365歩で駆け抜けた小江戸
時の鐘が響く小江戸の町並みに、3台の乗り物がゆっくりと並んで入ってくる。
「見て見て見て! 着物のお姉さん歩いてるー!」
琴美が窓から身を乗り出しそうになる。
「危ないってば!」と市子先生が即座に注意。
一方、サイドカーからはすすけたポテチの袋と空のペットボトルが転がり落ちる。
「……うっ、文明に帰ってきた……」
真平は地面に手をつきながら小さくつぶやく。
沙羅は涼しい顔でヘルメットを外し、「やっぱりいいわね、小江戸って」とひと言。
プリウス組も到着し、ドアが開くなり――
「博美先輩の運転、快適でしたっ!」
ズーハンが爽やかにお辞儀するが、
「そう言ってもらえると嬉しいけど……君、ずっと窓から博美先輩を眺めてただけでしょ」
巫鈴の冷静な一撃が刺さる。
「えへへ~、おなかすきましたね~。川越といえばさつまいもスイーツですぅ~♪」
美優がキラキラ笑い、シャオは隣で元気に跳ねる。
「パォ! 小籠包屋さんないカナ~!?」
「まずは! 目の前の『蔵造り通り』を! 昭和レトロの原点とも言える、和の情緒を体感よ!!」
琴美のテンションはMAX。旗を手に堂々と先頭を歩き出す。
「って、私たち引率される側なの……?」
真平のぼやきに、沙羅が即答。
「いつも通りじゃない」
•駄菓子横丁で懐かしのお菓子探し
•お芋プリン vs 芋ようかん 食べ比べバトル
•川越まつり会館での太鼓体験
•突然始まるイントロ昭和歌謡当て大会(道行くおばあちゃんも参加)
ズーハンが感嘆の声。
「……ここは日本文化の圧縮空間だ……すごい……」
「そうよズーハン! ここが時代と文化の交差点――小江戸川越!」
琴美が満面の笑みで叫んだその時、シャオの悲鳴が響く。
「パォ!? さつまいも味のラムネ!? それって飲み物!? デザート!?」
「姉貴、今のは文化ショックってやつだよ……」ズーハンが肩をすくめる。
その日、川越の空に笑い声とさつまいもの香りがやさしく混ざっていた。
「では皆さん。せっかく川越に来たのだから、ただの観光ではもったいないわ」
市子先生が地図を広げ、指を差す。
「まずは、仙波東照宮へ行きましょう」
「東照宮って……徳川家康の?」巫鈴が即答。
「ええ。日本三大東照宮の一つ。質素な中にも深い歴史が息づいているわ」
沙羅は資料を手に真剣な眼差し、シャオは鳥居を見上げて「パォ……木がすごく立派アル……」とぽつり。
ズーハンも静かに手を合わせ、「……こういう空気、好きだ」と呟く。
続いて訪れたのは、縁結びで有名な川越氷川神社。
「ここ、有名な恋愛スポットなんだって」琴美が意味深な笑みを浮かべると、
「おい待て、何を企んでる?」真平が即警戒。
「おみくじ、ひいてみませんか~?」美優がふわりと配り始め、
シャオは鈴を鳴らしながらお参り、ズーハンは「……縁って日本語、深いんだな」と姉に話しかける。
「これが江戸時代の現存する本丸御殿……!」
勇馬の目が輝く。
巫鈴は資料片手に感動し、萌香はスマホで旅動画用素材を収集中。
「……お城なのに、どこか落ち着くね」
ズーハンの呟きに、美優がうなずく。
「うん、日本の家って感じがします~」
老舗うなぎ屋
「わあ~、いい香り……」美優が目を細め、琴美も鼻をひくひく。
シャオとズーハンは初めてのうな重にドキドキ。
「パォ……これ、どうやって食べるの?」
「うなぎって皮のとこカリカリしてる?」
「ちょっと! 初心者感出すぎ! 見てなさい、これが日本のうな重マナーよ!」
琴美が箸を構え、どや顔でうなぎをすくい上げる。
「ん~~~!! 甘辛タレに香ばしさが染み渡るぅっ!!」
「うわ、語彙力……」沙羅が冷静に突っ込み、真平も静かにひと口。
「……うまいな」
その一言で、皆の表情がほころぶ。
ズーハンが真顔で「おかわりってあるのかな?」と言い、博美が「若いわね」と苦笑した。
会計前、シャオがふらっと外へ。
数秒後――
「パォォォォォォォォォォォ!!!!!」
店先では職人がうなぎを捌いている最中。
包丁の音、赤く染まったまな板、生きた魚の動き――
「パ、パォ~~~!! さっき食べたのって……!?」
「だから新鮮って書いてあったじゃん……」真平が説明。
市子先生は「なかなか見られないものよ」と感心するが、
シャオは「……あたし、もっと料理に覚悟を持つ……」と真剣な表情。
「……これもまた、文化ね」博美がそっとつぶやき、
美優が「シャオちゃん、がんばったねぇ~」とハンカチを差し出した。
菓子屋横丁へ
「うわ~! 飴細工!」「この麩菓子、めっちゃ長っ!!」
巫鈴と萌香は露店を巡り、
美優は「芋けんぴときなこ棒、ゲットです~♪」と宝物のように抱える。
「パォ! ニッキ飴、鼻ツーンするけどクセになる~!」
シャオはズーハンとおそろいの縁日お面姿。
「ちょ、真平、それあめせんべい3枚目じゃない?」
「こういうのは今しかないだろ」
沙羅に突っ込まれつつも満喫している。
琴美は巨大な駄菓子箱を掲げ、「これ、部室に持ち帰り決定~!」とご満悦。
日が傾き、提灯が灯り始めた町並み。小さな屋台村、遠くから響く太鼓の音――祭りの雰囲気が街を包む。
「最後はここよ! 日ノ本文化部、小江戸制覇の記念撮影~!!」
琴美がラジカセを掲げ、流れ出すのはまさかの『365歩のマーチ』。
「シャオ、もっとこっち!」「ズーハン、真面目顔やめて!」
「誰か真平の団子隠せ!」「パォッ! 萌花、変顔しすぎ!」
「沙羅、笑って!」「先生、入って入って~!」
市子先生も苦笑しながらフレームに入り、博美先輩は後ろで控えめにピース。
桜と町並みと笑顔。
昭和と令和、台湾と日本、そして青春を詰め込んだ一枚が、フィルムに刻まれた――。




