お兄ちゃん?
次の日の朝早く。起きたらエンデがいなかった。ダグラスは、いびきをかいている。よくあんな寝相でベッドから落ちないものだと思いながら、タオルだけ持って部屋をでた。顔を洗ってふと窓の外を見ると、エンデとイリスが、楽しそうにしゃべっていた。そういえばイリスは、普通、子供は懐かないエンデに初めから普通に話しかけていた。同じ黒髪だから、親近感が沸くのかな?
「はよー、お?珍しい組み合わせじゃん。アイツ再戦を挑む気かな?」
突然後ろから話しかけられて、レンはびっくりする。そういえば、眼鏡を忘れていた。
「流石にここで戦ったりはしないと思うけど」
なるべく顔を合わせないように、さりげなく離れる。
「あの距離で見えてるのか?眼鏡要らなくね?」
「いや…必要、だから」
「ダグラス君、おはよ」
「おう、ミーア。何かレンの奴、挙動不審じゃね?」
「そんな事ないよー。朝ご飯の前に、体動かさない?」
「お?珍しいな。ミーアから誘って来るなんて。手合わせするか」
もう、レン様ってば、ダグラス君は武闘大会にも出場しているんだから、気をつけないと。まあ、あんまり深く考えるタイプじゃないから助かったけど。
「今朝、何話してたの?」
「はぁ。素振りをしていたら偶然通りかかったので、一応誰か好きな人はいないのかと。懐かれているんだから妙なやきもちやかないで下さい」
「いや、そういう訳じゃなくて」
「スライム枕の事とかマジックバックの事、感謝していましたよ?勉強教えてくれて嬉しいと」
「そうか」
「その顔です。気をつけて下さい」
「あー。そうだね。全然自覚してなかったよ。気をつける」
いつから好きだったんだろうな。マイスターに入った頃には、あるいは。
「レンー?何かエンデが心配してたよ?」
言いつつ後ろから抱きついてきた。こ、こんな不意打ち、対応無理!
「そう?な、何だろうね」
「んー。エンデの親友は、ちゃんとレンなのにね。まあ、心配な所はいっぱいあるけど」
「あるんだ?」
「魔物への反応速度が遅い。エンデとかミーアちゃんが守ってくれなかったら、死んじゃうよ?冒険者としては致命的」
「いや別に、僕は冒険者になるつもりはないから」
「素材勿体ない。あ、でもレンは錬金術もやらないんだっけ。…あれ?じゃあレンは一般人?強くなる必要はないのか」
「まあ、防御位は出来るよ」
「折角光の属性で、魔力も高いのに。まあ、私もレンの事、守ってあげるよ」
「それは結構複雑だけど、頼もしいかな」
「その代わり素材は全部私の物だし。今、杖用の魔宝石欲しいから、頑張っているんだ」
「君の魔力だと、それでも砕けそうだけど」
「魔晶石よりはましだよ。ちゃんと加減して使っているつもりなんだけどね。来年の賢者の石は、杖用にするつもり」
「春のは?出来たって言ってたよね」
「それは売って、ケントニスに行く費用にしたんだよ。まあ、自分的に納得いく出来じゃなかったし」
「そっか。スライム枕は売れてる?」
「それがさ、聞いてよ!顔がないのばかり道具屋さんが注文してくるんだよ?可愛いのに」
「トーヤ先生も、顔なし使っているかな」
「あのちょっと怖い先生?…男の人だから仕方ないのかな?」
そういう問題じゃなかったけど、黙っておいた。
「本当はちゃんとお礼したいんだけど、お城のお医者さんじゃ仕方ないよね」
「診察させてあげるのが一番喜ぶけど、今はちょっと無理だね」
「今は?」
「ええと…いや、まだ自信が。イリスは、好きになるとしたら、どんな人がいい?」
「差別しないで、優しくしてくれる人。大好きな人、いっぱいいるよ」
「特別好きな人は、欲しくない?」
「んー。分かんない。大好き以上って事だよね?親友よりも?」
「そうなるね。というか、また別の好きだよ」
「分かんないよ。相手の人も、特別好きになってくれたら付き合うんだよね?難しいね」
「悩ませるつもりはなかったんだ。ごめんね」
「きっと大人になれば分かるよ。多分?」
何の根拠もない事だけど、イリスにとっては重要らしい。
「あ…とさ、今度の休みって空いてる?忙しかったら全然構わないんだけど」
「?これといった用事はないよ?」
「あー、実は、さ、海竜を倒した君に、どうしても会ってみたいって、父が」
「レンのお父さん?いいよ。邪魔だったから倒しただけなのに、大げさに言われても困るけど」
週末、閑散としたアカデミーのロビーで待っていると、ラフな格好のレンとミーアが来た。
「おはよう、レン、ミーアちゃんは、何か用事?」
「図書室で調べ物。レン様にはそこで偶然に会って」
「ふうん?」
「イリス、こっち」
アカデミーの来客用の部屋に入り、ソファーに並んで座る。
「こんな格好で良かったかな?着古しのローブ以外だと、制服しかないから」
「気にしなくていいよ。むしろ父のわがままに付き合ってくれて、ありがとう」
ドアが空いて、杖をついた老人と、エンデが入ってきた。
「おじいちゃん?」
イリスはこそっとレンに聞く。
「父だよ。僕は遅くに出来た子供だから」
レンは少しだけ安心した。イリスが国王の顔を知らなくて良かった。
「おじいちゃんでええよ。孫がいてもおかしくない歳だからの。来てくれてありがとう」
ふと、違和感を感じた。何処かで会ったような?もしくは父か母に?…思い出せない。それにしても、可愛い子だと思った。大人になれば、さぞかし美しい女性になるだろう。
「小さいのに偉いの。海竜を倒してしまうなんて」
「?倒すのに身長は関係ないと思いますけど」
「いやイリス、父は年齢の事を言ったんだと思うけど」
「あ、そっか」
王の後ろに立っていたエンデはため息をつく。安心と、こんなんで大丈夫なのかという思いで。
「面白い子じゃの。レンとも仲良さそうで何より」
「やっぱりレンと似てる。青空みたいな目の色とか、優しい所とか」
「髪も似てたが一本も無くなってしまったからの」
「…それで?父上、イリスに何を聞きたいのさ?」
何かイライラしてる?親に友達見られて照れくさいって感じかな。私には分かんない気持ちだけど。
「クラスではどんな感じかな?」
「初めの頃は人見知りだったけど、とっても優しいよ。みんなに勉強教えてくれるし。ダグラスって馬鹿にも、根気よく教えてくれているし」
「一応あれでもさ、マイスターまで上がって来たんだから。たた、単純だなとは思うけど」
「レン、それフォローしてんだかけなしてんだか分かんないよ」
「君は勘違いミスが多いよね」
「適当だから。でもレン、適当って丁度良いって意味なんだよ」
「そうだけど、それで誤魔化しちゃ駄目だよ」
「面白いの。先が楽しみじゃ」
「ちょっ!変なこと言わないでくれよ!」
「ほほお?やっと気づきおったか」
「だから!」
「何の事?」
「う…。そんなに邪気のない目で見られたら、何も言えないよ」
「レンは、お前さんの事が大好きって事じゃ」
「私も大好きだよ。昨日もお菓子くれたし」
「も、貰い物が余ったから」
「ほお?まあ、いいじゃろ。海竜討伐の報奨金で、お菓子でもケーキでも沢山買えるじゃろ?」
「え?…ああそれ、ちょっとずつ長くになったんだって」
「…ちょっと待って、聞いてないんだけど」
「私も神父様に聞いただけだから、知らないけど、予算とかの理由だって。そういうのって、偉い人が決めるんでしょ?レンには関係ないじゃん?」
「でも…」
「大丈夫だよ。枕とかバックのおかげで、飢え死にの心配はないし、お布団も増やせたから、冬も安心だし」
「ごめん」
「だから、レンが謝る事じゃないって」
「違う。やり方を間違えたのは、僕だから。まさか同じクラスに僕がいるのにこんな事されるなんて」
「レン様、それ以上は」
「っ。…イリス。少し時間を貰えるかな?君の功績には、ちゃんと報いるから」
「だから、レンは気にしなくて大丈夫だって。元々国の為とか、崇高な志があった訳でもないんだし」
イリスは、レンの頭を撫でる。
「どうしてレンがそこまで責任感じるか分からないけど、私は私に出来る事をしただけ。偶々私にしか使えない魔法を知る事が出来たから、運が良かっただけ。ね?」
「ありがとう。それと、頭は撫でられるより撫でた方がいい」
「ふわ…抱っこしてなでなでなんて、何のご褒美?…家族だと、そんな風にしてくれるのかな」
「いいよ…僕が、イリスの家族になってあげる」
「そっか。ならお兄ちゃんだね!」
「え…お兄ちゃん?」
レン様…お可哀想に。
「駄目?お父さんじゃ変かなって」
「じゃあ儂も、おじいちゃんでいいぞい」
「…何で落ち込んでるの?レン」
「…いいよ。今はお兄ちゃんで」
良くはないけど、少し前進?…後退かも。後で絶対からかわれるな。
「わーい!私にも家族が出来た!」
「一応言っとくけど、周りには内緒ね?」
「あー。分不相応って言われるね。レンて、偉いのか偉くないのか良く分かんないけど、貴族の人だもんね」
「一応、それなりだよ」
「それなりって言われても全然分かんないよ。偉そうには見えないけど、大臣の娘に追いかけられてるし」
「そのうちちゃんと話すよ」
「へ?…そうなの?話したくないなら、無理に聞かないよ?」
「いや…。君にとって僕が特別になったら」
「?どういう意味かな。まあ、いいや。その時はちゃんと聞く」
理解出来るまでちゃんと待っているから。
すごく恥ずかしいです。イリスは精神年齢かなり低いです。一応理由はきちんとあったりします




