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文化部、夏休み大出陣!

 ズーハンの誕生パーティーがひと段落し、店内に残る鉄板の香りと甘いマンゴーの余韻。

 琴美が椅子から飛び上がるようにして、次の宣言をした。

「よーし! これで準備完了! ……明日からはいよいよ夏休み編よっ!!」

「またかいな……」真平がうなだれる。

「ちょっと待って、夏休み編って何よ?」沙羅が冷静に問い詰める。

「なんです、みんなで旅行ですか?」勇馬が首をかしげた。

琴美はにやりと笑って両手を広げる。

「夏といえば! 去年も大騒ぎしたアレに決まってるじゃない!」

「……アレ?」

「アレって……」

一同の視線が集まる中、琴美は胸を張って叫んだ。

「海よ! 海に決まってるじゃない!!!」

「やっぱりなぁぁぁ……」真平が頭を抱える。

「パォォ~! 海いくですかぁぁぁ!」シャオはすでに大はしゃぎ。

「GG……日焼け止め必須」ズーハンは真顔でうなずく。

「えへへ~♪ じゃあ、スイカも持っていきましょう~」美優はにっこり微笑む。

沙羅は深いため息をつきながらも、小さく笑った。

「……もう決定事項みたいね」

「去年は電車で死んだ……」

真平が遠い目をしてつぶやいた。

海までの電車、スイカ割りセットと浮き輪と琴美の謎の昭和グッズで荷物は山のよう。座席を圧迫し、周囲の乗客からは冷ややかな視線。途中でシャオが迷子になりかけ、美優は寝過ごして危うく別の駅で降りそうになった——あの悪夢の移動である。

「だから今年は最初からクルマ! これしかないのよ!!」

琴美がバンッと机を叩く。

「でもさぁ……誰のクルマで?」

真平が眉をひそめると、琴美はニヤリ。

「もちろん! 市子先生のノアよ!!」


——それでも、翌日。

日ノ本文化部の面々は、職員室のドアの前で整列していた。

「おねがいしますぅぅ~~~!」

全員そろって土下座ポーズ。

「ちょ、ちょっと!? アンタたち……」

お市御寮人こと市子先生は、驚きと苦笑の入り混じった顔。

「去年は……電車でいろいろあって……」真平が蚊の鳴くような声でつぶやく。

「せ、先生の愛車・ノアを……その……海行きに出していただけませんでしょうかっ!」

市子先生は額に手を当ててため息をつく。

「……まったく、手のかかる子たちね」

しかし次の瞬間、ふわりと笑みを浮かべた。

「いいわよ。私も夏の海、ちょっと楽しみだったし」

「先生っ!!!」部員たちが歓声を上げる。

さらに、その後ろから静かに声がした。

「私も同行するわ。安全管理のために」

黒髪を揺らしながら現れたのは——大野博美。

凛とした眼差しで微笑む彼女に、部員たちはどよめく。

「うわぁぁぁ! 博美先輩も!?!?」

「これで完璧じゃん!」

「……ただし」ズーハンがスッと手を挙げる。

「博美先輩の隣は……オレがゆずらない」

「おまっ! ずるいぞ!」

琴美が慌てて抗議するが、ズーハンは断固たる態度。

「GG。ここだけは譲れない」

「……ふぅ。まあ、どうでもいいけど」沙羅が肩をすくめ、

「車内はどうせ地獄の合唱になるに決まってるし」真平が先に諦め顔。

「よぉぉっし! 決定! ノアで海へ出陣よ!」

琴美が拳を突き上げる。


磯貝亭の駐車場。

先生のノア、博美先輩のプリウス、そして沙羅のサイドカー付きバイクが並んでいる。

琴美が手を叩いて宣言した。

「じゃあ、座席は川越の時とおんなじでいいでしょ!」

「ちょっと待って!」

シャオが両手をブンブン振って飛び出す。

「パォ! シャオ、沙羅先輩のサイドカーに乗りたいです~!」

「……えぇ?」沙羅が目を丸くする。

「ちょ、ちょっとシャオ、本気?」

「パォ! サイドカーかっこいいもん! 風を切って走るの、絶対楽しい!」

シャオはキラキラの目でサイドカーの座席を撫でている。

「いや……サイドカーって助手席感覚じゃないからな……振動すごいし」真平が心配そうに呟いた。

「いいのか? 助かる」意外にも真平は肩をすくめた。

「シャオがサイドカーに行くなら、俺はノアで快適に過ごせるし」

「ちょっと待ちなさいよ!!」沙羅がジト目で真平を睨む。

「私のサイドカーを快適じゃないみたいに言わないでよ!」

「だって……いや、実際乗ると腰に来るし……」

「うるさいっ!!」

一方でノアの前。

市子先生はハンドルを撫でながら笑顔。

「はいはい、私は運転。隣に美優ちゃんね」

「えへへ~♪ よろしくお願いします~」美優は嬉しそうに助手席に座り込む。

「じゃあ俺と勇馬は後部座席でいいか」真平が荷物を積みながら言うと、

「待って! 私は!?」琴美が焦って声を上げる。

「当然、部長の私がセンターシートよ!!」

「……いや、誰も聞いてないし」勇馬がぼそっと突っ込み。

その隣のプリウスでは。

博美が涼しい顔でキーを回しながら告げた。

「助手席は……ズーハンでいいのね?」

「GG。絶対、ここは譲れない!」ズーハンは真剣な顔で胸を叩いた。

「はぁ……わかったわよ」

「やったぁぁぁ!」ズーハンが小さくガッツポーズ。

後部座席に巫鈴と萌香。

「巫鈴ちゃん、撮影は任せて!」萌香がスマホを掲げる。

「……車内で騒ぎすぎないでね」巫鈴は半眼で答える。

こうして最終的に——

市子先生のノア:市子先生(運転)、美優(助手席)、琴美・真平・勇馬(後部座席)

博美のプリウス:博美(運転)、ズーハン(助手席)、巫鈴&萌香(後部座席)

沙羅のサイドカー:沙羅(運転)、シャオ(サイドカー席)

の布陣が決定した。

琴美が高らかに叫ぶ。

「よぉぉし! これで準備は完了! 出陣よ!!」

「だから出陣じゃないっての……」

真平のぼやきと、エンジン音が重なり、文化部の夏休み大作戦は本格的に幕を開けた。



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