カンフー花見と、鉄板の春
萌香のサプライズ誕生日パーティーは無事に成功し、その後もお祭りムードは冷めることなく続いていた。
「パォ!萌香ちゃん、似合います~!」
シャオが歓声を上げる先には、彼女から贈られたチャイナドレスを早速羽織った萌香が、クルリとその場で回って見せている。
ズーハンから贈られたカンフーシューズにも履き替え気合いが入る。
「お姉ちゃん!動画撮って撮ってー!」
スマホを構える沙羅に向かって、萌香は嬉しそうにピース。
その隣で、シャオがさっとカンフーポーズを取る。
「こうやってね!足はこう、腰はグッと下げて~!」
「こう!? パォ! たーっ!」
はしゃぐ萌香とシャオが、ぴょんぴょんとステップを踏んで舞うように動く。
その様子を見て、ズーハンが笑いながら袖をまくった。
「姉貴、ここ広いし、せっかくだから組手やろうぜ!」
「パォ!?ほんとにやるの~!?……いいよっ!」
シャオが構えを取ると、ズーハンもさっと足を開いて低い姿勢に。
ふたりの目がバチンと合うと、次の瞬間には――
「はっ!」「ヤァーッ!!」
――スパン!スパン!と、軽やかで鋭い蹴りと突きが交差する。
柔らかな地面を弾むように跳ねながら、互いに気を抜かずスピード感ある動きでかわし合う姿は、まさに武術演武のよう。
「……えっ、なにあれ本格的……?」
「わっ、すごっ……映画の撮影かな?」
週末で賑わう黒磯公園。
花見客たちの視線が一気に吸い寄せられる。
「これ絶対SNS映えするやつじゃん……」
「動画回しとこ、あの子たちすごくない!?」
拍手と歓声が巻き起こる中、シャオとズーハンは息を合わせるように宙を舞い、最後は見事なシンクロの飛び蹴りポーズでフィニッシュ!
\バシィッ/
「「ハァッ!!!」」
大きな拍手が起こり、シャオはちょっと照れながら手を振る。
ズーハンは得意げにガッツポーズ。
「いや~、やっぱり姉貴はすげぇな~!」
「パォ~……ズーハン、やるじゃない!」
それを見ていた萌香は、目を輝かせながらシャオに抱きついた。
「シャオッチ、あたしも強くなりたいっ!もっとカンフー教えて!」
「もちろん!“秘伝・花見カンフー”からねっ!」
沙羅はスマホの録画ボタンを切ると、真平にそっと一言。
「……この動画、絶対バズるわ」
真平は肩をすくめてため息をついた。
「また始まったよ……」
「お~い! バーベキューが焼きあがるよ~!」
満開の桜の下、芝生の向こうから琴美がトングを振りかざして叫んでいた。
カンフー演武に夢中になっていたシャオ、ズーハン、萌香の3人は、はっと我に返る。
「パォ! お肉ぅ~~~!!」
「えっ、焼いてたの!?」
「ごはん!ごはん!たんぱく質っ!」
シャオは萌香の手を引き、ズーハンもつづく。
戻ってきた部員たちの前に広がっていたのは、なんとも豪華な鉄板焼きの数々。
ジューッと香ばしい音を立てながら焼かれていたのは、肉厚のカルビ、ぷりぷりのエビ、丸ごとのイカ、さらには野菜の串焼きまで。
「お姉ちゃん、どうしたのこれ!?」
萌香が沙羅に尋ねると、琴美が満面の笑みで割り込んできた。
「実はね~、遊びで始めた“昭和の駄菓子屋体験コーナー”が、他のお花見客の目を引いちゃって~。“なつかしい!”“子どもが喜んでるから分けてくれませんか”って……それで交換したら、こ~んなに食材もらっちゃったのよ!」
「これが昭和の物々交換魂よ!」
琴美がウィンクを飛ばすと、沙羅が呆れながらツッコむ。
「もはや出店営業でしょ、それ……」
さらに、美優がほんわかと微笑んで加える。
「えへへ~、それとね……ズーハンさんとシャオちゃんの演武に感動したって、見ていた方たちが“これ食べてね”って、どんどん持ってきてくださったんです~」
「そんな……演武だけで……?」
ズーハンが頭をかくと、琴美がポンと背中を叩く。
「感動って、伝染するのよ!それもまた、昭和魂!」
「パォ!じゃあ今日は“みんなで食べてシェアの日”ですネ!」
「いただきまーすっ!」
わいわいと手を伸ばす部員たち。萌香はさっそくウィンナーを串から外して、シャオと半分こ。ズーハンは肉を一口かじってから、なぜか「ふむ、台湾のバーベキューと違って炭が浅めだね」と語り出す。
「おいズーハン、今は語らなくていいから食え」
と真平が苦笑しながら皿を手渡すと、ズーハンは笑ってそれを受け取った。
「了解、“昭和流シェア精神”ってやつだな!」
「いや、今作っただろその単語……」
春風と笑い声に包まれた黒磯公園。
桜の花が、ひとひら舞って鉄板の端に落ちた。
それを見た琴美が、ぽそりと呟く。
「……ねえ、この文化部、ほんとにすごい場所になってきたと思わない?」
沙羅が少しだけ、笑って言った。
「うん。……ただし、常識の範囲外だけどね」




