将来の事と、肉採取?
4月はじめに、早々に進路調査がある。そこでイリスは悩んでいた。
「あれあれ?イリスちゃんは白紙?」
「ミーアちゃんは?」
「私とエンデ君は就職中なので、良かったら相談に乗るよ」
「ドムハイトには行ってみたいんだけど、最近また戦争になるかもって噂だから」
「そういえば、前にも聞いたね。故郷かも知れないっていうのは、何か覚えているから?」
「多分だから、確証がある訳じゃないよ。あ、故郷だからって、スパイしてないよ?」
「誰も疑ってないから。けど、今の所は危険だね。でも、少なくとも僕や父は反対だし、一部が暴走している状態かな。もう南の銀鉱も殆ど出ないから、戦争を始める理由としては弱い」
「…ふうん?」
そのキョトンとした目に、理解出来て無いのだと思う。まあ、シスカも首を傾げているし、ダグラスに至っては、考える事を放棄している。
「だから、噂ばかりが先走っている感じ」
「成る程。でも危険?」
「ピリピリしているからね。商人の行き来も制限されているから」
「分かった。じゃあどうとでもなるように、取り敢えず旅に出るって書いておく」
「この国に、留まるつもりは?」
「ちゃんと帰ってくるよ。私にとっても大切なものが沢山あるから」
「あれ?ダグラス君ばかりかと思ったけど、シスカ姉さんも騎士希望っすか?」
「亡くなった父が騎士だったのよ。勤務中に殉職したの。母にも止められたけど、私は騎士を目指したいと思った」
「憧れとか、そんな中途半端な気持ちでは騎士は務まらない。騎士が相対するのは人間だし、それは自分がよく知る者かも知れない」
「じゃあ、エンデには俺達が斬れると?」
「出来る。例えばこの方に危害を加えようとするなら、私は躊躇いなく剣を抜くし、かなわなければ、命を懸けても守る」
レンはそっと目を伏せる。誰だって友達に命かけてもらいたくない。その時、イリスの目に別の映像が見えた。槍を持ち、青い聖騎士の鎧を着ているのは、ミーアちゃん?その視線の先には、白を基調にして、青い縁取り、背後にはエンデと、鳥の模様の緞帳。国旗の、風乗り鳥だ。…レン、それって王族の着る色だよね?そこは、謁見室なのかな。…只の幻じゃない。あの時、確か同じ服着てた。ミーアちゃんの記憶、なのかな。
「俺にはとっくに覚悟出来てるぜ。カリエル出身で、初めは憧れだったけど、今は沢山大切なものも出来た。レンの事だって守ってやるよ。貴族ってだけじゃなくて、大切な友達だし」
「騎士にこだわらなくても、その剣を生かす道はある」
俯いてしまったシスカに、エンデはそう声をかけた。
「イリス?どうしたの?顔色悪いけど」
「えっと…騎士って怖いなって。私には人の命を奪うなんて無理だし」
「イリスはよ、どっかの貴族のお抱え魔術師とかどうだ?まあ、爆弾抱えているのと一緒かもだけど」
「僕?僕に言ってる?」
「イリスが一番懐いてる気がするし、面倒見良いからさ」
「ていうか本当に、鈍いんだか鋭いんだか分かんない」
イリスとは違う意味で。
「あー?何の事だ?」
「いいよ。君はそれで。イリス、怖がらなくても、そこまでにはならないよ。戦争にもならないように頑張るし、もし記録でも残っていれば、こちらから調査をお願いする事もできる。やみくもに探すよりずっといい。10年以上前なんだから」
「…ありがとう。ございます」
目をそらしたままそんな事を言うイリスに、首をかしげる。
「何?どうしたの?」
「分かんない!…ごめん。今日は帰るね」
混乱してる。かなり。かといって、直接尋ねる勇気もない。もし本当に王子様だったらどうしよう?只の友達だったら、そのままでもいいかも知れない。好き、なんて、孤児の私に言う言葉じゃないよ。…レンが本気で言ってくれていることは、分かる。恋は自分じゃどうにもならない気持ちだって、誰かが言ってたっけ。
それにしても、誰かの記憶覗いちゃうなんて、初めてだ。意図していた訳じゃないけど、ミーアちゃんには悪い事をしたな。
夕方、学術の授業を終えたレンが、イリスの部屋を訪ねて来た。
「お昼の時に、混乱していたみたいだったから。お邪魔していい?…スス臭い?」
「栄養剤を創ろうとして、爆発させちゃったんだよ。良くあることだから気にしないで」
「栄養剤って、爆発するような物入ってたっけ?」
「だから、気にしないでって」
イリスは、ビーカーでお湯を沸かし、青茶の粉末をカップに入れる。
「レンは前に、家族になってくれるって言ってたよね?」
「そうだよ。勿論お兄ちゃんじゃなくて、結婚の意味でね」
カップを置いて、レンを見つめると、まっすぐに見返してくる。
「私はもうすぐ14歳で、まだ子供だけど」
「アカデミーを卒業して、2か月経てば大人だよね?」
「何で疑問系?本当にちっちゃい頃から教会に居たんだから、歳間違えるはずないし」
「そうだね。大人になれば、結婚出来る。後はイリスの、気持ち次第だよ」
「でも私、貴族じゃないよ?」
「それも考えてある。知り合いの貴族に、養子縁組という形で、後ろ盾になってもらう」
「外堀は、埋まっちゃってる感じ?」
「まだ話は通していない。だってまだ僕は、君の特別になれてないから」
「分かった。少し考えさせて」
足りないのは、私の覚悟。それと気持ちかな。そっと抱きついてみると、頭を撫でてくれた。
「ふぎゃ?!」
抱きしめ返そうとしたレンの手が、悲鳴で止まる。肋骨痛いよー!
「ご、ごめん」
「これでもずいぶん良くなったけど、忘れた頃に痛くなるんだよね」
自分で診ても、綺麗に治っている。一ヶ月とか言ってたけど、まだ1週間なのに。
次の月は、お菓子の日。
「みんなは来る、よね」
「あー、実はその日、依頼でいない。くそっ、気をつけていたのに、報酬に目が眩んだぜ」
「私はどうしようかな」
「?!イリスがお菓子の日を迷っている?天変地異の前触れか!」
「骨、まだ痛むの?」
「ううん。去年の事思い出したら…」
「ああ、騎士に斬られそうになったんだよな」
「ちょっとしたトラウマなんだよね」
「君たちのは、確保しておくから」
「マジかよレン、感謝!!」
「でも、それって職権乱用じゃないの?」
「三つ位平気だよ。さすがに教会用は無理だけど」
「果実水用意するから大丈夫。後は肉の確保かなー?オークの群れでも見つかればいいな」
「ちょっとやめてよオークなんて」
「美味しいよ?」
「分かるけど、オークは辞めようよ」
「シスカさんもミーアちゃんも、警戒し過ぎ。かといってボアが見つかるかは分からないし。
週末、ボアを探しに近くの森に行こうとしたら、途中、リリアちゃんに会った。
「イリスちゃん、採取行くの?」
「食肉採取。でも、ギルドには卸さないよ?」
「いいよ。薬草位なら常時依頼であるし、イリスちゃんと一緒の方が楽しいから」
「ありがとう。出来ればビッグボア。居なければ小型でも」
「オッケー!」
けれど、出会うのはゴブリンばかり。
「一匹見たら30匹いると思えって言うけど、ちょっと多すぎない?」
「確かに。集落とか作られていたら不味いね。戻ってギルドに報告する?」
「もうちょっと様子見て、小さい規模なら全滅させればいいし」
「さすがイリスちゃん。…おっと、ナイトがいるね」
「瞬殺しながら言わないでよ。リリアちゃんて、本当にCランク?」
「今は趣味範囲の冒険者だから。ランク詐欺なのはイリスちゃんと一緒かも」
多数のライトアローが、方々にいるゴブリン達を殲滅させる。
「げ…300匹近くいるかも。間違いなくジェネラルかキングが居るね」
「殺る?」
「勿論。先に数減らすね」
多数展開されたファイアートルネードが、多くのゴブリン達を殲滅しながら進む。
「もう一回!」
出てきたキングに、ホーリーが炸裂した。
「イリスちゃんー、雑魚しか残って無いんだけど」
「ごめん。つい」
燃え移った火を、ちまちまと消してゆく。
「あ、良かった。キングの魔石は残って。ナイトとメイジのは半分近く燃えちゃった。勿体ない」
「取り敢えず火は全部消えたかな?今回はミーアちゃんがいるからソロじゃないし」
「えー?殆ど一人で倒しちゃったくせに。ていうかこの死体見たらバレバレだよね?」
「ちょっと待って、何でアイテムボックスに死体入れてるの?」
「いや、街のこんな近くにキングが出たんだから、騎士まで報告行く案件だよ?」
「やめてー、クーゲルさんに怒られるー」
「パーティーだって、私はCランクなんだから、ね?一緒に怒られてあげるから」
「あうー。しかも肉が手に入らなかった」
「まあまあ、来週も付き合ってあげるから」
「オークでも?」
「それは嫌」




