スタンピード 2
どんどん強くなっていく魔物達。数人がかりで一匹のオーガと対峙しているが、苦戦は免れないようだ。なるべく下位魔法で魔物の数を減らしてきたイリスだったが、流石にもう、下位魔法では効かなくなってきた。
「(ホーリーショット)」
一撃でオーガの頭を吹き飛ばず。おっさん冒険者が驚いてこちらを見るが、イリスの姿を見て、納得した。弱い魔物は、手が出せない低ランク冒険者に任せ、強そうなのを狙う事にした。ダンジョンに潜った事もないイリスには、どの魔物がどれ程強いか分からなかったけど、大きな魔物は倒しにくいらしい。もう夜も更けて来て、流石に魔力も厳しくなってきた。護ってくれてる騎士の人もいつの間にか別の人で、散々休むように言われたが、この状況で休めない。
イベントリからマジックポーションを出したが、これで最後のようだ。
「ストライク2!」
うわ、だっさいネーミング!ていうかいつの間にダグラスがいたの?まあ、冒険者だから居てもおかしくないのか。その時、ひときわ大きなオーガが現れた。高位冒険者が尻込みしている。
「イリス!もう一発デカいの出せるか?オーガキングだ!」
ちょっとふらつく。まだ薬が回ってないんだ。でも、やるしかない。あれは何かやばい奴だ。
「(ホーリーショット)」
タイミング悪く、攻撃の為に屈んだ時だった。
よし!もう一回!魔力強めで。
光の弾丸が、オーガキングの頭を吹き飛ばした。やばい…視界が。こんなのいつぶりだろう?
誰かに抱き止められて、そのまま意識を失った。
ふかふかのお布団に、触り心地の良いシーツ。寮じゃなくて、お城かな。…あれ?何で?
体を起こすと、若干の怠さはあるけど、すっきりとした寝覚めだ。侍女が、トーヤ先生を呼びに行ってくれる。
「流石に魔力の回復も早いな。もう昼だが、それでも一日で目を覚ますとは思わなかったな」
「げ、アカデミー休んじゃった」
「…はあ?起きて早々それか?」
「ええと、スタンピードはどうなりました?」
「終結したようだな。親衛隊も半数が動けない。今日は大人しく寝ているんだな」
「エンデも?」
「ああ。流石に応えたようだな。まあ、オーガキングが出るほどのスタンピードだったのに、被害が少なくすんだのは、お前のおかげだろうが、同時にお前のせいでもある」
「何で?」
「自覚ないのか?お前はトラブルに愛されている。いや、自らが首を突っ込みたがるのか」
「それは流石に酷いよ。なんとなく行きたかった所に行っただけだもん」
悪くない筈だ。なのにどうしてか、こんな災害が、自分のせいな気がしてくる。頭で考えると、あり得ない筈なのに。
部屋を出て、付いてきた騎士の人に王子様の所に行きたいというと、執務室に連れて行ってくれた。
「もう起きて大丈夫なんだ。よかった」
「忙しい時にごめんなさい」
「どうしたの?こっちにおいで」
入口で止まったままのイリスに、レンから近づく。と、イリスが抱きついてきた。
「何かあった?」
「トーヤ先生に、歩く災害認定された」
「トーヤはああいう性格だし、本気じゃないから、気にする事はないのに」
頭を撫でてやると、やっと少し落ち着いたのか、顔を上げて見上げる。
「スタンピードは天災だし、いつかの海竜だってそう。今はどうしてか魔物が増える傾向にあるけど、仕方ないし」
「増えてるの?」
「新種の魔物がね。前に君が倒した熊の魔物とか、野良犬とか野良猫が、魔物化したって話も聞く。この街ではないけどね」
「ちゃんと魔石も出たの?」
「うん。だから魔物で間違いない。そんなに強くはなかったみたいだけど」
「やっぱり、私のせいかな」
「え?ちょっと待ってよ。そんなのが人災の訳ないって。ダグラスが冗談で言ってる魔王とか、そんなのまで気にしてる?」
「違う…天災だけど、人災でもある。私が、」
「イリス!しっかりして!」
つかんで強く揺さぶると、イリスは目をぱちくりさせて、首を傾げる。
「…あれ?レン、何でここに…は私か。どうしたの?レン」
「いや、それはこっちの台詞だけど。夢遊病?」
「失礼な。ちゃんと起きてるし」
「…ちょっと休憩にしようか」
ソファーに座ると、程なくお茶が運ばれてくる。
「これ、花茶?綺麗だね」
「ほんのり甘くて、魔力回復の効果もあるらしいよ」
ニコニコしながらお茶を飲む姿はいつものイリスで、先程までの、どこか追い詰められた感じがしない。
「落ち着いた?さっきはどうしたの?」
「…うーん?よく覚えてない。魔物の話しをしてたんだよね?」
「そうだね。大丈夫?」
「酷い。大丈夫だってば。来週には行くんだよね?」
「正確には今週末には出るよ。馬だと二日で行けるけど、馬車はもう少しかかるから」
「魔法の絨毯の方が早いよ?ちょっとだけど」
「雨降ったら濡れるよね?」
「雨避けの結界張れば」
「馬車なら乗っているだけで良いから。ね?」
「体面とか、そういうのもあるか」
「分かってくれるなら嬉しい。服も髪も乱れちゃうからね」
「えー、というと、またあの重いドレス着るの?」
「旅装だから、若干は軽くなるけど、流石にローブはないから」
げんなりとした表情を浮かべるイリス。
「それでもまだ、子供用だから軽い方だよ?」
「お姫様ってか弱いイメージあるけど、実は体力あるんだね」
「そうかもね。じゃあ、僕は仕事に戻るから。イリスはどうする?」
「みんなダウンしちゃってるみたいだから、明日の朝にアカデミーに戻るよ」
「そう。夕ご飯は一緒に食べよう」
イリスはうなずいて、部屋を後にした。
途中の街で泊まり、また馬車に揺られる。途中の魔物は騎士の人達が倒しちゃうし、物凄く退屈。エンデもミーアちゃんも馬に乗っているし、レンと一緒だけど、打ち合わせを兼ねてなんか喋ってるし。
「あぁ、砂漠が見えて来たね」
「!おー、本当に砂だらけなんだね」
砂漠特有の魔物の姿も見えるけど、今いるここが緑地帯の向こうなので、関心を示さない。
「あれがサボテン?丸いのだけじゃないんだね。うー、採取したい!」
「帰りにね。ほら、危ないからちゃんと座って」
窓にへばり付いているイリスの服を軽く引っ張ると、やっと窓から離れた。だが、視線は窓の向こうに固定されている。
休憩を挟むと、一目散に走り出した。が、直ぐにエンデに捕まって、小脇に抱えられて戻って来る。
「予想済みかな?エンデ」
「それは、もう」
風の魔法で砂を落とし、シートの上に座る。
「意地悪」
「頼むから、大人しくしていて下さい」
「ここまでくれば、もう少しだから。汚れた姿で逢いたくないよね?」
「うん。でも帰りは採取していいでしょう?ちゃんと着替えも持って来たから」
「用意がいいね。分かったよ」




