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ようこそわが別荘へ

 数日後、日ノ本文化部の面々と+1の萌香は琴美の案内で、昭和レトロな別荘に向かっていた。バスもないところらしく琴美の両親が車2台で送ってくれることになった。途中のスーパーで食料品を買い、期待と不安が入り混じった表情の中、琴美だけはいつも通りテンションが高い。

 到着したのは、山間にひっそりと佇む昭和レトロな木造の別荘だった。緑に囲まれた建物は、どこか懐かしさと不思議な威圧感を兼ね備えている。


「ここが私たちの宿泊先、通称『琴美荘』よ!」 琴美が胸を張って自慢げに宣言する。

「おお…すごい雰囲気だな…」 真平が別荘を見上げながらつぶやく。木のぬくもりが伝わる外観だが、少しだけ年季が入っており、冒険心をくすぐるような独特の空気感がある。

「パォ~! 昭和そのものですね~!」 シャオは目を輝かせながら、さっそくスマホで写真を撮り始めた。

「えへへ~、ここでみんなで過ごすなんて、素敵ですね~♪」 美優は荷物を抱えながら、ほんわかとした笑顔で周囲を見回している。

「うわ、蚊が多い…」 沙羅が肩を叩きながら言うと、琴美は「それがまた昭和っぽいでしょ!」と笑う。

「いや、それポジティブすぎるだろ…」 真平が肩を落とすが、琴美は意に介さない様子だ。

荷物を運び込むと、琴美は手を叩いてみんなを集めた。 「さあ、まずは部屋割りを決めるわよ! 男子は一部屋、女子は二部屋ね。萌香ちゃんはもちろん沙羅の部屋ね!」

「え~! なんで私だけお姉ちゃんと一緒なの!」 萌香が抗議するが、沙羅は「当たり前でしょ。あんたが何かやらかすと困るから。」とあっさり言い放つ。

「お姉ちゃんひどい!」 萌香はぷくっと頬を膨らませるが、琴美が「まあまあ、萌香ちゃん、夜はみんなで遊ぶから大丈夫よ!」と笑顔でフォローした。


 部屋割りが決まり、各々荷物を整理した後、琴美が再びみんなをリビングに集めた。

「さあ、昭和合宿の第一の試練よ!」

「試練…?」 真平が眉をひそめると、琴美はにやりと笑って指をさした。

「まずは掃除よ」

「掃除…?」 真平が首をかしげると、他のメンバーも一様にポカンとした表情を浮かべる。

「そうよ、昭和の青春と言ったら、まずは環境作り! この別荘をピカピカにして、快適な空間にしなきゃ始まらないでしょ!」 琴美が自信満々に言い放つと、沙羅が肩をすくめながらため息をついた。

「まあ、確かに少し埃っぽい感じはあるけどね…」

「パォ~! 掃除ですか~! 私、やります~!」 シャオがすぐに手を挙げ、楽しそうにモップを手に取る。

「えへへ~、みんなで掃除したら、きっと楽しいですよ~♪」 美優も優しい笑顔でほうきを手にする。

「いやいや、遊びに来て早々掃除って…」 真平が不満そうにぼやくが、琴美が「それが青春ってもんなの!」と一蹴する。

「萌香も手伝って!」 沙羅が妹に雑巾を渡すと、萌香はしぶしぶ受け取る。

「…しょうがないなぁ。お姉ちゃん、あたしが一番頑張るんだからね!」

 琴美はリーダーシップを発揮しながら、みんなに作業を割り振る。

「じゃあ、シャオと美優はリビングをお願い! 勇馬はキッチン、沙羅と萌香は玄関周りをやって、真平は別荘の周りの草刈り、あたしは浴槽!」

「俺だけ重労働すぎないか!」 真平が抗議するが、琴美は「仕方ないでしょ、あんたは雑用係兼韓信なんだから!」と軽く突っ込み、笑いを誘う。

「いやいや、琴美の割り振りだからね~。」 沙羅がニヤニヤしながら真平を軽くあしらう。

真平が肩を落としながらぼやくと、萌香が「真平ちゃん!ファイトー!」と悪気なく声をかける。

「萌香、お前も手伝えよ!」 「わたし玄関周りだから!」 萌香は雑巾を振り回しながら笑い、沙羅も「まあまあ、雑草抜きなんて、普段運動不足の真平にはちょうどいいんじゃない?」と追い討ちをかける。

「はあ…こういう時だけ団結するんだよな、みんな…」 真平が琴美に案内され外へ向かう姿に、みんなの笑い声が響いた。


 別荘の裏にある物置小屋に来ると、琴美が「はい、こん中に必要なものあるから、作業着に着替えたほうがいいかも」と一言。それだけ言うとさっさと冷房の効いた別荘の中へ戻る。入る時、琴美は真平を指さして、その後自分の両目を指さし、「しっかり見てるぞ」のポーズを取った。真平は殴る真似をして食って掛かった。


 真平は肩をすくめながら、物置小屋の中を覗き込んだ。そこには古びた作業着や、錆びた草刈り鎌、そしてなぜか昭和レトロな麦わら帽子とホッケーマスクまで置かれていた。

「…これ、なんでこんなに昭和尽くしなんだよ。」

ぼやきつつも、とりあえず作業着に着替え、麦わら帽子をかぶる。

「よし、やるか…」 一人呟きながら作業を始める真平。外の暑さにすぐ汗が滲むが、やり始めると意外にも集中できた。

 別荘の裏庭には、荒れ放題の雑草がびっしりと生えていた。

「こんなにあるのかよ…」

 汗を拭いながら草刈り鎌を振り上げる真平。その姿はどこか田舎の映画の一シーンのようだった。

「あぁ~全く!」 背の高い雑草が多く顔周りがうるさくてたまらない真平はあることに気付いた。物置小屋に戻り麦わら帽子からホッケーマスクへと装備を変えると信じられないくらいに作業効率が上がった。

 ホッケーマスクを装着した真平は、思わず自分の姿に呆れながらも、その効果に驚いていた。

「これ、めっちゃいいじゃん…! 顔に雑草が当たらないし、日差しも防げる!」

 思わぬ形で快適な作業環境を手に入れた真平は、再び草刈り作業に取り掛かる。

 背の高い雑草を次々と刈り倒し、汗を流しながら黙々と作業を続ける姿は、どこかプロフェッショナル感すら漂わせていた。


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