卒業前の…
年末の武闘大会は、今年からエンデは出場を辞退することにしたらしい。ダグラスが今年こそはと優勝を狙ってたけど、ドムハイトから流れて来た冒険者に負けてしまった。来年からは騎士なので、今年最後の出場だったから、物凄く残念がっていた。それで新たに必殺技ストライク3を開発しようとしてたけど、それって終わりだと思う。本人は良く分かってないみたい。まあ、ダグラスだからしょうがないけど。
新しい親衛隊隊長になったのは、リリアちゃん。副隊長のサイードさんかと思ったけど、器じゃないからって、三代続けて副隊長をやるらしい。意外に強くて、エンデも必殺技を使わなければ互角で、ダグラスも軽くあしらわれていた。
私は、錬金術で銀からミスリルを作り出したという記述から、それを再現してみようと頑張っている。太陽の杖がミスリル製なのでそれを参考にしている。
「魔力の通りも、素材そのものが全く違う性質なんだよね。本には作り方も何も書いてないし。卒業テーマにするのは早まったかな」
出来なかった時の為に、持続性栄養剤と、身体強化の効果を織り込んだ馬具を開発してある。馬車で移動した時、お馬さんが疲れているのを見て、作ったものだ。実験を重ねて、もう直ぐにでも、量産体制に入っている。
これ自体凄くいい魔道具だから卒業テーマには充分だけど、産出量の少ないミスリルが作れれば、優秀な武器防具が作れる。諦めたくはなかった。
ヒントといえば、同じ銀の坑道でほんの少し産出されるということ。場所によって採れる割合が違う事。直接行って調査したいけど、流石に国外までは行けない。天音は調査にこっそりぴよちゃんを使う事にした。
眠らなくていい体が便利過ぎる。卒業試験の勉強もしながら調査を続けて、魔素が湧き出るポイントに銀鉱石があると、それが長い年月をかけてミスリルになるようだ。
その辺は論文に纏めて、ならばと鉱石に直接強い魔力を圧縮して掛け続ける。沢山魔力使うけど、その分ご飯が美味しく食べられるから逆に嬉しい。そして遂に銀鉱石をミスリル化する事に成功した。
ただ、天然のミスリルとは少し性質が違う。むしろ凄い物が出来てしまった。嬉しかったけど、使う魔力が半端なくて、残念ながら量産は出来ないと言われた。それでも新たな発見は、高く評価された。
3月に入り、卒業も間近なある日、お隣の国カリエルに、魔物化した人が現れたと報せが入った。スノーベアの毛皮を狩る狩人で、ある日を境に家に戻らなくなり、近づく者は見境無しに攻撃してくるらしい。今の所人里に降りてくる気配はないが、他の狩人も冒険者も近づけない為、すごく困っている。
「準騎士だから勝手な行動は出来ないって分かってる。でも、そこを何とか許可貰えないか?」
ダグラスの言葉に、エンデはため息をつく。
「故郷が心配なのは分かるが、友好国だからと勝手に騎士を派遣する訳にはいかないんだ」
「ダグラスはお留守番してていいよ。私が行くから」
「は?何でおめーが」
「そうだよ。何言ってるの君は」
「私の仕事だからだよ。魔素が人間にまで影響与えるまで気が付かなかった」
「おめーに人間殺れんのかよ。盗賊相手に魔法躊躇う奴が」
「それでも、魔素を消すのは太陽の神子の仕事だもん」
「んな顔してる奴に任せられっかよ。政治の難しい事はわかんねーけど、故郷の危機に手を貸して、何が悪いんだって」
「なら、あと何人か、手練れを選んで」
「それは無駄になるよ。私の力の前で動けるのは、ある意味慣れてるダグラス位。あとはエンデと、お母さんかな」
「なる程な。ならレン様、私なら何か問題が生じても、対処出来ると思いますので」
「神子は、もう一人いるんだろう?」
「太陽の神子の仕事だって言ったでしょう?心配してくれるのは嬉しいけど、これだけは譲れない。私が浄化の力を使うから、ダグラスとエンデには、とどめさしてもらう事になると思う…嫌な役やらせる事になるけど」
「愚問だな」
「あのおっかねー魔法か?」
「違うけど、詠唱は必要。この人数なら、魔法の絨毯で行けるし」
「なら私、絨毯飛ばします!あの辺の魔物なら、私の火の魔法が有利だし」
ミーアの言葉に、出遅れたと思うシスカだが、風の魔法では相性が悪いし、魔力量でも負けているので、何も言えなかった。
「ミーアちゃんは、カリエルの街でお留守番でいいなら」
「…釈然としませんが、反対しても無駄?」
「ごめんね」
「じゃあ、明日の朝イチで出るね。レン、シスカさん、卒業式には出られないけど宜しく」
「ちょっと、急過ぎない?」
「早い方がいいんだ。犠牲者が増える前にね」
「出てるのか…討伐は、失敗に終わったということ?」
「残念ながらね」
「分かった。充分に気を付けて」
レンにはそんな顔させたくないけど、仕方ない事なんだよね。




