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夏休みの入り口

 真夏の太陽が照りつける中、日ノ本文化部の面々は磯貝亭に足を運んでいた。店の近くに差し掛かると、沙羅の妹・萌香が元気よく打ち水をしているのが見えた。

「おっ! ヤッホーみんな! どうしたの?」

 萌香が笑顔で声をかけてくると、沙羅は軽く手を挙げながら「コップに氷」とだけ言った。さすが姉妹、言葉は少なくても意思疎通が完璧だ。萌香がすぐに「はいはい」と準備に取り掛かり、沙羅は一行を店内の奥座敷へと案内した。

店はちょうど中休みの時間帯で客はいない。涼しげな店内は外の暑さを忘れさせる快適さだった。しばらくして、萌香が氷の入ったコップを持ってきて、沙羅は3本のペットボトルを抱えて戻ってきた。

「暑かったでしょ、適当に飲んで。」

沙羅がそう言って手際よくペットボトルを開けると、琴美がペットボトルをじっと見つめて一言。

「これペプシじゃない。」

「わがまま言うな。」

 真平が即座に突っ込みを入れると、一同がクスッと笑った。冷たいコーラがグラスに注がれる音が心地よい。琴美と真平、勇馬は炭酸飲料を手に取り喉を潤した。炭酸が苦手な美優にはオレンジジュースが、シャオにはウーロン茶が用意された。

「えへへ~、このオレンジジュース、甘くて美味しいです~♪」

「パォ~! ウーロン茶、やっぱり落ち着きますね~!」

 それぞれの飲み物を手に、一同はエアコンの涼しさに包まれながら汗が引いていくのを感じていた。そんな中、沙羅が鉄板の前で作業を始める。ジュッという音とともに、香ばしい匂いが漂い始めた。

「みんな、お昼まだでしょ? 焼きそば作るから食べてって。」

 沙羅は慣れた手つきで鉄板を操りながら声をかけた。

「おお! ありがたい!」

 真平が嬉しそうに手を叩き、琴美も「さすが沙羅! やっぱり頼れるね!」と感激している。シャオは「パォ~! この匂い、たまりません~!」と鉄板を見つめ、目を輝かせていた。

「えへへ~、焼きそばって、ソースの香りだけでお腹空いてきちゃいますね~♪」美優もほんわか笑顔で、沙羅の手元を眺めている。

「そんなに褒めなくていいから、少し待ってな。」

沙羅はちょっと照れくさそうに言いながらも、鉄板の上で具材を次々と炒めていく。野菜と麺、そしてソースが絡み合い、さらに食欲をそそる匂いが部屋に広がった。

しばらくして、沙羅は一人ひとりの前に焼きそばを盛り付けた皿を置いていった。

「さあ、できたよ。熱いうちに食べな。」

「いただきまーす!」

 一同が元気よく声を揃え、熱々の焼きそばに箸を伸ばす。どこか懐かしい味が、彼らの空腹を満たしていった。

「うん、やっぱり沙羅の焼きそばは最高だ!」

 真平が目を輝かせながらそう言うと、勇馬も頷きながら「本当です。これ食べたら夏バテなんて吹っ飛びそうですね。」と感想を漏らした。

「パォ~! 美味しいです~! 沙羅先輩、本当に料理上手ですね~!」

シャオも大満足の様子だ。

「えへへ~、この味、何だか昭和っぽくて温かいです~♪」

 美優も幸せそうに微笑む。沙羅は「昭和っぽいって…どういう意味よ。」と少し笑いながら、照れ隠しに鉄板を片付け始める。

 お腹も膨れ力が出てきたのか琴美がスッと立ち上がり、「日ノ本文化部 夏休み編よ!」とドヤ顔で宣言するや、真平は「いや急に言われても。何するんだよ夏休みに?」と困惑した表情を浮かべる。

 シャオはキラキラした目で、「パォ~! みなさんで海とか、縁日とか行くんでしょうか? 花火大会とか、日本の夏らしいこと、たくさんしたいです~!」と大興奮。

「えへへ~、私も花火大会に行って、浴衣を着て、いろいろ食べ歩きしたいですね~♪」

 美優は既に頭の中で「お祭りスイーツリスト」でも作っているのか、ほんわかしている。一方、勇馬はスマホでスケジュールを眺めながら、「海に行くとなると、バス予約とか、宿泊先とか、いろいろ段取りが必要ですね。あとは、昭和っぽい海の家とか探してみます?」と真面目なプランニングモードに入りつつある。

 真平はゴクゴクとコーラを飲み干し、「いや、海はいいけど日焼けするじゃん。俺は焼けると赤くなるタイプだし…」とぼやくが、琴美がまたまた勢いよく手を叩く。

「何言ってんのよ! 昭和の海といえば『やけに日焼けする男子』ってイメージじゃない! それがまた青春じゃない!」

「いや、何だその根拠ないイメージ…」

 真平があきれ顔になるのを見て、沙羅はぷっと吹き出した。

「まあまあ、砂浜で昭和風ビーチパラソル広げたり、ラムネ片手にスイカ割りとか、想像したら結構楽しそうじゃない?」

 沙羅が肩をすくめながら言うと、琴美は「それよ!」と目を輝かせる。

「夏は昭和度合いが高まるイベントがいっぱいあるのよ! スイカ割り、ビーチパラソル、セミの声、蚊取り線香…どれも“昭和の夏”を盛り上げる要素ばかり!」

「蚊取り線香まで…?」

真平は苦笑し、シャオは「パォ~、蚊取り線香の匂いって、日本の夏を思い出させるんですね~!」とすでにテンションが高い。

「えへへ~、荷物が多くなりそうですけど、みんなで協力すれば運べますね~♪」美優が笑顔で言うと、「パォ~! それなら台湾の文化も混ぜましょうか? こういう暑いときはマンゴーかき氷が最高です!」とシャオが目を輝かせる。

「よし決定! 夏休み初っ端は海に行くのよ!」

 琴美が威勢よくまとめると、真平が「え、ちょっと、俺の意見は?」と口を挟もうとする。

「却下!」

 琴美と沙羅が声を揃え、クスッと笑い合う。

「お前…俺の夏休み…」

 真平はテンションががた落ちだが、シャオに「パォ~! 一緒に夏の思い出、たくさん作りましょうね!」と肩を叩かれると、「ま、まあいいか…」と渋々ながらも笑みを浮かべた。


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