太陽の魔法
夏休み。マイスターの2年に在籍するフィリア、フィーナという双子の天災錬金術師から、魔晶石と交換で空飛ぶ絨毯を手に入れ、ザールを後にした。途中、エリーの出身地であるカロッテ村に寄る。
「私も行きたかったけど、今年は腰を痛めたおじいちゃんの分も、収穫のお手伝いしなきゃならないから。ケントニスアカデミーの話し後で沢山聞かせてね」
「うん。じゃあまたね!お手伝い頑張って」
絨毯の先頭に乗り、魔晶石に手を当て、先程迄よりも若干ハイスピードで飛ぶ。魔石から魔晶石に変えた事により、魔力変換効率も向上し、貯めておける魔力も格段にアップしている
「イリス、前方にブラックウルフの群れだ」
「止めるよ!」
慣性を無視して止まった絨毯から飛び降り、ダグラスとシスカが走って行く。イリスも油断なく杖を構えた。
魔物自体はあっさり片付いたけど、丁度日も暮れて来たので、ここでテントを張った。結界の魔法をかけていると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「マジックバックに、作り置き随分入れて来たから、温め直すだけで済んで便利ね」
「私もイベントリに色々入れて来たよ?」
「まだ先は長いんだから、マジックバック優先にしましょう?船の上じゃ、火も使えないし」
「そうだね。シスカさんは、宿題持って来た?」
「昨日とおとといで進めたから、後は帰ってからでも大丈夫よ。ダグラスは?」
「こいつが持って来てるはず無いじゃん?絶対土壇場になってから慌てるタイプ」
「まあ、事実だけどよ、おめーに言われると何かムカつく」
イリスはライトの灯りを手元に持って来る。
「余り根を詰め過ぎないようにね。今日はイリスの魔力だけで飛んで来たんだから」
「うん。大丈夫」
港町カスターニュに三日かけてたどり着き、エルバドール大陸に渡る定期便を探すが、最近、航海上に海竜が住み着いたとかで、出す事が出来ないらしい。お陰で交易もストップ、国に訴えてはいるが、討伐作戦は失敗に終わったらしい
「なら、船を貸して貰えませんか?」
「ええっ?!大丈夫、なの?」
「うん。ちゃんと帰って来られるよ。風魔法もシスカさんと交代で使えばいいし。…我がまま言ってゴメンね。だけど、私の欲しい物が、ケントニスにあるから」
「俺は構わないぜ?剣だけで海の魔物に何処まで通じるかは分からないけど、詠唱する間位は守ってやる」
「イリスの事、信じるわ。なんとなくが
外れた事は、一度もないしね」
「二人ともありがとう」
交渉して、交易品を運ぶ事で何とか安く抑えられた。
海や空からの魔物は問題なく片付けられ、一行はアカデミーの総本山に辿り着いた。
シルバーピンは、問題なく身分証明になってくれて、学園長のラインハルトより、資料の閲覧が許された。
「なるほどね。君の話しは聞いていたよ。その強大な魔力の事も、珍しい太陽の属性の事も」
「それで…ここにはあるんですか?太陽の呪文」
「おや?ドルニエに聞いたのかな?」
「いえ、私が、なんとなくここにあるような気がして。学園長は関係ないです」
「なんとなく、ね…確かにあるけど、読めないよ?ニホンという国の文字で書いてあるらしく、手掛かりすら無くてね。とりあえず持って来てあげよう」
暫くして、ラインハルトは一冊の古びた本を持ってきた。イリスは早速それに目を通す。
「ええと、浄化の魔法、植物を急成長させる魔法と、身体の異常を取り除く、癒やす魔法…凄い!」
「読めるのかい?!」
「えっと、文字が読める訳じゃないけど、内容が分かるんです」
「凄いな…書かれている内容もだけど。扱えそう?」
「分かりません。でも、神聖魔法の浄化は使えたので。ちゃんと理解出来て、詠唱出来れば」
「そうか。なら、その本は持って行きなさい。ドルニエに預けてもいいし。魔術での成果を楽しみにしているよ」
「良いんですか?嬉しいです!」
「ここにあっても、宝の持ち腐れだからね。それと、君さえ良かったら、アカデミー卒業後、ここで教師をやってみないかい?」
「でも、私…やりたい事が、あるんです」
「そう。まあ正直、子供に教師は無理だから、何年か後に、そのやりたい事が、終わってからでいい。誘われた事、覚えておいてくれれば、それでいいよ」
宿屋に戻ると、二人とも揃っていた。
「私達は、みんなのお土産を選んでいたの。ただ、レンさんには何がいいか思い浮かばなくて。」
「んー。確かに、一応貴族の人だから、難しいよね」
「ふふっ、確かに、あんまり偉そうに見えないわよね。可愛いし」
「スライム枕でいんじゃね?気に入ってたみたいだし。土産話しも、立派な土産だよ」
「おお!ダグラスもたまには良いこと云うね」
「一言余計だっつの。おめーの方は?」
呪文の事や、教師に誘われた事を話すと、感心された。
「凄いわね。でもイリスだから何でも有りって気がしてきたわ。明日以降の食事も手に入れて来たから、もう寝ましょう。明日朝はまた船旅だから」
部屋に戻っても、イリスは呪文の書とにらめっこだ。近いうちに絶対、呪文が必要になる。最後の呪文、断罪の光が
二日目。あと半日も進めば、カスターニュにつく。…何だろう。凄くどきどきする。
「うおわっ?!まさか、噂の海竜か!!」
イリスは試しに光の上位魔法を無詠唱で放つ。が、まるで効いている様子がない。ダグラスの剣も、シスカの攻撃も、硬い鱗に阻まれている。
「二人とも、時間稼いでいて!」
断罪の光の魔法は、まるで祝詞を唱えているようだった。まるで聞いたことのない言葉に驚いて、思わずイリスをみる。そしてもっと驚いた。その背には光の翼。ふわりと浮き上がる小さな躰は、神々しい光を纏っていた。
シスカには、目の前の竜よりも、友達であるイリスの方が怖ろしく感じた。
「糞ったれ!」
固まってしまったシスカもフォローするため、ダグラスは動く。見かけ通りの只の子供じゃないことは、薄々感じていた。野生の勘で。
だからこそ、イリスはダグラスを面白くないと感じていたし、そんな風に思われても、助けてやりたいと思った。威圧はされても、動けばいい。
呪文が完成し、太陽そのもののような光が、海竜を焼き尽くす。杖の先端に付けられた魔晶石が砕け、イリスが落ちる。
「嘘…だろっ!」
イリスの体から、魔力が全く感じられなかった。体温も下がってきて、やばい状態だっていうのは医者でなくても分かった。
「おいシスカ!しっかりしろ!とにかくカスターニュ迄頼む!」
はっとしたシスカは、急いで帆を張る。
三月中は忙しいので、更新遅れます




