エンデの事とイリスの夢
マイスターランクに入って初めてのテストが終わり、イリスはふらふらとミーアに近づく
「ミーアちゃん、尻尾モフらせて」
「いいよ。イリスちゃん、テスト出来なかった?私も自信なかったから、一緒にレン様に教わる?何だったらみんなで?」
レンは頷いて、問題用紙を並べる
「あー俺、今すぐ素振りしたい気分なんだわ。お先ー!」
「逃げたわね」
「そうだね。でも気持ちは分からなくもない」
やっと尻尾から顔を上げたイリスが、クッションで嵩上げされた自分の椅子を持ってくる。
「じゃあ各自、自信なかった問題を解いてみて」
「こらイリス、勘で問題を解かないの。式は出来るだけ細かく書いて、そうした方が、後で分かりやすいから」
「むう…間違ってたのはここか」
「そうだね。ほら、こうやって気づけるだろ?」
「ふふっ子供たちは仲良しで、微笑ましいわね」
シスカは隣に座るミーアにこそっと言う
「あははー。確かに。って、私の立場でこんな事言っちゃ駄目じゃん」
って、シスカにも聞かれちゃ駄目じゃん!うわー、私の脳みそ、溶けてるかも
思わず突っ伏したミーアに、エンデが鋭い視線を投げかける。レンは分かっていないのか、首を傾げる
「ミーア、どこが分からない?」
「あ、いや、違くてですね、いや、違わないんですけれど、今日の私は限界です。ごめんなさい」
「確かに気分転換は必要かも。ミーア、雑貨屋さんでも覗きに行かない?」
「行く!じゃあエンデ君、後はよろしく!」
「?何でエンデに…何か頼まれたの?」
「いや、気にするな。しばらく勉強漬けだったから、おかしくなっているんだろう」
「そっかー。週末、ゆっくり休めるといいね」
イリスは席を立ち、エンデのテスト用紙をのぞき込む
「エンデは歴史が苦手?」
「私は元々この国の人間ではないからな。お前はどうなんだ?」
「よく覚えて居ないけど、そんな気がする。沢山の怖い声と、血の匂い。お母さんが私を箱に閉じ込めて、眠らされたの。そこからはよく覚えてないけど教会で、神父様が私の名前はイリスだよって、つけてくれた」
「そうか。私の一族は遠い東の国、ニホンの出だと聞いている。旅の行商人で、定住せずにあちこちの国を渡り歩いていた。一族の者には黒い髪や瞳を持つ者が多くいた」
「エンデはどうして旅を止めたの?」
「幼い頃に月の力を持つ祖父が亡くなり、それからは習わしで、月の力を持つ私が商隊のリーダーとして、仕入れる物を考え、行き先も決めていた。それは、月の力を持つ者の行動には必ず何か意味があると考えられていたからだ。15の時、この国に来たとき、私はこの国の騎士になると、なんとなく思った。一族の者はこの国を去り、今も旅を続けているだろうな」
「淋しくないの?」
「大人になってから、自分の意思で決めた事だからな。お前はどうなんだ?先日、この国を出るような事を言っていたが」
「あ、そこに繋がるんだね。エンデの話聞いて、ニホンにも興味出たけど、とりあえず生まれた国には行ってみたいかな。両親は無理でも親戚はいるかもだし、お墓もあるかも知れない。まあ、戻ってくるとは思うけど。大切なものが一杯あるから」
「何処の国なんだ?」
「多分ドムハイト。形見に国旗があるから」
「休戦中とはいえ、敵国だから渡るのは難しいかも知れないね。でも、どうしても行きたいなら、僕を頼って欲しいな」
「レン、を?」
「そう」
「…。ありがとう」
レンて、偉い人の子供なんだろうけど、そういうの利用されるの嫌そうなのに。どうしても自力じゃ無理そうなら相談してみよう。レンとは、これからもいい友達でいたいから
ミーアちゃん、アウト!




