文化部、昭和ごとバズらせました!
ぽかぽかの朝風呂から上がれば、夢の時間は終了――
日ノ本文化部、現在“花屋スタッフモード”全開である。
「パォォォ~! お客さんの味噌汁、あと2つです~!!」
シャオが湯気の立つお椀を両手で抱えながら、廊下を全力疾走。
「ちょっと、走るなって言ったでしょ! 落としたらどうするのよ!」
沙羅がトレーを器用に片手持ちしながら後を追う。手際は完璧、顔は若干引きつっている。
旅館「花屋」の広間では、取材クルーをはじめ、数十人分の朝食が準備中。
ごはん、味噌汁、焼き魚、だし巻き玉子に小鉢数種……それぞれが丁寧に並べられていく。
「うわっ、これ……マジで旅館の仕事じゃん……」
「黙って働きなさい、ケチャップ先輩」
琴美がにっこり笑いながら、お盆に並んだ料理を器用に運んでいく。
「文化部は、食事の準備まで文化研究に含めます!」
すでに“仲居モード”が板につきすぎて、もはや仲居長レベルである。
「えへへ~、お漬物の彩り、今日は紫蘇風味を足してみました~」
美優は厨房の奥で、小鉢の微調整に余念がない。あまりの手際に、本職の調理スタッフが思わず「弟子にしたい」と呟いたとか。
一方、厨房では――
「勇馬くん、湯呑の予備はどこ!?」
「左棚の上。あと急須の茶葉、煎茶から番茶に切り替えてください!」
勇馬は完全に厨房戦力。旅館スタッフと見分けがつかないほど溶け込んでいた。
そんな中、ロビーからロケ隊のディレクターが顔を出す。
「すみませーん、朝ごはんってそろそろ配膳できます? 撮影クルー、機材チェック終わってて……」
「はいっ、あと三分で配膳完了します!」
沙羅が即答し、琴美が「よーし、最終フェーズよ! フォーメーション“花屋型改”でいくわよ!」と謎の指令を出す。
「パォ~! ワゴン車、出撃アル!!」
シャオがワゴンを押し、コロコロと座敷へ向かっていく。
「えへへ~、温泉玉子のせてきま~す♪」
美優が最後の仕上げに回ると――
ふわっと、お茶の香りと和朝食の香ばしさが広間を包み込み、取材クルーやスタッフたちから「おお……」と感嘆の声が漏れる。
「まるで……撮影される側のこっちが癒される旅館だな……」
「これ……もう、番組の一コーナーで紹介してもいいんじゃ……?」
そんな声を聞きながら、琴美はどこか得意げに呟いた。
「ふふっ……昭和旅館風サービス、文化部の力を思い知ったかしら!」
「……あんた、本当に反省してたの?」と沙羅が小声で返すが、どこか楽しそうだった。
花屋の朝食ラッシュを乗り越えた日ノ本文化部。
だが、ここからが――本番だった。
「さあ! 昭和魂の見せどころよっ!!」
琴美がいつものように、声だけは元気いっぱいに叫んだ。
「……朝から動きっぱなしの人間の言葉とは思えないわね」
沙羅がタオルで額の汗をぬぐいながら、じと目で呟く。
旅館「花屋」の一角、ロビーが撮影セットとして整えられ、テレビクルーたちが慌ただしく準備を始めていた。
背景は、雛人形の七段飾りと美優がいけた梅の枝。
そこに、ちゃぶ台・赤いポット・黒電話・カラーテレビ(※勇馬持参)などが配置され、どう見ても昭和特集のコーナーにしか見えない。
「パォ~! カメラ、もうすぐ回るヨ~!」
シャオはメイクさんに前髪を整えてもらいながら、ちゃぶ台の上に「うまい棒」と「粉末ジュース」を並べている。
「勇馬、テレビのチャンネルダイヤル動かないんだけど……」
「ダミーだから回るように改造したよ。中身はタブレット仕込んで映像流してるから」
「ハイテク昭和!? 進化してるじゃないの!」
一方、スタッフ側では――
「そろそろ回しますね~! 文化部の皆さん、リラックスして大丈夫ですよー!」
「無理だってば!」
真平が苦悶の表情でカメラ前に座る。
制服のままちゃぶ台を囲んでいるのが、どこか奇妙な光景だ。
「文化部代表、吉峰琴美さん。テーマは“令和高校生による昭和レトロ文化の探求”でお願いします」
アシスタントディレクターが台本を差し出すが――
「大丈夫、アドリブでいけます!」
琴美が全力即答する。
「いやアドリブとかじゃなくてですね!? ちゃんと――」
「カメラ、回りましたー!」
「ちょ、早っ!!?」
カメラON
「こんにちは! 那須塩原からこんにちは! 日ノ本文化部の吉峰琴美です!」
全力の笑顔で手を振る琴美。その手にはなぜか昭和アイドル風レース扇子。
「本日は、“令和の女子高生が選ぶ!昭和レトロ推しベスト3”をお届けしますっ!」
「えっ、そんな企画だったっけ!?」
真平のツッコミを無視して、琴美の“アピール劇場”が幕を開ける。
第1位:ちゃぶ台
「昭和と言えば、家族団らんの象徴! このちゃぶ台を囲んで、テレビを見ながらミカンを食べるのが昭和のロマンよ!」
「※ちなみにミカンは季節外れで冷蔵庫から引っ張り出しました」
勇馬が小声で補足。
第2位:駄菓子
「うまい棒にヨーグル、そして粉末ジュースの『どのタイミングで水を入れるか問題』! それこそが文化の分かれ目!」
「昭和にそんな分かれ目あった!?」
第3位:黒電話
「ダイヤルをぐるぐる回すのが、もうとにかく萌え!」
琴美が黒電話に顔をすり寄せながら語る様子に、スタッフも若干ひいていた。
カメラの横では、王豊明が静かに腕を組んでいた。
「……アホみたいだけど、映えるのよねぇ、こういうの」
口元に、わずかな笑み。
「しかも、あれで全部ガチトークなんだよな……」
プロデューサーもメモを取りながら唸る。
その後、美優が「昭和風手作りスイーツ紹介」、沙羅が「ファッションの変遷講座」、シャオが「昭和風ラジオ体操アレンジ」など、各自の持ちネタを披露。
最後は全員で、
「日ノ本文化部は、昭和の魅力を未来へ届けまーす!」
カメラがパンアップし、梅の花越しに旅館の屋根が映り込む。
ロケ終了後――
「ふぅぅぅ、やりきったぁぁぁ!!」
「ねえ琴美、あんた、途中から企画変えてなかった?」
沙羅が睨む。
「いいのよ! 文化とは即興性と情熱なのよっ!」
「パォ~! なんか、全部持ってかれた気がする……」
「でも……ちょっと楽しかったですね~♪」
美優が笑い、真平が小さくため息をつく。
「……次の特集は“文化部の舞台裏”ってタイトルになる気がしてきた」
こうして、取材本番・文化部による昭和大プレゼン大会は、無事に終了。
数日後、台湾で放送された番組は話題を呼び、
「なぜか那須塩原で昭和が蘇った」と現地SNSを軽くざわつかせるのだった――。




