新学期編 ~ようこそ、日ノ本文化部へ!~
四月――
新学期のはじまり。校舎にはフレッシュな空気と、どこかソワソワしたざわめきが満ちていた。
文化部の部室。
いつもの顔ぶれが並ぶ中、琴美が机をバン!と叩いた。
「みんなっ!新入部員を迎える準備はできてる!?」
「……あんたが一番浮かれてるわよ」
沙羅が呆れ気味に呟きながら、部誌のバックナンバーを整理している。
「パォ~! 新しい仲間が増えるの、楽しみ~!」
シャオはすでにウェルカム手作りうちわを準備済み。
「えへへ~、歓迎お菓子もいっぱい作ってきました~」
美優のタッパーには、アイシングで「WELCOME」と書かれたクッキーがぎっしり。
「昭和の入部勧誘といえば……スカウト演説!!」
琴美はなぜか原稿用紙を手に仁王立ち。
「それよりパンフレットちゃんと印刷したか確認しようよ……」
勇馬が地味に大事なことを確認していた。
「俺、関係ないからな?もう変なこと起こるなよ?絶対に」
真平が珍しく警戒モードで構える――が。
そのとき、部室の戸が、コンコンとノックされた。
全員が振り返る。
戸が開き、静かに一人の少女が現れる。
「失礼します……。あのってみんな!キタヨー!!!」
小柄で、ぱっちりした瞳。
制服はぴしっと着こなし、髪は肩で揃えた上品なボブ。
その背中に――ちょこんと、デジカメのストラップが覗いていた。
「……萌花――あんたやっぱり・・・」沙羅が目を細める。
「当然でしょ!お姉ちゃん!」部室の奥から、声が飛んだ。
「――萌花っ!?」
そこにいたのは、磯貝沙羅の妹、磯貝萌花だった。
「えへへ~、来ちゃった♪ 今日から高校生になりました! …で、文化部入りまーす!」
「ちょ、勝手に決めないで!!!」沙羅が頭を抱える。
「うおおお、やっと来たか次世代SNS系!!!」琴美が謎の期待に目を輝かせ、
「パォ!萌花ちゃん!!」シャオが叫ぶ。
「えへへ、私、動画とか編集とか得意なので! “映える文化部”にしちゃいますよ~!」
萌花がカメラをかざして、ぱちりと笑う。
真平はそっとつぶやいた。
「……新学期から嵐が来たな」
沙羅は、やれやれと肩をすくめながらも――どこか嬉しそうだった。
その後萌花は入り口でぐずってる女子生徒を引っ張って来ると
「ほらっ!巫鈴ッチ、早く入って!」
「……ちょっと、萌花。私は見学するって言っただけで――」
扉の前で、明らかに不機嫌そうな顔で立ち尽くす少女がいた。
伊勢野 巫鈴。
那須塩原学園の新1年生。中学時代は生徒会長、成績トップ。誰が見ても“真面目で賢い”が、実はかなりの「お兄ちゃんっ子」でもある。
その巫鈴が、萌花に腕を引かれて部室へ連行されてきた。
「パォ~! 巫鈴ちゃんです~!」
シャオがウキウキと囁く。
「まさか……」真平が振り返る。
巫鈴と目が合った瞬間、巫鈴の瞳が細くなる。
「……お兄ちゃん」
「俺ここでもお前に監視されるのか・・・」
琴美がニコッと笑って前に出る。
「ようこそ、文化部へ! 巫鈴ちゃん!」
「まだ入るとは言ってません」
ピシャリと即答。
「うわ、返しもキレッキレ……!」勇馬が小声で感心する。
「ねえ巫鈴ちゃん~、文化部ってね、意外と深いんだよ~? 昭和の精神とか、人との絆とか、あと……バカ騒ぎとか!」
「最後の要素が悪影響しかないんだけど……」
沙羅が呆れながらも、やや巫鈴の気持ちに共感しているようだった。
巫鈴はふぅとため息をついた。
「……私は、生徒会に入りたかったの。だけど、“1年は選挙まで見学期間”ってルールがあって――」
「なら、選挙まで文化部で訓練だねっ!」
琴美が、なぜか“厳選されたツッコミセリフ集”という謎の冊子を手渡す。
「それ、訓練の方向性おかしいでしょ!」
真平が止めようとするが――
「でもですねぇ、文化って、見てるだけじゃわからないと思うんですよねぇ~」
美優がそっと、巫鈴の手に桜のクッキーを渡した。
巫鈴は、少し驚いたような顔でクッキーを見つめ、ひと口かじる。
「……おいしい。甘さ控えめで、上品」
「えへへ~、巫鈴ちゃんのイメージで作ったんです~♪」
「……そんな戦術まで使うの、この部活……?」
そして最後に、萌花が一言。
「巫鈴ッチ、ここにいたら、絶対お兄ちゃんの意外な一面も見れるよ?」
「……っ!」
明らかに、巫鈴の目が動揺した。
「では――期間限定。1学期だけ“臨時所属”ということで」
「やったー!!」琴美と萌花がハイタッチ。
「……日ノ本文化部、静かに暴風増量中だな……」
真平は頭を抱えた。
こうして――
伊勢野 巫鈴、高校1年。日ノ本文化部“臨時所属”という名の仲間入り。
新学期から波乱含みの幕開けは、まだ始まったばかりだった。




