発明と、イリスの気持ち
冬休みが終わり、日常が戻って来た。
「ちょっとレン、腕のサイズ測らせてね」
イリスは何やら色々と書いてあるノートに、測ったサイズも書き入れる。
「何?誕生日プレゼント?」
「え?あー。実験も兼ねて?」
「お前という奴は、何の実験をさせる気だ?」
「んー。危険はないよ。多分」
「多分なのー?イリスちゃん。どんなの?」
「秘密。出来なかったらごめんだけど。それと、デザインとかのセンスは無いから、装飾なしで」
「あんまりゴテゴテしたの好きじゃないから、それはいいけど。錬金術で作るものなんだ?」
「うん。オリジナルアイテムだよ。今は別なの創ってるから、それの後になるけど、誕生日には間に合うと思う」
「今は何創ってるの?」
「割れない窓ガラス?のようなもの。そうだレン、これに魔力込めてみて?割と本気で」
イリスは、薄く黄色がかった板をレンに渡す。
「本気で大丈夫なんだよね?」
頷くイリスに、レンは板に魔力を通す。
「ちょっとヒビが入ったね。でもレンの魔力でこれなら、他の人は大体大丈夫だね」
「凄いね。窓ガラスの代わりになるんじゃないかな?」
「うん。それ狙いだよ。ただ、透明にはならないけど」
「材料って何?」
「アロンの木の樹液だよ」
「って、糊?」
「うん。大体の原料はね。だからガラスみたいに魔力を溜めないから、砕けない。衝撃にも強いし。ただ、微妙に黄色くなっちゃう」
「それでも凄いね。君の部屋の窓はこれにしといたら?」
「してるよ。でも、私が本気出したら、これでも砕けちゃうだけ」
「うわ…」
「なあおめー、冬休みに何かあったんか?」
「いきなり何?ダグラス」
「いや、去年の夏程じゃねーけど」
「魔力は上がってるけど、ダグラスには分かんないでしょ?」
「そりゃ、すげー奴はすげーってしかわかんねーけど、そうじゃなくて、雰囲気がな」
「野生の勘て奴?ますます分かんないよ」
「俺だってわかんねーけどよ。自分で少しは何か変だとか、ないのか?」
「あったとしても、ダグラスには関係ないし」
「一応友人として心配しているんだけどな」
「もう!馬鹿のくせに、魔力もあんまりないくせに、だから嫌なの!」
「馬鹿は関係ねーだろうが!レンみたいに天才じゃなくても、心配位はするっつーの!」
「ね?イリス、レンさんにプレゼント渡したいと思ったのはどうして?」
「恩返しがしたいから?ねこさんも貰っているし」
「恩返し、か。惜しいわね」
「シスカ、いいよ。待つってきめたから」
「何の話しだ?」
「ダグラスはいいわよ。余計話がややこしくなるから」
「ね、シスカさん、恩返しじゃだめなのかな?」
「んー。小動物のように可愛いらしいレンさんは、そういう意味では好みじゃないから。いまいち頼りがいはないし」
「何か酷い事言われてる」
「ふふっ子供たちの事、私は応援してるから」
「僕は大人だし。もうすぐ16なんだけど」
「さすが姉さん、最強」
貴族相手に一歩も引かないレンがいいようにあしらわれている。
好きって難しい。特別の好きの為に、他の人が好きじゃなくなる訳じゃないし、違うと思う。心の中の一番は、死んじゃった両親の、僅かな思い出だから、レンは一番じゃない。レンは違うのかな?この間会ったおじいちゃん…じゃなくてお父さんよりも、私を好きって事なのかな?よく分かんないや。
「まあ、とにかく今は進級試験だよね。ダグラス、今のままだと落ちるからね。みんなで2年生になりたいんだから、頑張ってよね」
「マジかよ!レン~!頼む!」
「ミーアちゃんは魔法ね。私が教えてあげるから」
「おお!イリスちゃんが教えてくれるなら、バッチリだね!」
「むしろ反面教師だな。いつも詠唱を飛ばすから」
「だって実戦でいちいち詠唱してたら負けちゃうじゃん?」
「そもそも、後方支援担当の魔術師が前衛に出る事はないし、より多くの魔術を使う為、普通は温存するものだ」
「私は冒険者だもん。大人になったらダンジョンにも潜りたいし」
「ランクは?」
「Dだよ」
「竜も倒しちゃうのに?」
「だって、子供の内はDまでしか上がんないって決まりがあるんだよ」
「良かった。子供はダンジョン入れなくて。心配しなくて済む」
「大人になったら潜るよ?」
「じゃあそれまでに、何とかしなくちゃならない訳だね」
「?レン。どういう事?」
「いや…ダンジョンは危険だから、潜って欲しくないから」
「へえ…以外とイリスの事、真剣に考えているのね」
「それは、勿論」
「じゃあ、あの人の事も?」
「少し時間はかかるけど、何とかする」
「へえ。少しは見直したわ。可愛いのには変わらないけど」
「まあ、それが君の持ち味だよね」




