琴美 みんなを地獄から天国に導く
帰りの電車の中、遊び疲れた日ノ本文化部と+1のメンバーたちは、それぞれぐったりと席に座りながら静かに揺れる車内に身を任せていた。窓の外には、沈む夕日とともに移ろう田舎の風景が広がり、まるで映画のワンシーンのような穏やかな空気が流れている。
「ふぅ~…今日は本当に遊び倒したな…」
真平がシートに深く腰掛けながら呟く。顔には満足そうな表情が浮かんでいるが、その声には完全に疲労感が滲み出ていた。
「パォ~! 楽しかったです~!」
シャオはまだ元気そうに笑顔を見せながらも、手には海で拾った貝殻が握られている。「これ、お土産にします! 台湾の家族が喜びます~!」と無邪気に話す姿に、他のみんなも自然と微笑んだ。
一方、沙羅は窓辺にもたれながら「結局、今日は全力で遊んでたわね…」とぽつり。妹の萌香は沙羅の隣でスヤスヤと眠っている。「若さっていいわねぇ」と冗談めかしながらも、どこか満足そうだった。
「えへへ~、たくさん写真も撮りましたし、みんなで食べたかき氷の味、忘れられません~♪」
美優はスマホを操作しながら、撮った写真を見返している。そこには、笑顔の絶えない仲間たちの姿が鮮やかに写っていた。
そんな中、琴美だけが元気いっぱいに立ち上がり、車内で宣言を始める。
「みんな! たっぷり遊んだんだから、今度はたっぷり宿題するわよ!」
突然の発言に、他のメンバーは全員揃って「えぇ~~~っ!?」と声を上げた。
「いやいや、今日これだけ遊んでおいて、なんで急に宿題モードなんだよ!」
真平が顔をしかめながら言うと、琴美は自信満々に胸を張る。
「だって、昭和の青春はバランスが大事なのよ! 勉強も遊びも全力でやる! それが昭和の精神ってもんでしょ!」
「いや、それ絶対今作ったでしょ…」
沙羅が呆れたように突っ込むと、琴美は「そんなことないわよ!」とムキになって反論する。
「パォ~! 宿題ですか~…確かに、まだ手をつけてないです~…」
シャオが苦笑いしながら言うと、美優も「あ…えへへ~、私もほとんど…」と少し申し訳なさそうに呟いた。
「宿題なんて夏休みの後半でいいだろ…」
真平がうんざりした表情を浮かべると、琴美は「甘い!」と指を突きつけた。
「今からやらないと、後で絶対大変になるんだから! ほら、今週中に集まって、一緒にやるわよ!」
萌香は露骨に嫌そうな顔をしながら、必死に窓の外に視線を向けて「私は関係ありません」オーラを全力で出していた。
「逃げられると思ってるの?」
沙羅がにっこりと笑いながら、萌香の頭をがっしりと押さえ込む。「あんたも当然参加するのよ。」
「お姉ちゃんひどい! 私まだ中学生だよ!」
萌香が抗議するも、沙羅は「中学生だからこそ宿題大事でしょ?」とさらっと言い返す。
「パォ~! 萌香さん、宿題もみんなと一緒だと楽しいですよ~!」
シャオが励ますように言うが、萌香はぷくっと頬を膨らませてそっぽを向いた。
「えへへ~、一緒に頑張りましょう~♪」
美優も優しく声をかけるが、萌香はなおさら渋々した態度を崩さない。
「いやいや、萌香の気持ち、わかるわ。」
真平が小さくため息をつきながら、「俺だってこんな疲れてるのに、いきなり宿題やれって言われたら無理だわ…」とぼやく。
「ふっふっふっ、みんなあたしを誰だと思っているの? 日ノ本文化部の代表よ! ただ集まって宿題だけするわけないじゃん!!」
その言葉にみんなの目が輝く。特に萌香。
琴美は続ける。「あたしンちの別荘で泊まりこみでするのよ、宿題は日が暮れてから」
「別荘…? 泊まり込み?」
真平が目を丸くして琴美を見つめると、他のメンバーも一瞬驚いたような表情を浮かべた。
「そう! あたしンちにはね、おじいちゃんの時代に買った昭和レトロな別荘があるのよ! そこで泊まり込みで宿題をするの! ただし、宿題は日が暮れてからね。それまでは全力で遊ぶの!」
琴美は胸を張りながら力説した。
「パォ~! それ、めっちゃ楽しそうです~!」
シャオが真っ先に反応し、手を叩きながら喜ぶ。
「えへへ~、昭和の別荘…どんなところなんでしょう~♪」
美優もほんわかとした声で期待を寄せている。
「ちょっと待って。それって結局、昼間遊んで夜に勉強ってことでしょ? 絶対宿題進まないだろ…」
真平が呆れたように突っ込むと、琴美は「細かいことは気にしない!」と手を振った。
「萌香、どう? 別荘で泊まり込みだってさ。」
沙羅が妹に視線を向けると、萌香はさっきまでの嫌そうな顔から一転、目をキラキラ輝かせていた。
「それって、遊び放題ってこと? やるー!」
萌香が勢いよく声を上げると、沙羅は「いや、宿題もやるんだからね…」と苦笑する。
「よし、決まりね! あたしがみんなを別荘に招待して、昭和風の夏合宿を開催するわ!」
琴美は満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズを決めた。
「でもさ、そんな別荘あるなら、なんでもっと早く言わなかったんだよ。」
真平が不思議そうに尋ねると、琴美は「だって、タイミングが大事でしょ? この夏休みの真ん中で一番盛り上がる瞬間にこそ発表したかったの!」と答える。
「いや、それにしてもタイミングが唐突すぎますね…」
勇馬が肩を落とすと、沙羅がクスクスと笑った。
「まあいいじゃない。せっかくだし、楽しみましょうよ。琴美の企画力には、ある意味いつも驚かされるし。」
「でしょ! 沙羅も分かってる!」
琴美が嬉しそうに沙羅の肩を叩くと、シャオが「パォ~! 昭和の夏合宿、楽しみです~!」とますますテンションを上げた。
「えへへ~、じゃあお土産にスイーツを持って行きますね~♪」
美優は早速、頭の中で合宿用のスイーツリストを組み立てている様子だった。
「で、別荘ってどんなところなんだ? レトロって言っても、ちゃんとエアコンとかあるのか?」
真平が念のため確認すると、琴美は「そこは心配しないで! エアコンも完備だし、お風呂は温泉よ! ただし、夜はちょっとだけ怖いかもね~」と意味深な笑みを浮かべた。
「怖いって何だよ…」
真平が不安げに聞き返すと、琴美は「それは行ってからのお楽しみ♪」とウインクする。
車内はいつしか笑い声に包まれ、沈む夕日が全員の顔を優しく照らしていた。
こうして、昭和風夏合宿という新たなイベントが加わり、日ノ本文化部の夏休みはますます賑やかになりそうだった。




