エンデとの試合
初めての体育は、個人の持つ技量や体力を見る為に、模擬戦が行われる。その為今日は、イリスのテンションが異常に高い
「ね、ミーアちゃんも騎士なんでしょ?強い?」
「それなりかな?炎の魔法は今日は使えないし、やっぱりエンデ君には敵わないし」
「まさか君、戦うの?」
「え?レンは戦わないの?棄権したら最下位じゃん。打撃魔法はありなんだから、やろうよ」
「君みたいに無詠唱で重ねがけなんて、普通は無理だからね?」
「そうかなー。ていうか君じゃなくて、イリスって呼んで欲しいな。女神フォルトゥナ様に仕える魔法を司る天使イリス。神父様に付けて貰ったこの名前、気に入ってるから」
「本名じゃないの?」
「だって私、2歳位から居たから、本当の名前なんて覚えてないし」
「そっか…イリス、エンデは強いよ?伊達に武闘大会連覇している訳じゃない。使えるのが木の剣でも、油断は出来ないよ」
「勿論、只の木の杖でも全力を尽くすよ。嬉しいな!大人にならなくても、エンデと戦えるなんて」
「…だってさ、エンデ」
「手合わせは初めてですが、私も楽しみです。ダグラスを相手取ったじゃれ合いでも、魔法の素早さや判断力は見ていますから。イリス、子供とはいえ容赦はしない。全力でかかってこい」
「うわー、エンデ君マジだよ。シスカ、どう思う?」
「そうね。色々学ばせて貰うわ。勿論ミーアにも」
「本当に強いんだ、杖で剣に勝っちゃったよ」
「いやあいつ、シスカ相手だから手抜いてるぜ、俺相手だと、あの10倍はえげつない。棄権して良かったかもな、レン」
ダグラスは、ミーアとの試合の為に、降りて行った。因みにエンデは不戦勝で、この試合の勝った方と戦う
「攻撃は単純ですが、魔法抜きではミーアは辛いようですね。普段使っている槍とも間合いが違いますし、ダグラスも強くなっています」
「私がミーアと戦うのは、武術の授業までおあずけね。残念だけど、じゃんけんだから仕方ないわね。…これはダグラスの勝ちね。エンデさん、頑張って」
「も、勿論。負けはしない」
エンデが降りて行くのを見送り、シスカはこそっと聞く。
「もしかしてエンデさんて、女性が苦手なの?」
「仕事が絡むと平気だけど、実はそうなんだよねー。シスカは特に美人でスタイルもいいから」
「クールじゃなくて、緊張しちゃうからだなんて、あの図体で可愛い所もあるよね!」
「私と話してる時は普通だよ?」
「それは君が、子供だから」
「むぅー!エンデに絶対勝ってやる!」
まだダグラスの負けが決まらないうちから降りて行く。丁度その時、エンデが勝った
「エンデ、休憩は必要か?」
教師の声に、だが首を横に振る
「大丈夫です」
イリスは、にっと笑って杖を構えた
「お互い様子見してるね」
「そうなんだ?」
「エンデの奴、俺相手の時は初めから全力だったのに」
「ダグラス君とエンデ君は、初見じゃないからだよ。たいちょ…ううん、エンデ君も杖相手の戦いは初めてだろうし…!嘘!」
辺りが闇に包まれ、剣の軌跡が乱れ飛ぶ。イリスはシールドを強化して耐えようとするが、剣圧で吹き飛ばされる。イリスの体は、場外に落ちていた
「木の剣で技出せるとか、どんだけ強いんだよ」
自分の時は手を抜かれていたのだと知り、悔しさを覚えると同時に、本気を出させたイリスに嫉妬した
「大丈夫?イリスちゃん!」
「いたた…あーあ、負けちゃった。今のは月の魔法、だよね?」
「魔法ではなく我が家に伝わる、月の力を秘めた技だ。まさか子供相手に使う事になろうとは思わなかったが」
「いいよ。使わざるを得なかったって事でしょう?守り切れてはいた。だから次は絶対勝つ!」
「お前達はもう、試合禁止だ。…全く、先生は寿命が縮んだよ、ほら、イリスは保健室行ってこい」
木の剣の筈なのに、浅くはあるが切り傷が無数についている。それと、場外に落ちた時の怪我も
「えー、リベンジなし?やだー!」
「やだじゃない!防具も着けられないくせに。ほら、さっさと行け!他の皆は片付けだ」
何故だろう。イリスと関わると、自分の中に眠っている月の魔力の本質が、引きずり出される気がする。
エンデは、恐怖を感じた
自分の魔力はそう高くない。イリスの魔力属性が太陽ならば真逆だから、理論上は影響を受ける事は無いはず。…自分が商隊を離れてこの国の騎士にならねばならないとなんとなく思ったのは、イリスに出会う為…。分からない。ただ出会う為ならば、機会はいくらでもあったし、騎士になる必要もなかった。けれど、この行動には必ず意味がある。今はまだ、分からなくても




