レンの気持ち
夜はみんなで施設奥の露天風呂に入る。皆、水着を着用しているが、イリスは、薄手のシャツ一枚だ。真っ先に髪を洗うと、藍色が流れ落ち、黒髪に戻る。
「可愛いわ、イリスちゃん」
「そう、とっても綺麗な黒」
「きらきらして、とっても綺麗」
「むー。最近髪褒めてくれる人ふえたな。やっぱり染めなくてもいいかな。面倒だし」
「大体さ、悪魔って魔王の手下じゃん。魔王が悪魔呼ばわりされて嫌とかないだろ」
「だから、魔王じゃないってば」
「可愛いレン君が、やっときましたわ」
「そう、可愛いレン君が、ニコイチで」
「やっぱり二人は」
「「ラーブラブ」」
きゃあきゃあ騒ぐ双子に、揃ってため息をつくレンとエンデ。
「やっぱりあの噂の出所って」
「かも、しれませんね」
もう一度ため息をついて、湯に入る。
「あれ?イリス、水着は忘れたの?」
「持ってない。裸で入ろうとしたら、先生に怒られたの。シスカさん位大きかったら恥ずかしいかもだけどさ、私みたいにぺったんこだったら別にいいと思わない?」
「思わないよ。貴族なら13歳って言ったら婚約者がいてもおかしくないんだから」
「庶民には関係ないし。バブルフロッグの時期も過ぎちゃったから、創れないし」
「ていうか羞恥心持った方がいいよ」
「まあ、そうだけどね」
持とうと思って持てる訳じゃないし。あれ?こういうのも子供だから?
「分かった。裸は恥ずかしいって思うことにする」
「えっ?!宣言する事?」
「もう少しで大人だし、胸だって大きくなるかも知れないし」
「イリスってば、そういう事を堂々と言ったら駄目なのよ?男の子の前で」
「そうなの?大人って難しいね」
「まあ、それがイリスちゃんの持ち味だけど」
「いや、持ち味の問題じゃないよ。周りの目を考えて、危機感持たないと」
「ですよねー、不特定多数の男性に可愛いイリスちゃんの裸、見られたくないですもんね」
確かにそうだけど、僕に向かって言うかな?こういうのは本人の問題だし。
夜、トランプをやりながら寝てしまったイリスを見ながらふと、今までの事を思い返していた。
立場から女性を避けていたのに、いつの間にか、側に居るのが自然になってしまっていて、海竜を倒したのがイリスで、意識不明になったと聞いた時は、仕事が手つかずになるほど心配だった事。
まだ子供なのに、次々と驚く事をして、だけど全然そんな凄い子には見えなくて。
ほんのり赤い、ふっくらとした頬に触れたいけど、起きてしまうかな?と思ったら、双子が両側からイリスの頬にキスしていた。
誰にも取られたくない。…どうしよう…好きかも知れない。
「エンデ、僕は…イリスが好きだ」
呟くと、エンデは器用に肩眉だけひょいと上げた。
「そうですね」
「そうですねって…え?気がついてたって事?」
「イリスの事を見る時や、話す時はすごく優しい表情をされるので」
「あー…」
レンは、顔を赤らめて視線をはずした。
「イリスちゃん寝ちゃったし、今夜はお開きにしましょう!シスカ姉さん、イリスちゃんお願いします」
「いいわよ?私の分までレンさん可愛いがってきてね」
それはどういう意味だろうか?…いや、考えるまでもないか。女の子は鋭いな。
「そういえば二人とも、最近色々言ってたよね」
「そうですね。あなたが誰を好きなのか、他の…特にエリザベート殿に、知れる訳にはいかなかったので」
「他に、気がついた人っているのかな?」
「先生は、どうかは分かりませんが」
「あと父上か。だから会わせろってうるさかったのか。…絶対からかわれるな」
「それで、どうされるのですか?」
「…好きになって貰うのには、どうしたらいいかな?」
「難しいですね。普通の女の子が欲しがるようなもの、イリスちゃんは…お洒落にも興味ないでしょうし」
「いっその事、お菓子で餌付けしてみては?」
「隊長、いくら何でもそれは酷いっすよ。まあ…喜ばせるのには一番効果的かもですね」
「というか、懐かれているとは思いますし」
「それは分かるよ。そうじゃなくて…ごめん。無茶振りし過ぎた」
「隊長も彼女いないっすから。でなくても恋も知らないお子様だし。…やっぱり餌付け?」
「付き合いたいと思っておられるということは、当然その先も考えていらっしゃるのですよね」
「うん。優秀なのは間違いないし、後ろ盾は必要だろうけど」
「護衛も必要ですかね?イリスちゃん、私より強いですけど」
「いや…申し訳ないのですが、今の時点では無理です」
「当然。周りに知られるリスクの方が高いし」
「ヴォルトの件が済んでから、かな。それまでに最低でも付き合えるようにならないと。…それとエンデ、イリスを好きだったりする?」
「無いです。何故そう思うのです?」
「女性と喋るの苦手なエンデが、イリスとは自然に喋るから」
「あれは女性ではなくて、子供ですから…済みません。失礼しました」
「いや、だからこそ僕も警戒しなかったんだし」
だって、あんな風に真っ直ぐ来られたら、拒否なんて、出来る訳がない。後悔は全くない。ただ残念なのは、子供過ぎる位か。




