ラジオドラマに挑戦
日ノ本文化部の部室では、レトロなPC-8801FRのディスプレイが淡い光を放ちながら、静かに輝いている。キーボードを叩く音だけが部屋に響く中、勇馬が異様な集中力でプログラムコードを入力していた。
「10 PRINT "HELLO,昭和!"
20 FOR I=1 TO 10
30 PRINT "PROGRAMMING IS FUN!"
40 NEXT I
50 END」
驚異的なスピードでタイピングする勇馬の指は、もはや残像すら残しそうな勢いだ。彼のメガネがキラリと反射するのを見て、シャオが目を丸くする。
「パォ~!勇馬先輩、まるでプロのハッカーみたいです~!」
「おい、ハッカーって…これ昭和のパソコンだぞ。」真平が苦笑いしながらツッコむ。
勇馬は微動だにせず、黙々と入力を続ける。「これぐらい慣れれば簡単です。BASIC言語はシンプルですからね。」
「いや、簡単って…こんな長いコード、普通こんな速度で入力できないでしょ!」沙羅が呆れながらつぶやく。
部室の中央で見守っていた琴美が、興奮気味に言い放つ。「これぞ昭和の天才プログラマーよ!勇馬、もっとやっちゃって!」
「…はいはい、分かりました。」勇馬は冷静に応じながら、次々とコードを入力していく。
「PRINT、GOTO、FOR~NEXT…。こんな単純な命令なのに、ここまでゲームが作れるのが面白いですね。」
美優が紅茶を淹れながら、ほわほわした笑顔で言う。「えへへ~、勇馬くんの集中力、すごいですねぇ。ゲームが完成するの楽しみです~。」
ついに、勇馬の高速入力が完了し、彼がエンターキーを静かに押した。
「RUN」
その瞬間、ディスプレイにドットで描かれたキャラクターが現れ、シンプルなBGMが鳴り始める。画面上では、プレイヤーが左右に移動し、敵キャラを避けながら得点を稼ぐミニゲームが動き出した。
「うおおお!動いた!まじで作れたのか!」真平が立ち上がって叫ぶ。
「すごい!これが昭和の技術か!」琴美が目を輝かせる。
シャオも興奮して画面に釘付けだ。「パォ~!このゲーム、すごくシンプルだけど楽しいです~!」
勇馬が淡々と語る。「このプログラムは、昔のBASICマガジンに掲載されていたものですが、こうして手入力で再現すると達成感がありますね。」
「すごいわね…勇馬が本気を出すと、なんでもできちゃいそう。」沙羅が感心しながら言う。
琴美が勢いよく立ち上がり、全員に向かって宣言する。「みんな!これを文化祭で展示するわよ!昭和のゲームとプログラミングの魅力を広めるの!」
「またお前の暴走か…」真平がため息をつくが、どこか楽しそうだ。
勇馬が淡々と次のプログラムを準備しながら言う。「プログラムはまだまだたくさんあります。次はさらに難しいものに挑戦しましょう。」
「まるで勇馬がタイムスリップしてきた昭和のプログラマーみたいね。」沙羅が苦笑いする。
翌日、日ノ本文化部の部室で、琴美がまたもや新たな提案を持ち込む。
「みんな!次はラジオドラマに挑戦するわよ!」
拳を突き上げる琴美に、部員たちは一斉に呆れ顔を浮かべた。
「おいおい、なんでいきなりラジオドラマなんだよ。」真平が面倒くさそうに尋ねる。
「昭和といえばラジオ!昭和文化を広めるにはラジオドラマがピッタリなの!」琴美が自信満々に説明する。
「でも、ラジオドラマなんて作ったことないでしょ?」沙羅が冷静に指摘する。
「そこはみんなで力を合わせるのよ!脚本は私、音響は勇馬、主演はシャオ、美優は効果音担当、真平は監督!」琴美が勝手に役割を割り振る。
「なんで俺が監督だよ!」真平が即座に抗議する。
「だって、こういうの仕切るの得意そうじゃない?」琴美が適当な理由を述べる。
「いや、どこを見てそう思ったんだよ!」真平がツッコミを入れるが、琴美は無視して脚本を取り出した。
________________________________________
脚本:『昭和探偵・日ノ本タロウの冒険』
-昭和の大都会を舞台に、名探偵タロウが怪盗を追い詰めるサスペンスドラマ-
•主人公:探偵タロウ(シャオ)
•美しき助手:リリー(沙羅)
•怪盗カゲボウシ:琴美
•街の情報屋:真平
•効果音全般:美優
•ナレーションと音響操作:勇馬
________________________________________
勇馬
「昭和20年代、闇に包まれた大都会。今日も名探偵・日ノ本タロウが事件を追っていた――」
シャオ(タロウ役)
「パォ!これは…怪盗カゲボウシの仕業です!リリー、急いで証拠を探してください~!」
沙羅(リリー役)
「任せてタロウ!私は美しき助手リリー。どんな手がかりも逃さないわ!」
琴美(カゲボウシ役)
「フフフ…名探偵タロウ、私を捕まえられるかな?次のターゲットは君たちの事務所だ!」
真平(情報屋役)
「よぉ探偵さん。カゲボウシが逃げた先?そりゃ、昭和公園の時計塔だよ。」
勇馬
「こうしてタロウたちは、怪盗カゲボウシを追って昭和公園へ向かうのであった――」
________________________________________
勇馬
「カゲボウシの笑い声が響く――」
美優(効果音担当)
「えへへへ~!」
「いや、お前の声そのままじゃん!」真平が即ツッコミ。
「うふふ、だってこれが一番自然かなって~。」美優がのんびり答える。
「効果音っていうのは、もっと工夫するもんだろ!」沙羅が呆れる。
________________________________________
シャオ(タロウ役)
「リリー、あの怪盗は私が捕まえます!パォ~~!」
「ちょっと待って、なんで叫ぶの!?」沙羅が驚きの声を上げる。
「パォ!感情が入りすぎました~!」シャオが申し訳なさそうに言うが、その笑顔に全員が吹き出す。
________________________________________
琴美(カゲボウシ役)
「タロウ、残念だったわね!でも私は昭和の未来を守るために…なんとタイムマシンを作ったの!」
「そんな展開、脚本に書いてないだろ!」真平が激しく抗議する。
「だって、その方が面白いじゃない!」琴美が開き直る。
________________________________________
なんとか全員でラジオドラマを録り終えると、部室は笑いの渦に包まれていた。
「こんなに笑えるラジオドラマ、絶対ウケるわ!」琴美が満足げに言う。
「笑えるっていうか、全部ハプニングだらけだったじゃないか。」真平がため息をつく。
「でも、こういうのも楽しいですよね~。」美優がほんわかと微笑む。
「パォ!私、もっと演技を頑張ります~!」シャオもニコニコ。
「次はちゃんと脚本通りに進めること、約束してよね。」沙羅が冷ややかに言うが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。
________________________________________
こうして、日ノ本文化部のラジオドラマ挑戦は、笑いと混乱に包まれながら幕を閉じた。




