お菓子の日とその後
国王誕生日。レンはアカデミーに通うようになってから、この日が憂鬱だった。王子レインフォートとして国民の前に顔を晒さなければならない。趣味の散歩や釣りの時も、いつバレるか分からない
ある程度の距離はあるし、不審者対策の為に大勢の騎士が動いているから怖くはないけれど
父王は高齢で、自分は遅くに出来た子。従兄弟達は皆自分より年上だ。
こちらからの物はすり抜ける結界から、なるべく沢山の国民に拾って貰えるよう、袋に入ったクッキーを投げる。ふと下を見ると、大人の間からひょこひょこと頭が出入りしている。きっと必死でジャンプしているのだろう。いつものツインテールの髪型と相まって、兎みたいだな、とレンは思った
人がある程度去ると、イリスは植え込みの影や、木々の隙間をチェックする。踏まれてボロボロになってしまったものは仕方ないけど、無事なのも残っていたりする。ふと木の上を見ると、天辺に袋の紐が僅かに見えた。木を蹴ってみたけど、落ちてくる様子はない。一般の人はもう出なきゃいけない。だけど諦めきれない。
辺りをさっと見回し、人影が自分の方を向いて居ないのを確認すると、イリスは自分自身に小声で呪文を唱え、重力制御の魔法をかけた。
ふわりと体が浮きあがる。あと5㎝…
「そこで何をしている!」
騎士の大声で集中が乱れ、そのまま落ちた。辛うじてお菓子の袋は下に落ちた。
「いたた…。ごめんなさい、そこの木にお菓子の袋が引っかかっているのが見えて、自分に重力制御の魔法をかけて、お菓子を取りました」
素直に言ったのに、縄を掛けられてしまった。
丁度その時、エンデが通りかかった。
「お疲れ様です!不審な子供を発見したので、捕らえました!」
エンデは、イリスを見て溜息をつく
「放してやってくれ」
「よろしいので?」
「同級生だから、居られると厄介だ」
「!え…」
騎士は、驚いて二人を見比べる。身長差50㎝。下手すると親子だが、情報は入っている
「了解しました」
「うわーん。エンデ、ありがとう!」
「いいからさっさと立て」
だが、腰が抜けてしまったのか、動けない
仕方なく抱き上げて、門まで行く
「立てるか?」
「だ、大丈夫…怖かっただけだから」
立ち上がってみせた
「ありがとう。その鎧、騎士みたいで格好いいね」
「みたいではないのだが…明日、事情を聞く。今日は帰れ」
イリスは、頷いて帰って行った
全く、厄介な奴だ。それでなくとも、イリスには殿下の素顔を、至近距離から見られているのに。あれは私が気配を掴みきれなかったミスでもあるし、来るなとも言えないしな
次の日、登校してきたイリスを捕まえる
「話は聞いた。その場で斬られても文句は言えないからな?」
「うっ…反省しているよぉ」
「何かあったのかい?」
レン達にも、昨日の事を話す。みんなに怒られてしまった
「危ない事しなきゃいけない程拾えなかった?」
「何とか一人半分では分けられたよ。お年寄りの人達の人数がふえたから、ギリギリだったけど」
「君は食べた?」
「ううん。え…もしかしてくれるのっ?!」
バックから出てき袋に、イリスの目が輝く
「悪い子には、どうしようかな?ダグラス達は拾えた?」
「意地悪しないで、イリスにあげて。悪気はなかったんだから」
「でもそれは、レンの分でしょう?貰っちゃ悪いよ」
「僕は甘い物、苦手だから。いいよ」
「やった!レン大好き!ありがとう!」
早速頬張ると、蕩けたような笑顔をみせる。あげて良かったな、とレンも優しい目を向ける
「こんな美味しい物が苦手なんて、レン、人生の半分は損してるよ」
「え、半分も?」
「だってカカオの実は南のドムハイトからの輸入品だよ?仲はあんまりよくない国だから、超レア物!食べられるうちに食べておくべきだよ!」
「あはは…詳しいんだね」
「こいつの甘いもんにかける執念は、凄いぜ?甘いもんは魔力の回復になるって本当かな?」
「さあ?頭使った後は欲しくなる時もあるけど」
「どっちにしろダグラスには必要ないよね」
「そうだなー。…ってあれ?今俺馬鹿にされた?」
「凄い!気がついたんだ!」
「っ!このやろ!待てこら!」
エンデはダグラスの頭を片手で止め、イリスの襟元を掴んでねこのようにぶら下げる
「にゃあ」




