海竜戦、その後 1
カスターニュに戻ると、ちょっとした騒ぎになっていた。
「さっきの光は、何があった?」
「太陽が二つに増えたかと思ったぜ」
「まさか、海竜と戦ったのか?どうなった!」
「そんな事より、この街に医者は?エリクシールはありますか?」
「今、先生のところに走って貰ってる。残念だがエリクシールはない。ケントニスとの交易も途絶えていたし、マナポーションなら先生が持ってるかも知れないが」
「あれ?イリスなら持ってるんじゃね?」
「お馬鹿ダグラス。他人がアイテムボックスやイベントリから物出せるはずないじゃない」
医者が、着いたようだ。
「極度の魔力欠乏症ですね。残念ながら、エリクシールはありません。討伐に来て下さった兵士達が、全て持って行ってしまったので」
「創れる錬金術師は?」
医者は、首を振る。
「マナポーションでは、効果は無いかもしれませんが」
瓶を傾けるが、飲み込む様子は無い。
「こうなったらダグラス、一刻も速く帰るわよ。済みません、マナポーション売って下さい。出来るだけ多く」
「そりゃいいけど、海竜はどうなった?」
「倒したわよ。この子の魔法で」
「すまねぇ…とりあえず10本。タダでいい」
「ええっ?!助かるけど」
「使用期限が近い物ばかりで悪いが」
「ありがとう!薬不足の事は、ザールの騎士に伝えるから」
マジックバックから魔法の絨毯を取り出し、広げる。
「ダグラス、イリスと荷物、落ちないように抱えてて!」
絨毯はふわり、と1m程浮かび上がると、凄い速さで街を離れて行った。
通常なら三日かかる所を、ほとんど休まず、ポーションがぶ飲みして二日で着いた。まだ早朝で、人を訪ねる時間じゃないけど、気にせずに担任のイングリットの、独り暮らしには大きな家を訪ねた。
「先生!起きて下さい!先生!」
扉が開き、寝間着に薄手の上着を羽織ったイングリットが顔を出す。
「こんな朝早くに、何事なの…!イリス?!」
大きく扉を開け、二人と、あれから全く目を覚まさないイリスを招き入れた。
「エリクシールを持って来るから、この部屋に寝かせて」
ほとんど使われていない客間のベッドに寝かせると、イングリットは注射器で、イリスの魔力を慎重に測りながら、注入する。二本目を用意しながら、シスカにもエリクシールを投げ渡す
「あなたも飲んで置きなさい。…それで、何があったのかしら?」
「俺たち、ケントニス迄行って来たんですけど、帰りに海竜が出て…イリスの怪しげな魔法で倒したんですけど、カスターニュにはエリクシールもなくて。シスカはほとんど休まないで絨毯ぶっ飛ばして来たから」
シスカは、頷いた。
「多分、太陽の魔法かと…呪文の書を貰ったので。…海竜が、一撃で消しとびました」
幾分回復したシスカが、補足する。
「無謀としか言いようがないわね。死ぬ程の危険を冒して、何故ケントニスに?竜の話は、知らなかったの?」
「イリスが大丈夫って」
「それなんだけどよ、アイツ、海竜に遭わないとも言ってないし。帰れるとしか言わなかった。ちょっと変だなとは思ったんだよ」
「なんとなくだって、まるっきり信じちゃ駄目でしょう?全く」
「面目ないっす」
「イリスは、そこまでして何を手に入れたかったのかしらね」
「状況的に呪文の書じゃね?」
「それっておかしくない?海竜の事を知ったのはカスターニュに着いてからだし」
「もういいわ、二人とも早く帰って休みなさい。
イリスが目を覚ましたら聞きますから」
とりあえず、着替えさせなきゃね。
ローブを脱がせ、温めたタオルで拭く。痩せてて小さな躰は、13歳には見えない。本当に、無事で良かった。イリスのおかげで、あの方も随分雰囲気が柔らかくなった。こんな無邪気な子供の前では、人間不信も意味ないのだろう。
まだ目は離せないけど、魔力は少しずつ回復している。…魔力欠乏症になって二日。障害など残らないといいけれど。
次の日、体温も戻り、やっと目を覚ました。
「イリス?何があったか覚えているかしら?」
「ええと…何で先生がいるの?ここはどこ?」
「…そうね。そこからね。ここは先生の家よ。海竜と戦ったのは覚えているかしら?」
「あ、はい。やる気満々で通してくれそうになかったから、太陽の魔法でサクッと。私、倒れちゃったんですか?」
イングリットは、額に手を当て、深いため息を付く。
「それで、どうしてこんな無茶をしたの」
エリクシールを手渡しながら、聞く。
「えっと、なんとなく?どうしても呪文の書が必要と感じたから」
「よく分からないわね。とりあえず、見せて」
「先生には読めないと思いますけど」
イベントリから取り出して、疲れたのかため息を付く。
「寝てなさい、まだ辛いでしょう?」
イリスは頷いて、目を閉じた。




