春休み後半戦 ~文化部、静かなる暴風~
春休みも半ばを過ぎ――。
那須塩原の空は、少しだけ春霞を帯びていた。暖かな陽光の中、文化部部室の窓がガラリと開く。
「いやー……戻ってきたわね、我らがホーム!」
琴美が腕を広げて部室の空気を吸い込む。
「ちょっと、まだ春休み中なんだから“戻ってきた”って感じじゃないでしょ」
沙羅が冷静に言うが、手にはしっかり掃除用具。言いつつ乗り気だ。
「パォ~! やっぱり部室は落ち着くヨ~!」
シャオは机の上に正座して、すでに何かを組み立てていた(←旅館で気に入った“旅館ベル”の自作らしい)。
「えへへ~、みなさん、おかえりなさ~い」
美優が手作りの桜クッキーを並べ始め、部室にほんのり甘い香りが広がる。
真平と勇馬もやってきた。
「いや、春休み後半くらい家でのんびりさせてくれって……」
「僕も修理が溜まっててさ、ちょっと文化部は小休止で……」
――と言いながら、なぜか手に荷物。完全に参加する気満々の2人。
そのとき、琴美がパンッと手を叩いた。
「よし!では発表します!春休み後半、日ノ本文化部は――“昭和のDIY祭り”を開催します!!」
「「……………は?」」
真平と沙羅が同時に固まった。
「合宿でも旅館でも感じたでしょ? 昭和には“自分の手で作る”っていう精神があるのよ!!この文化部、何か作って、残しましょうよ!!」
「パォパォ!面白そう~! あたし、レトロの“おみやげ販売用カート”作る!!」
「ちょっと待て、それ、どこで売るつもりなの……」
「僕は……修理屋だから、昭和風ラジオの復元かな」
「えへへ~、じゃあわたしは“純喫茶風メニュー表”つくりますぅ~♪」
「俺、断るって言ってもどうせ逃げられないんだよな……」
真平は頭を抱えるが、琴美はウィンクを決めた。
「これが昭和魂よ!」
部室の一角には、大量の画用紙、木材、布地、金具――そして、工具箱。
まるで文化祭前の準備期間のような光景が広がっていた。
「ふっふっふ……“ちゃぶ台型ラジカセ収納台”、完成間近よ!!」
琴美が木槌を片手に謎の情熱を燃やしている。
「……なにそれ、収納台なの?それとも爆弾でも入ってそうな箱なの?」
沙羅があきれ顔で見守る。
「パォパォ~♪ おみやげカートは屋根付きにするヨ!」
シャオはベニヤ板に筆で「昭和萬屋」と書いており、すでに近所で注意されそうな雰囲気を醸していた。
「美優ちゃんのメニュー、もうカフェに貼って良さそうな出来だよ」
勇馬が言うと、美優はふんわり微笑んだ。
「えへへ~、“クリームソーダ(昭和風)”とか、“カスタードプリン(ちょっと固め)”とか、名前考えてるのが楽しくて~」
一方、真平はというと――
「……“文化部が平和に過ごすための手引き”、誰か読めや!!」
苦労してまとめた冊子が、誰にも開かれていないことにブチ切れていた。
「まあまあ、真平くん。こういうのは“思い出”になるものなのよ」
琴美が肩を叩くが、真平は遠い目でつぶやく。
「お前の思い出って……だいたい“被害者の記憶”だからな……」
その日の夕方。
試作品を持ち寄った「文化部・仮プレゼン会」が始まった。
「ではまず、シャオの“おみやげカート”を披露しま――」
ガシャァァァァン!!!
「パ、パォ!? 天井、落ちた!?」
急ごしらえの屋根が部室の蛍光灯に引っかかり、カートごと崩壊。
「次、勇馬の“ラジオ修復”!」
「うん、ちゃんと音も出るし、選局もできる。ほら、今も昭和歌謡流れて――」
ザザザザ……ブツッ。
「……あれ?」
「……呪いラジオかよ!!」と真平がツッコミを入れる。
「では私の、“ちゃぶ台型ラジカセ収納台”!」
琴美が誇らしげに披露したそれは――
どう見ても「重い・でかい・開かない」の三拍子。
「収納台っていうより、遺跡の石棺ね……」
沙羅がぼそっと呟き、琴美が地団駄を踏む。
「み、みんな……頑張ったよね……」
美優だけがそっとクッキーを差し出し、場の空気をほんのりと和ませた。
最終日、文化部メンバーは部室の壁に、それぞれの“作品”を並べて記念撮影。
多少壊れたものもある。完成度はまちまち。
だけど――どれも、愛と熱意と笑いが詰まった“手作り文化”だった。
「……昭和ってさ、正解がない感じがいいよね」
真平がぽつりとつぶやくと、
「うん。完璧じゃなくても、なんか“あったかい”のが昭和なんです~」
美優がそっと応える。
「パォパォ! 次は“文化部手作り市”やるヨ!!」
「……やらないってば!!!」
沙羅のツッコミが、春の風に乗って響いた。
――こうして、文化部の春休み後半戦も、にぎやかに幕を下ろした。




