと、琴美は「も~、もうその話は忘れてよ!」とぷくっと頬を膨らませた。


「いやいや、これは文化部の新たな伝説として語り継ぐべきでは!」

勇馬が茶碗を持ちながら冗談っぽく言うと、真平が「勘弁してくれよ…」と肩を落とした。


「ところで、この事件、なんて名前で呼ぶ? やっぱり『ホッケーマスク事件』?」

琴美がみんなに提案すると、沙羅が「それだとちょっと単純すぎない?」と首を傾げた。


「じゃあ、『真平、ホラー映画になる』とか?」

萌香が提案すると、全員が「それいいね!」と大笑い。


「いや、俺をネタにするのやめろよ!」

真平が抗議するも、みんなの中でそのタイトルはすでに決定事項となった。


 夕食が終わった後、琴美は一人静かにバルコニーに立って外を見つめていた。夕方の騒動が収まり、月明かりが静かに別荘を照らしている。


「…でも、本当に泥棒じゃなくてよかったですね。」

美優がそっと近づき、優しい声で話しかけた。


「そうね。私、またみんなに迷惑かけちゃったかなって思ったけど、こうしてみんな笑ってくれてよかった。」琴美は微笑みながら答えた。


「それが琴美先輩のいいところです~!」シャオも加わり、みんながそばにいる安心感に包まれた。


 そのとき3人の前に何かが現れた。少し驚いたがシャオは「パォ~! ハクビシンです!」


「ハクビシン…野生動物…本当だったんだ。」琴美はため息をつき、美優は「うふふ、なんか可愛いですね」と普通に感想を言った。


 翌朝、朝日が昇る中、別荘の前で集合写真を撮ることにした。真平はあえてホッケーマスクを再びかぶり、草刈り鎌を持ってポーズを取った。


「これぞ、伝説の再現ってやつだな!」

琴美がシャッターを押しながら笑い、みんなもそれに合わせて大笑い。


 こうして「ホッケーマスク事件」を経た日ノ本文化部の夏合宿は、伝説の1ページを追加しつつ、また新たな思い出を作り続けていくのだった。

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