第97話 「貴族令嬢を救出せよ⑥」
ステファニーは俺のベッドで、まだぐっすりと眠っていた。
寝顔はいかにも嬉しそう……安心しきっているといって良い。
『お忍びのお姫様』が眠っている傍らで、俺はリゼットへこれまでの経緯を話した。
俺は以前、ステファニーに絡まれたのがきっかけで、彼女のお尻をペンペン、最後にアミュレットをプレゼントした事を既に伝えていた。
当然、村の中でも嫁ズ限定の内緒話である。
だから、話は早かった。
「酷いです! いくら親の為とはいえ、馬鹿息子の愛人にさせられ、おもちゃにされるなんて。そして挙句の果てにポイ捨てなんですか? ……ステファニー様があまりにもお可哀想です」
可愛い拳を握って、憤るリゼット。
しかし、すぐ笑顔になる。
ああ、怒っても、笑ってもリゼットは超可愛い。
肩までのさらさらな髪は、綺麗な栗色。
鼻筋が通っていて瞳が鳶色をした美しい少女、その名はリゼット。
この子が、俺の嫁。
「私……嬉しいです。旦那様ってやっぱり……優しいから」
「そうか」
「はいっ! 困っている女の子をもし見捨てていたら……私、嫌いになります、旦那様の事……なんちゃって」
リゼットはそう言うと、可愛くぺろっと舌を出した。
「まあ……旦那様の事は大好きですから、絶対嫌いにはならないでしょうけど……ステファニー様を助けてくれたから、もっと好きに、大がいっぱい付く大好きになっちゃいました。超大好きっ、私の旦那様ぁ!」
感極まったのか、リゼットは俺に飛びついて来た。
そして、激しく熱いキスの嵐!
ああ、リゼット!
お前は、すっごく可愛い!
完璧に、可愛すぎるぅ!
「う~ん……」
熱烈にイチャする俺達の気配を感じたのか、ステファニーが寝返りをうった。
目が、徐々に開かれて行く。
「あふぅ……もう朝? って、貴女……誰?」
寝惚けまなこのステファニ-へ、俺に抱かれたリゼットが微笑む。
「うふふ……私はケン様の妻でリゼットです。ステファニー様、宜しくお願いします」
リゼットの挨拶を聞いて、驚いたステファニーが飛び起きた。
「あ、ああっ! よよよ、宜しくお、お願いしますっ!」
両手で慌てないように制したリゼットは、優しい眼差しをステファニーへ向ける。
「ステファニー様、今、旦那様から話は聞きましたよ。でも改めてお話しませんか?」
「は、はい!」
こうして俺とリゼット、ステファニーの3人は今迄の経緯を話し合ったのである。
……15分後
リゼットが、改めてステファニーへ尋ねる。
「ではステファニー様のお気持ちは、本当に変わらないのですね?」
「は、はい! 私もケンの……いえ、ケン様の妻になりたいですっ」
真っすぐに、リゼットを見つめる、ステファニーの意思は固い。
ちょっと噛みながらも、はっきりと返事をして言い放ったのだ。
ステファニーが完全に本気だという事を、リゼットも認識したらしい。
「成る程! ステファニー様の覚悟はよ~く分かりました」
「はい! 宜しくお願いします」
「では! レベッカ姉達も、大空屋で待っていますからこうしましょう。旦那様はまず姉達を呼びに行って下さい。イザベルおばさまには悪いですけれど、とりあえず内緒にして、ここまで呼び出して下さいね」
俺につなぎを頼んだリゼットは、その間、ステファニーと話すつもりのようである。
まあ、リゼットが行くよりも、まずは俺が行って、他の嫁ズへ話を入れた方が良いだろう。
「りょ、了解」
「その際、ミシェル姉に頼んで朝御飯をこっちへ運んで下さい。皆でご飯を食べながら話しましょう」
全員で食事。
それは、良い考えだ。
一緒に飯を食いながら話せば、お互いの距離が縮まるのも早いだろう。
それにしてもリゼット……
だんだんお母さんのフロランスさんに似て来ている……
さっきのキス攻撃で、甘えん坊んの美少女なのは全然変わらないと分かるが、しっかり者の奥さんに進化中って感じ。
うん!
頼もしい!
……と、同時にちょっとだけ怖い。
俺も『かかあ天下』のジョエルさん化……確定だ。
「わ、私も一緒に行った方が……」
申しわけないと思ったのか、ステファニーが俺との同行を申し出た。
しかし、リゼットはあっさりと却下する。
「駄目です。ステファニー様、いえステファニー姉は村の正門を通っていない、すなわち形としては不法に村へ入っています。後々の事もありますから、その辺りはちゃんと後で辻褄が合うように……ですよね? 旦那様」
「お、おお、そうだな」
不法侵入云々の理屈は通っているし、俺の作戦上、今ステファニーが村民に目撃されるのはまずいのだ。
一方、ステファニーは、リゼットの何気ない言葉の中に、自分への気遣いがあるとすぐに分かったようである。
「リゼットさん! 姉? 私の事……今、姉って呼んだの?」
「うふふ、旦那様の妻で、私より年上のお姉様はそう呼んでいるのです。ステファニー様をそう呼んで大丈夫……ですか?」
相手は貴族であるし、初対面で、人となりも不明だ。
しかし、リゼットはすぐにステファニーの性格を見抜いたらしい。
案の定、ステファニーの表情が緩む。
一気に、緊張が解れたようだ。
「だ、大丈夫も何も……嬉しいっ!」
ステファニーは小さく叫ぶと、リゼットへ抱きついた。
一瞬、吃驚したリゼットではあったが……
俺を見て、ステファニーには見えないよう、クッカがしたように親指だけを立てたのである。
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