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それからの日ノ本文化部

昼休みが明けてしばらくした放課後。伊勢野巫鈴いせの みすずは、書類を抱えながら静かな廊下を進んでいく。

目指す先は生徒会室――総生徒会長・大野博美に、旧校舎の「煙事件」について正式に報告するためだ。

(これで、あの騒動もひと段落ね…。兄たちの昭和クッキングが原因とは、まったく…)

巫鈴は軽くため息をつきながらも、口元にはどこか柔らかな表情が浮かんでいた。兄や琴美たちが思いのほか仲間想いで、ただ七輪で魚を焼いていただけという事実に、胸をなでおろしているのだ。

「失礼します。伊勢野巫鈴、中等部生徒会長です。」

生徒会室のドアをノックして入ると、そこには大野博美が待っていた。副会長や他のメンバーも何人か同席しており、机の上には学院行事の資料が広げられている。

「巫鈴さん、お疲れさま。早速だけど、例の“煙事件”の件、報告をお願いできる?」

巫鈴は深く一礼し、用意した報告書を差し出す。


巫鈴は報告書を開き、落ち着いた口調で話し始めた。

1.旧校舎での煙の目撃情報

o昼休みに外部から見て、タバコの煙かもしれないと疑われた。

oしかし、実際には日ノ本文化部が“昭和の料理”を自炊していただけ。

2.日ノ本文化部による七輪調理

oカツ丼や焼き魚など、昭和っぽいメニューを試していた。

o魚を焼いた際に出た煙が、誤解の原因となった。

3.喫煙疑惑の払拭

oタバコの形跡は一切なく、部員たちへの聞き取りと現場確認の結果も問題なし。

o「ただの料理の煙」であったと確認。

「以上のとおり、喫煙の疑いは完全な誤解だったと確定しました。現段階で処分は不要という結論です。」

巫鈴はそう言い切り、静かに報告書を閉じる。博美をはじめとする生徒会メンバーはほっとしたように顔を見合わせた。

博美は微笑を浮かべながら、巫鈴に言葉を返す。

「詳しい報告ありがとう。先生方にも伝えておくわ。ところで、煙対策や火の管理は大丈夫そう?」

巫鈴は軽く頷く、「はい、日ノ本文化部には、火事のリスクや換気についてしっかり注意するよう伝えました。彼らも改めて安全管理を徹底すると約束しています。」

副会長の西園寺 礼が付け加えた。

「今後も、もし煙を大量に出すような調理をするなら、事前に先生へ一言伝えてほしいわね。誤解を防ぐためにも。」

巫鈴は「そうですね」と穏やかに微笑んだ。


「喫煙疑惑は解消されたけど、今後も同じような誤解が起こらないように、生徒会として何か手伝えることはあるかしら?」博美は美鈴に尋ねた。


「特に問題がなければ、引き続き見守る形でいいと思います。彼らは毎週水曜日のお昼に料理をしていて…兄もいるので、私もそれとなく様子をチェックしておきます。」

西園寺(副会長)が続く「助かるわ。先生方にも“あれはただの料理の煙”だと定期的に報告できれば安心ね。」

安心しきった博美は「じゃあ、この件は一件落着ということで。後は学院祭や文化行事で、もし彼らのレトロ料理が活かせるなら連携していきたいわね。」

巫鈴は小さく笑みを浮かべながら「ええ、兄や琴美さんたちも、きっと協力してくれるはずです」と答えた。

こうして、“煙事件”に関する生徒会の判断は「ただの誤解」であり、日ノ本文化部が学院のルールを守って活動する限り、問題はないという結論に至った。

巫鈴は報告を終えて安堵し、博美ら生徒会メンバーも満足げにうなずいていた。

「そういえば巫鈴さん、あの七輪料理ってどんな味かしら? 気になるわ。」

博美が楽しそうに尋ねると、巫鈴は少し照れながら答える。

「サンマを焼いているところに遭遇したんですが…正直、想像以上においしかったです。昭和の味、というかなんというか。」

生徒会メンバーたちは顔を見合わせ、微笑みを交わす。

「機会があれば、私たちも参加してみたいものね。」

博美が目を輝かせると、巫鈴は「ええ、きっと喜んで招いてくれると思います」と笑顔で応じた。

こうして、巫鈴の正式な報告と共に「煙事件」は完全に解決し、学院では再び穏やかな日常が戻った。

生徒会と日ノ本文化部の間には、新たな絆が生まれつつある――そんな予感を感じさせる学園のひとコマである。

放課後の静まった校舎。中等部生徒会長・伊勢野巫鈴いせの みすずは、少し興奮した面持ちで書類を閉じた。

「煙事件」により旧校舎を調査した際、部室の片隅にテーブル型アーケードゲーム機があったことを思い出したのだ。そこで総生徒会長・大野博美に「いったい何なのか確認してきます」と告げた。

「巫鈴さん、旧校舎を再度見回るのね? 何か問題が…?」

「いえ、問題かどうかはこれから見てきます。兄たちの部室でレトロなゲーム機が使われているかもしれなくて…。」

巫鈴はそう答え、静かに生徒会室を後にした。

旧校舎の廊下を進むと、日ノ本文化部の部室から楽しげな声が聞こえてくる。

巫鈴はノックをせず、すっと扉を開けた。

「あ、伊勢野…巫鈴ちゃん?」

「生徒会として確認がありまして。」

巫鈴はきりっとした表情で部室に足を踏み入れる。


部室を見回すと、テーブル型のアーケードゲーム機が堂々と置かれていた。ちょうど琴美がそのゲームを起動していたようで、レトロなピコピコ音が響いている。

「あら、巫鈴ちゃん、また来たの? 今日は煙ないわよ、ただゲーム機で遊んでるだけ!」

沙羅がうんざりしながら「煙事件以来、やけに生徒会の巡回が増えたわね。でも今回はゲーム機確認?」


「ええ、先生方から『旧校舎で個人所有のアーケード筐体があるって本当?』と問い合わせがあって、実際に確認したくて来ました。」

巫鈴の視線が、テーブル型のアーケードゲーム機に注がれる。

そこには昭和感あふれるレトロなデザインがあり、画面にはドット絵のキャラクターが映し出されていた。


「これはね、昔の喫茶店とかに置いてあったタイプのゲームよ! 昭和の宝物みたいなもので、部活動の一環として活用してるの。」琴美が自信満々に説明すれば

勇馬が「家に眠っていた基板を修復したりして動かしてるんです。先生には事前に許可を取ったはずですが…生徒会には伝わってませんでしたか?」

巫鈴は真平の横顔をちらりと見たあと、メモを取りながら頷く。

「そうだったのね。先生方の許可は取ってある。でも『危険物』とかじゃないのか確認しておいて、と言われただけ。」


琴美は得意げにスタートボタンを押すと、画面上に懐かしいシューティングゲームらしきドット絵が動き始める。

沙羅が「こんなのにハマるとは…昔のゲームも捨てたもんじゃないわね」と呆れつつも楽しそう。

シャオは「パォ~! 私、こういうの初めて見ました~!」と目を輝かせる。

美優は笑顔で「えへへ~、巫鈴さんもどうぞ♪」と招く

「あ、いえ、私は生徒会としての確認が主なので…。でも、危険性はなさそうね。 筐体も安定してるし、電源まわりも問題なさそう。」


「お前もやってみろよ、意外と面白いぞ。ほら、スタート。」

巫鈴は少し照れながら「そ、そう? じゃあ少しだけ…」と腰を下ろす。

ゲームの操作は慣れていないようで、あっという間にゲームオーバー。周囲がくすっと笑うと、巫鈴はわずかに悔しそうな顔。


プレイを終えた巫鈴はメモを取り、「これで使用状況は把握できました」と静かに告げる。

「先生方には『部の活動に必要なレトロ機材で、既に許可済み』だと報告しますね。電源管理や騒音、故障時の対応など、きちんとやってもらえれば問題ないかと。」

「助かるわ、巫鈴ちゃん! さすが生徒会、頼りになる~!」「煙事件に続いて、またお世話になっちゃって。ありがとうね。」琴美と沙羅が礼を言う。「いえいえ、仕事ですから。兄さんたちも、また変な噂が立たないように気をつけて…」

「わかったよ、ありがとな。まぁ、魚焼くのはともかくゲームまで疑われたらたまんないからな…。」

部室の扉を開けようとする巫鈴に、シャオが明るい声を投げる。

「パォ~! 今度はぜひ一緒にゲームしましょうね! もっと練習すれば上手くなりますよ!」

巫鈴は少し照れたように肩をすくめ、「機会があれば…」と言い残し退室する。

美優が「えへへ~、またお茶入れますね~!」と笑顔で見送る。


その日の放課後、生徒会室では総生徒会長・博美が巫鈴の戻りを待っていた。

巫鈴は淡々と書類を差し出しながら報告する。

「テーブル型アーケードゲーム機を確認しました。既に先生の許可も取ってあり、安全面の問題もなさそうです。部活動でのレトロ文化研究の一環とのことでした。」

博美は嬉しそうに微笑んだ。

「なるほどね。これで安心できるわ。ありがとう、巫鈴さん。」

巫鈴もほっと安堵の息をつく。

「部室の中は、意外とにぎやかで楽しそうでした…。日ノ本文化部らしい、昭和レトロ感満載ですね。」

副会長の西園寺礼が「そういうのも学園の多様性として、私たち生徒会が支えていくと良いですね」と付け加える。

博美も「ええ、きっと学院全体がさらに面白くなるはず」と答え、うなずき合った。

こうして、中等部生徒会長・伊勢野巫鈴によるテーブル型アーケードゲーム機の確認は円満に終了した。

日ノ本文化部は変わらず昭和文化を満喫し、巫鈴をはじめとする生徒会も、その活動を温かく見守っている。

兄や琴美たちに振り回されながらも、巫鈴はふと胸の奥で「レトロゲームも悪くないかも…」と思い始める。

学院生活はまだまだ続いていく――煙、魚、そしてレトロゲームとともに。


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