武闘大会
年末には毎年恒例の国をあげての武闘大会が行われる。いつかは参加したいと思っているけれど、15歳以上、大人にならないと出られないので、観覧するしかない。10歳になって冒険者ギルドに登録して、まだ最低のFランクだけど、やっと只の採取に依頼金が付くようになった。実力からすればランク詐欺らしいけど、アカデミーに通いながらだからなかなか討伐依頼も受けられない。
それに加えてやっと薬の調合の腕を認められ、栄養剤やポーションを定期的に薬屋に卸せるようにになった。だから今年は、入場料を支払って武闘大会を観る事が出来る
「うわ…凄い混んでる」
一人で来たイリスは、空いていた僅かなスペースに座る
他の友達は興味がなくて、ダグラスに至っては参加するようだ
初戦はいかにもな戦士と、杖を手にした魔法使い。こう離れていては魔力量も感じる事は出来ないけれど、無属性の打撃魔法を詠唱している。
「詠唱破棄も出来ないんじゃ勝ち目はないな」
思ったとおり、試合はあっさりと決まった。もしかして、打撃系のみなんだ。使い慣れてないから詠唱破棄も出来なかったのかも
やっとダグラスが出て来た。剣はこの間手に入れた魔鉄の剣じゃなくて、刃引きされた鉄の剣。鎧はいつもの魔獣の革鎧。対する相手はフルプレートメイルに、先端の丸い槍を持っている。武器は貸し出しなのかも知れないな。
装備の面でダグラスの方が不利だけど、イリスはダグラスが負けるとは思っていなかった。馬鹿だから戦略も何も考えないだろうけど、強い魔物の出るカリエル出身だし、実力は判っているから
試合が始まり、真っ正面から突っ込んでいったダグラスの剣はあっさりと相手の槍に絡め取られ、バランスを崩すがそこは当然想定内。素早く躱して横合いから斬りつける。だが相手も重い装備で意外に素早い。足下を狙った薙ぎ払いは、だがダグラスに踏みつけられて、槍を落とした。
剣を向けるダグラスに、相手は降参して試合終了。呆気なかったけど、イリスはダグラスがまだ本気で戦っていない事に気がついていた。
そのまま順調にトーナメント戦を勝ち上がり、次は最後の試合。だけど最終試合は特別で、去年の優勝者が出て来る。
「!エンデ先輩?」
寡黙で2m近い長身で、最初は少し怖かったけど、面倒見が良くて意外に優しい。現役の聖騎士は試合には出られないはずだけど、去年の優勝者だから特別なんだろうな。ということは、少なくともその前の年も優勝しているのだろう
イリスは、ワクワクした。エンデがそんなに強いなんて知らなかったから。騎士の鎧ではなく、自前のハーフプレートメイルに、刃引きされた鉄の剣。構える姿には全く隙がない
どちらもスピード重視の戦い方で、本気で戦っている。エンデがダグラスの剣を弾き、一歩下がるとエンデの周りを闇が包む。単なる目眩ましではなく、構わずに突っ込んでいったダグラスに、まるで闇を切り裂く月のような剣筋が光る。闇が消えた後に残ったのは、体制を崩して座り込むダグラスに、剣を突きつけるエンデ。
湧き上がる黄色い声に、賭けの紙が舞い上がる。
選手の出待ちをしようと出口に回ると、沢山の女性達に囲まれ、サインをねだられるエンデがいた
イリスは、女性達の間をくぐり抜け、エンデの前に出る
「エンデ先輩!私と、戦って下さい!」
エンデは器用に肩眉を上げ、イリスを見下ろす
「5年後に来い」
「4年だし」
訂正するけれど、資格が無いのも確かだ。
別に正式な試合じゃなくていい。いつか手合わせして欲しいなと思った




