凧あげ忘れて、飯に燃える
日ノ本学園・旧校舎。新年初の活動日、日ノ本文化部の部室では――
「よーし!今年最初の文化部活動は“凧あげ大会”よ!!」
琴美が気合たっぷりに叫びながら、カラフルな和紙にマジックで「昭和魂」と大書する。
「いや、それ凧に書く言葉じゃないだろ……」
真平が突っ込みつつも、半ば諦めた表情で竹ひごを固定している。
「パォ~! わたしの凧、うさぎと餅の影絵にしました~!」
シャオはにこにこと絵を描きながら、すでに空を飛ばす準備万端。
「えへへ~、私はおせちの具を描いてみました~♪」
美優がほんわか笑顔で“伊達巻”と“黒豆”の絵を披露すると、勇馬がちらりと顔を上げた。
「……あれ、おせちって誰か食べました?」
\シーン……/
「…………えっ。」
琴美が凧を持ったまま硬直する。
「うそでしょ!? お正月といえば、おせちじゃない!!!」
「凧あげに夢中で、すっかり忘れてたわね……」沙羅が呆れ気味にこめかみを押さえる。
「えへへ~、なんか、お餅しか食べてなかった気がします~」
「いやいやいや、文化部としてそれは失態よ!おせち食べずに新年始めたとか、昭和にも顔向けできないわ!!」
琴美が机をドンと叩く。
「仕方ないですね……ネットでまだ残ってるの探してみます」
勇馬が冷静にパソコンを操作すると――
「……ありました。三段重・高級おせち。“豪華海鮮和洋風”。評価4.8。売れ残り処分で――」
\半額/
「即買いよッッ!!!!」
全員の声が重なった。
部室に広がる、重箱の重みと期待感。
ついにその時が来た。
「いざ……開封!!」
琴美が厳かに金の留め紐を解き、三段重のふたを――
\パカッ/
一瞬、全員が無言になる。
「……すご……」
「パォ~~……」
「えへへぇ……キラキラしてます~」
黒光りする鮑、分厚く輝くローストビーフ、濃厚な甘海老、そして金粉があしらわれた伊達巻……。
「これが……昭和じゃなくて、令和の財力……!」
琴美が神妙な顔つきで箸を構える。
そのとき、勇馬がぼそりと指摘した。
「……これ、四つしかないですね。高級ネタ、ちょうど四つ。」
\ピタッ/
全員の手が止まる。
「ちょっと待って。六人いるのに、四つ?」
「パォ!? 2人分足りないですか!? 文化部、内部分裂の危機!!」
「だ、大丈夫よ! こういうときこそ理性が――」
琴美が言いかけたその瞬間、
\スッ/
真平が、鮑に手を伸ばしていた。
「待てコラァァァ!!!」
琴美、真剣白刃取りで阻止。
「ちょっ、いいじゃん!誰かが行かないと始まらないし!」
「公平に!ジャンケンで決めましょう!!!」
沙羅がピシャリと断言した。
「パォ! 私、ジャンケン弱いのに~!」
「えへへ~、お餅の方が好きだから……譲ってもいいですよ?」
「いや、そこはちゃんと勝負して!」と勇馬が慌てて止める。
【運命の勝負:文化部式・おせちジャンケン大会】
──第一回戦──
琴美 vs 真平:「最初はグー、じゃんけんポン!」
\チョキ vs グー/
「うわああああ!!!」琴美、初戦敗退。
「よっしゃ、鮑ゲット!!」真平が歓喜。
──第二回戦──
沙羅 vs シャオ:「じゃんけんポン!」
\パー vs パー/
「あいこで、しょっ!」
\チョキ vs グー/
「パォ~~~!!やった~~!!!」
シャオ、ローストビーフ確保。
──第三回戦──
琴美(敗者復活) vs 美優 vs 勇馬
「えへへ~、私は甘海老がいいです~」
「僕は伊達巻でも…」
「絶対負けない!文化部の威信にかけて!!」
……が、三すくみの連続で決着がつかない。
5分後――
美優:「えへへ~、私もう満足です~どうぞどうぞ♪」
琴美:「ありがとう美優ぅぅぅ!」
\甘海老確保/
勇馬:「……最後の伊達巻、僕でいいですか?」
琴美:「譲る!その代わりあとでナポリタン作って!」
勇馬:「……は?」
こうして、争奪戦の末、各々の高級ネタが皿にのった。
「……あー、うまい。うま過ぎる……」
真平、目を閉じて鮑を噛みしめる。
「パォ~~~、お肉柔らかいですぅ~!」
シャオ、感涙。
「昭和のおせちにローストビーフはないけど、気にしないわ!!」
琴美、謎理論。
「えへへ~、私、伊達巻は後で“スイーツアレンジ”します~」
美優、まさかの追いおせち計画。
そして勇馬は、静かに伊達巻を口にしながら、
「……やはり、勝ち取った一品は違いますね」と真顔で言った。
「文化部らしい新年だな……」と真平がぼそっとつぶやいたのを、誰も否定しなかった。
――遅れてやってきた文化部のおせち。
それは、味も、笑いも、いつもの文化部らしさも――すべてが詰まった“ごちそう”だった。
(そしてこの後、こたつで全員昼寝に突入したのは言うまでもない)




