給食の選択
琴美はまた新たな企画を持ち込んで部員たちを巻き込む。
「みんな!今日は『昭和の給食』を体験するわよ!」
琴美が勢いよく拳を突き上げると、部室に集まった部員たちは一様に呆れ顔を浮かべた。
「給食って…ただのご飯じゃないの?」沙羅が冷静に突っ込む。
「ただのご飯じゃないわよ!昭和の給食は、心の栄養なの!」琴美が胸を張る。
「それに、昭和の給食ってなにが違うんだよ。」真平が疑問を投げかける。
「見てなさい!準備はバッチリだから!」
琴美はどこからか運んできた大きな段ボールをガサゴソと開け、中からアルミ製の食器と謎の鍋を取り出した。
「これが昭和の給食の必須アイテムよ!アルミの皿に脱脂粉乳、そして謎のミルメーク、カレー、昭和の代表選手ソフト麺と揚げパン!」
「ミルメークって…?」勇馬がメガネをクイッと上げながら尋ねる。
「牛乳に混ぜるといちご味とかコーヒー味になる魔法の粉よ!」琴美が説明すると、美優が目を輝かせた。
「わぁ~、おいしそうですね~♪」
「いや、待てよ。昔の脱脂粉乳って、めちゃくちゃ不評だったんじゃないのか?」真平が冷ややかに言う。
「いいから試しなさい!昭和の魂は飲んでこそ感じられるの!」琴美が鍋にお湯を注ぎ、粉を溶かし始めた。
準備が整い、各自にアルミ製の皿とコップが配られる。琴美が自信満々に言った。
「さぁ、昭和の味を堪能しなさい!」
まずは脱脂粉乳。真平が恐る恐るコップを口に運ぶ。
「……うっ!なんだこれ、白い水じゃねぇか!」
真平が恐る恐る脱脂粉乳のコップを持ち上げる。「これ、ただのミルクだよね?」
「そうよ、ただし脂肪を抜いてるからめちゃくちゃさっぱりしてるの!」琴美が説明する。
一口飲んだ真平が顔をしかめる。「さっぱりっていうか、これ牛乳の亡霊だろ……!」
「亡霊って!」琴美が大笑いする。
一方、シャオは脱脂粉乳を一口飲んで「パォ~!薄い!でもなんか、懐かしい味がします~!」と楽しげ。
「懐かしいって、初めて飲んだんじゃないの?」沙羅がツッコむ。
「でも、味が歴史っぽいです~!」シャオの謎理論に全員が頭を抱える。
「ちょっと真平、大げさすぎない?」沙羅が一口飲むが、すぐに顔をしかめた。
「これ、ミルクっていうか、飲む石鹸みたいな味なんだけど!」
一方、勇馬は分析的な視線を向けながら、脱脂粉乳を飲み干す。「なるほど、これはカルシウム強化型プロテイン飲料と言えるかもしれませんね。」
「無理にフォローしなくていいから!」真平が叫ぶ。
美優は目をつぶって一気に飲み、「えへへ、ちょっと変な味だけど楽しいですね~。」とニコニコしていた。
「美優ちゃんが天使すぎる…!」真平と勇馬が感動する中、沙羅が冷ややかに呟いた。「味覚がおかしいだけでしょ。」
続いて、ミルメークを脱脂粉乳に投入。琴美が得意げに言う。
「ほら、これで一気においしくなるのよ!」
しかし、ミルメークを混ぜると謎の化学反応が起こり、粉末がダマになって浮かび始めた。
「これ、大丈夫なのか…?」真平が引き気味に呟く。
それでも美優が真っ先に飲む。「甘くておいしい~♪」
「本当に?」と沙羅も試してみるが、「……味覚破壊されそう。」と顔を青ざめた。
そしてメインディッシュのカレー。琴美が鍋を開けると、独特な匂いが部室を漂う。
「え、これカレー?匂いが昭和っていうか…給食室の床掃除の後みたいなんだけど?」沙羅が眉をひそめる。
勇馬が慎重にスプーンを入れて一口。「……なるほど。昭和の人たちはこれを日常的に食べていたのですね。」
「それ、褒めてるのか?」真平が尋ねると、勇馬は無表情で答えた。「食べ物の定義を考えさせられました。」
ようやく落ち着いたかと思いきや、ソフト麺で新たな混乱が始まる。
「これ、どうやって食べるんです?」勇馬が袋の中身を見ながら困惑する。
「それをカレーとかミートソースに入れて混ぜるの!」琴美が説明。
シャオが袋を開けてた瞬間、勢いよく麺が飛び出して真平の顔面に直撃。
「あっちい!」真平が怒る。
「ごめんなさい~!麺が言うことをききません~!」シャオが泣きそうな顔で謝る。
「麺のせいにすんな!」沙羅が突っ込む。
「じゃあ最後は揚げパンよ!これが一番人気だったの!」琴美が揚げパンを配る。
「おお、これは美味そうだな!」真平がかじると、その表情がほころんだ。「これ、めちゃくちゃうまいじゃん!」
「でしょでしょ!砂糖がたっぷりで、カロリー爆弾だけどね!」琴美が得意げに言う。
しかし、沙羅がかじった瞬間、砂糖がボロボロこぼれ、シャオの頭に降り注ぐ。
「パォ~!私、砂糖まみれです~!」シャオが慌てて立ち上がるが、足元に転がっていたソフト麺の袋を踏み、派手に転倒。
「シャオ、大丈夫か!?」真平が駆け寄るが、滑った勢いで自分も盛大に転ぶ。
「何してんの!」琴美が笑いながら助け起こすが、真平の手に粉ミルクの缶がぶつかり、部室中に粉が舞い上がる。
「部室が脱脂粉乳の雲に包まれてるんだけど!」沙羅が叫ぶ。
結局、部室は脱脂粉乳と揚げパンの砂糖でぐちゃぐちゃになった。
「うふふ、昭和の給食って楽しいですねぇ」美優が決め台詞を言うと、みんなもつられて大笑い。
「でも、こういうのも部活動っぽくていいんじゃない?」琴美が満足げに片付けを始める。
「いや、これ絶対先生に怒られるパターンだろ!」真平がツッコミを入れる。
こうして日ノ本文化部はまた一つ、新たなカオスな思い出を作るのだった。
次の日、日ノ本文化部では、シャオが台湾の給食について語り始めていた。琴美、沙羅、真平、勇馬、美優が興味津々で話を聞いている。
「台湾の給食ってどんな感じなの?」琴美が質問すると、シャオは目を輝かせながら答える。
「台湾の学校、楽しいです!特に給食、みんな好きです!」
「へえ、給食か。日本と似てるのかな?」真平が首をかしげると、シャオはニコニコしながら続けた。
「台湾の給食は、日本と全然違います!例えば、臭豆腐とか米血糕
が出ることもあります~!」
「……しゅうどうふ?」沙羅が眉をひそめた。
「み、みいなんだって!?」琴美が口元を押さえる。
シャオは嬉しそうに説明する。「臭豆腐は、揚げたお豆腐です!匂いはちょっと強いけど、慣れると美味しいです~!」
「匂いが強いって、どれくらい?」真平が恐る恐る聞くと、シャオは考え込みながら答える。
「うーん…道の端でねこが三日ぐらいお昼寝したあとくらい?」
「全く想像出来ん!」真平が全力で突っ込んだ。
さらにシャオは続ける。「米血糕は、豚の血で作ったお餅みたいなものです~!もちもちして、美味しいです!」
「それ、本当に給食で出るの?」沙羅が半信半疑で尋ねる。
「はい!もちろんデザートもありますよ~!」シャオは得意げに答えた。
琴美が安堵したように微笑む。「よかった、甘いものでリセットできるのね。それで、どんなデザートが出るの?」
シャオは目を輝かせながら言った。「愛玉ゼリーです!透明なぷるぷるゼリーで、酸っぱいレモン味が最高です!」
「いいですねぇ」勇馬が感心して言う。
翌日、シャオが台湾の給食メニューを再現して部室に持ち込んできた。机の上に並ぶ臭豆腐、米血糕、そして愛玉ゼリー。
「さあ、食べてみてください!」シャオが笑顔で促す。
真平が恐る恐る臭豆腐を手に取る。「これ、匂いが…くっ…強烈すぎる!」
「おいしいですよ~!口に入れたら気にならなくなります!」シャオが自信満々で勧める。
「うそだー!」琴美が泣きそうな顔で臭豆腐をかじる。だが次の瞬間、表情が一変した。
「……あれ?意外といけるかも?」
「ほらね~!」シャオが嬉しそうに拍手する。
一方、沙羅が米血糕に挑戦していた。「もちもちしてるって言うから試してみたけど…なんか見た目がアレだわね。」
勇馬が真顔で口に運ぶ。「味は……意外とクセがない。美味しいぞ。」
美優はというと、愛玉ゼリーをスプーンで食べながら、「これ、ぷるぷるしてて楽しい~♪」と満面の笑み。
しかし、次の瞬間、真平が臭豆腐を飲み込もうとした拍子に盛大に咳き込む。
「ゴホッ!なんか喉にひっかかった!」
沙羅が慌てて水を渡そうとするが、その途中で自分の米血糕を落とし、勇馬の膝に直撃。
勇馬が跳び上がり、米血糕が部室中を転がる。
琴美が米血糕を拾おうとして手を滑らせ、愛玉ゼリーの器に突っ込み、中身が部屋中に飛び散った。
「パォ~~~!!!」シャオの驚きの声が部室に響き渡る。
部室は一瞬静まり返り、全員がゼリーまみれの真平を見て大爆笑。
「やっぱり、日ノ本文化部、面白いです~!」シャオが大笑いしながら叫んだ。
「面白いじゃねぇよ!」真平がゼリーを拭きながら叫ぶが、その顔にも笑みが浮かんでいた。




