天音の力
アカデミーに戻り、天音は初日から遅刻しそうになった。夜通ししていた研究が、いつの間にか朝になっていたから。
「セーフ!」
「本当にギリギリね。早く席に着きなさい」
ほぼ同時に入った先生に睨まれてしまった。
学生生活もあと半年。結局制服は大きいままで、クッションなしでは席も高すぎる。
今までは出来なかったけど、何かをしながら別の事を考えたりは普通にしてたから、出来る下地はあったと思う。並列思考が急にやりやすくなった。
授業を受けながら、考えてるのはサボテンの事。爆弾も考えたけど、元々植物系は爆弾には向いていないし、思ったよりも水分量が多く、独特の青臭さがある。
それに、あの丸い形は崩したくない。他の形のサボテンは、ポーションに応用出来たけど、やっぱり無難な所で鉢植えかな。中身から植物栄養剤も出来そうだし。
「イリス?ちゃんと聞いているの?」
「はーい。今ここですよね?」
「そうだけど…顔がにやけてたから、聞いてないと思ったのよ」
やばい。顔に出てたんだ。なら、意識を薄く伸ばして…レンは会議中か。んー…以外と難しいな。魔力感知とは違うから。なら、鳥さんに協力して貰おう。ん?二足歩行の犬…じゃなくて狼か。ワーウルフだっけ?初めて見たな。
鳥を介して魔法を放ち、倒した魔物を回収する。人間技じゃないけど、只の人間でもないし、気にしない事にした。これ以上は鳥に負担がかかると思い、接続を切って魔力で鳥を作ってみると、案外簡単に出来た。
「おめーな、授業中に何やってんだよ?つーか、どうだったんだよ?」
「両親に会えたよ。私は天音。でも学生の間は今まで通りイリスでよろしく」
「マジか?それで何かパワーアップして、こそこそ何かやってたんか?」
「全く、馬鹿のくせにそういう変な所ばっかり鋭いんだから。私は神子でもあるから、世界の調査。魔物を狩って、魔石の調査」
「あー…?ここで、か?」
「うん。ワーウルフ、見る?」
イベントリから取り出すと、見事に頭だけ吹き飛んでいた。
「でも、シグザールに生息してないんじゃなかった?」
イベントリに血をうけたたらいごとしまい、風魔法で臭いを散らす。
「鳥さんにお願いしたの。今度からはこっちの鳥さんにお願いするんだ」
魔力で作った鳥を見せると、みんな驚いていた。
「うーん、折角だから名前付けようかな。ぴよちゃんで」
鳥が一瞬光る。
「あら。存在確定しちゃった。じゃあ、普段は私の影にいてね?」
鳥は頷いて、天音の影に消えた。
「魔力の鳥を、従魔にしたって事?」
「まあ、そんな感じかな」
「非常式な奴め。あまり周りに言いふらすなよ?」
「言われなくても分かってる。エンデは忙しくなる前に授業の予習、進めた方がいいよ?」
「何かあるのか?」
「さあ?レンに聞いたら?なんとなくだからこれ以上分からないよ」
「そうか。できる限り進めておく」
次の日はレンが来て、嬉しくて懐いたら、頭をポンポンされてしまった。
「あれ?何か疲れてる?あ!持続性栄養剤切れかかってる!夏休み前に補充したのに」
「ごめんね。何しろ今は大臣不在だから、やることが多くて」
「候補は挙げられてましたよね?せめて冬前には決められないと、年末が厳しいのでは?」
「候補からは出さないよ。エンデ、大臣やって?」
「…は?冗談ですよね?」
「冗談じゃないよ。ほら、父上のサインも貰ってる」
「無理です!最低辺の騎士爵で、元々平民ですよ?」
「僕は能力主義だからね。それにエンデなら僕を裏切らないだろ?」
がっくりとうなだれるエンデ。
「まあ、今は学生でもあるし、仕事の方はゆっくり覚えてくれればいいよ。それと親衛隊長は、なるべく早く後任決めてね」
「うっわ、学生に大臣とかえげつない。しかも根回し済みで」
「一応サポートで、ランドルフ伯爵付けるけど、父上の弟だから高齢だし、大丈夫、エンデなら出来るよ」
「…だからシスカを親衛隊に引き抜こうと思った時に、何故か一緒に働けない気がしたのか…」
「そうなんだ?少しならこの国離れても大丈夫だから、アマネに付いてニホンに行っても良いけど、帰ってくるよね?」
「そうですね…2カ月位ですか」
「え…行くだけで一ヶ月以上かかると思うけど?」
「それは大丈夫。転移で行くから。帰りも私は無理でも、美月が送ってくれると思うし」
「転移って…そんな事出来るの?」
「出来るようになった。まあ、私もまだニホンに行く前だから色々分かってないし、その辺は追々かな?」
「そう…びっくり箱が今更少し位パワーアップしても、驚かない事にするよ」
「レン、それは認識不足だよ。まあ、良いけどさ」
知らない方がいいって事もあるしね。
それから一ヶ月程。買い物を楽しんでいたシスカとミーアの所に、金の髪にアイスブルーの瞳の、10歳位の男の子が近づいた。
「ねえ、お姉ちゃんはどこ?僕、お姉ちゃんに会いに来たんだ」
大きな瞳が可愛い。
「迷子かな?」
「迷ってはいないけど、お姉さん達なら僕のお姉ちゃん知ってると思ったんだ」
「僕、名前は?」
しかし、突然くるりと後ろを向いて走り出す。そこにはレンとリリア、天音がいた。
「お姉ちゃん!…わー、本当に似ているね。初めまして。ユアンです」
「え!…もしかして、ユアン王子?」
「ぶー、だめだよ、こんな人通りの多い所で」
天音も、まじまじとユアンを見つめる。自分より若干背が高い。
「あの、一人で?」
「魔法の絨毯で飛んで来たんだけど、一緒に来た人は魔力切れたから、置いて来ちゃった」
「わーお。顔だけじゃなくて、性格もイリスちゃんそっくり」
「えー?似てる?ていうかだめでしょ?置いて来るなんて」
「だって早くお姉ちゃんに会いたかったんだもん」
「ちゃんと言って来た?」
「お母さんにはね。父さんには反対されそうだったから。なんとなく」
「そりゃあ、反対するだろうね。歓迎するよ。どうぞこちらに」
離れて暮らしていたのに、こうも似るものなのかな。アマネが二人いるみたいだ。




