天音とエンデ
卒業したのでお城の部屋に引っ越す事になった。荷物が流石に多すぎたので、結構な量処分する事にした。作りかけの物は、お城にも錬金術が出来る部屋があるので、そこで作る事にした。
宮廷錬金術師の人達の邪魔にならないように部屋の隅にある机に並べたら、逆に遠慮する方がだめだったみたいで、一番大きな机を貰って色々作る事にする。
私の創ったミスリルは、並の魔力量では出来ないらしく、ほんの小さな塊を加工するのに1週間位かかるらしい。でも魔力の通りも、付与の数も多く付けられるから、みんな頑張っているみたいだ。
みんな忙しく働いていて、構って貰えないのが少し悲しい。あ、暇なのが一人いたっけ。
城門まで歩いて行くと、立ちんぼダグラスがいた。
「何だよ。一人で脱走禁止だからな」
「脱走って、酷くない?」
「おめーの行動パターンは読まれてるんだよ。護衛対象に、うろうろされたら困るんだよ。出かけたかったら、親衛隊に話し通せよ」
「みんな忙しそうだしさ。来月、王位継承の儀式が済んだら当分は戻ってこられないし。教会だけでも行っておきたいな」
運営費は前みたいにカットされないで行ってるはずだから、心配はないけど。
「あのな、行ってもおめーの事は伝わってんだから、嫌な思いするだけだぞ」
言われてはっと思い当たる。まさかダグラスに指摘されるとは思わなかったけど。
「ありがと。一応お礼言っとく」
それと、敬語使わない約束守ってくれてありがとう。
戴冠式はお母さんがドムハイト代表で来てくれた。一緒に帰る事になったけど、私が帰る場所は別の所なので、今のうちに甘えておく。レンにも当分会えないけど、自由に転移出来るようになれば会いに行けるから、ちょっとだけ我慢する。
「寂しくなるな」
「またそんな顔して。今回は危険な事なんてひとつもないよ?エンデも2カ月後には帰ってくるし。もう王様になったんだから、今までみたいに忙し過ぎるのもなくなるでしょう?」
「陛下はちっちゃい姫様に会えるのが最後で淋しいんですよね」
「それはお前だけだ。リリア」
「てへぺろ!」
これで親衛隊隊長なんだから、この国は平和だと思う。
「レンの隣に堂々と立てるように、頑張るから」
「僕も、ドムハイトとの関係改善に努力する。君に肩身の狭い思いはさせないから」
「レンは頑張り過ぎちゃうからほどほどにね」
一度だけレンにぎゅっと抱きついて、馬車に乗った。
「天音、終わったらちゃんと私の側に帰って来るのよ?」
「分かってるってば。エンデ、ちょっとだけ目を閉じててね」
太陽の杖を振ると、今の私が転移できる唯一の場所、神子の社前に転移した。
初めて来る場所なのに、やけに懐かしく感じるのは、私が本来居るべき場所だからだろうか?迎えに来た巫女にエンデの事を頼むと、私は何故か分かる月の神子がいる場所に向かった。
出迎えてくれたのは、いつか夢で見た盲目の少女。
「150年振りの神子が揃ったわね」
「長くあけてしまってごめんなさい。今までありがとう」
「月の神子は500年近く代替わりがなかったから、何とかやって来れたわ」
「それなのに、人と生きる道を選んでしまってごめんなさい」
「あなたが存在しているなら、100年足らずここに居なくても平気よ」
「うん。半年ばかりは力の定着と、神子の仕事に専念するから」
「ええ。私は新たな月の使徒の所に行くわ」
「ふふっ。よろしく」
美月、張り切ってるな。バランスを取る為に今は月の属性の人は足りないから。本当は国外に出したくないだろうけど、仕方ないよね。
思ったよりも6年のズレがあるな。だからこそ、神子の私が特定の人を好きになったんだろうけど。
「こんな所かしらね。もう月の力は正しく扱えるはず。それで、やはりシグザールに戻りたい?」
「済みません。私はもう、仕える主を決めていますので」
「仕方ないわね。約束だもの。天音はまだ手が放せないから、私が送るわ。場所、もしくは誰かを強くイメージして」
仕えるべき方、その前に親友でもある。立場は変わっても、この命を懸けて護る。
その頃レンは、久しぶりの釣りを楽しんでいた。相変わらず全く釣れないが、川の流れをぼんやり眺めているだけで、頭をリセット出来る。
「陛下ー、まだ粘りますか?」
「別に先に帰ってていいのに。この辺にはスライム位しかいないんだから」
「それでも、怪我位はします!全く警戒してないし」
「それは、リリアがいるから。魔法が間に合わなくても剣もあるし」
「陛下の剣の腕前は、スライム以下なので」
「えー」
はっきり違うと言えない所が辛い。
「!な…この魔力は!」
目の前の川から、強い魔力を感じた。
「っ!…え?」
「隊長?…わー、さすが陛下、大物ですね。2メートル級の大物」
「只今、戻りました」
エンデはレンに一礼してリリアを睨む。
「あははー。お久しぶりです。大臣殿」
うわ、やっぱりこの人には敵う気がしない。護られる立場になっても剣は手放さないし。
「美月、後はお願いしていいかな?美月の後任が生まれる前には戻るから」
「ええ。大丈夫よ」
「ごめんなさい。ほんの少ししかいられなくて」
「平気よ。それよりも、大きくならないと」
「あ」
ちっちゃいままは流石にまずい。身内以外に小さな姿は見せられない。
目を閉じて成長をイメージする。
「あれー?目線があんまり変わらない気がする」
「ちゃんと成長してるわよ?」
確かに、14歳相当の体にはなったけれど。
「美琴の娘だもの。そんなに大きくはならないんじゃない?」
「えー!お父さん大きいのに!身長までお母さんに似ちゃったんだね」
地味にショックだ。
「ううー。とりあえずお母さんの側に転移!」




