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第86話 「女神と美少女の共通項⑦」

 妖精猫(ケット・シー)のジャン、そして冥界の魔獣ケルベロス……

 忠実な従士ふたりの力により、俺達は害を及ぼしそうな邪魔者、ゴブリン軍団を排除した。

 なので、安心してハーブ園にて作業が出来る。

 幸い俺はハーブ園の場所をしっかり覚えていた。

 なので、戦闘現場から転移魔法で一瞬のうちに移動する。

 

 ハーブ園は……

 以前クッカと来た時と変わっていなかった。

 

 やっぱり、ここは凄い!

  

 相変わらず、様々な花が咲き乱れている。

 俺の鼻腔びこうを濃厚な香りがくすぐる。

 

 ああ、癒される。

 うっとりする。

 ハーブに疎い俺でさえ、ここを地上の楽園だと感じてしまうのだ。

 リゼットから見れば、超が付く天国であろう。

 

 そして、もうひとり……

 空中に浮かんだクッカも、惚けたようにハーブを見つめている。

 ああ、こいつも『ハーブマニア』だっけ。


 もしもクッカとリゼットが話す事が出来るのなら、『同好の士』という事で盛り上がるだろうなぁ……


 俺は、そんな想像をした。

 ふたりの、幸せそうな顔が思い浮かぶ。

 

 と、その瞬間。

 俺に、ひとつの奇跡を起こす可能性が閃いたのだ。


 クッカは、俺の魔法の『発動体』として最適な存在らしい。

 で、あれば逆はどうなのだろう?

 例えはベタだが、俺の脳裏には浮かんだのだ。

 北の某県の、とある山に鎮座するお告げを行う某お年寄りが。


『クッカ!』


『…………』


 俺はクッカに呼びかけたが、彼女は大好きなハーブを見たままぼうっとしていた。

 呆けたような返事をする。


『ほぇ?』


 ほぇ? じゃあないよ。

 大事な話があるんだよ。


『クッカ、重要な相談がある……』


『な、な、何でしょうか?』


 クッカの奴、やっと我に返ったようだ。

 俺は、思いついた事を話した。

 小さく頷きながら、クッカは興味深そうに聞いている。


 目の前では、リゼットが熱心にハーブを見て回っていた。

 リゼットの夢は、将来ボヌール村に広くて立派なハーブ園を造る事だ。


 しかし、優しいリゼットは俺の事をしっかり考えてくれている。

 最初は、地味に狭いハーブ園で構わないと言ってくれた。

 大きくするのが俺にとって目立ってまずいなら、永久に小さいままでも構わないと言ってくれた。


 リゼットは本当に優しい子だ。

 惚れ直してしまう。


 そして、クッカもリゼットと同じ考えだ。

 俺が目立たず平穏無事に、幸せに暮らすのが第一だと考えてくれている。

 目の前の愛する嫁ふたりの、共通の趣味はハーブ。

 だから……


 クッカは、少し考えて答えてくれた。


『理論上は可能ですよ』


 理論上?

 分からねぇ?

 一体、どんな理論なんだ?


 科学者のコメントみたいに理論上可能と言われても、俺にはさっぱり分からない。

 それ以前に、俺以外の人間とクッカが、直接話すのが許されるかどうか……

 これは、やはり管理神様に事前確認をしておいた方が良いだろう。


 ええっと連絡は……

 クッカに頼むか、それとも俺が直接頼むか……

 直接、頼むか。


 俺は天へ呼び掛けてみる事にした。


『管理神様!』


『何だ、ぴょ~ん』


 あら、打てば響いたよ。


 反応早い!

 返事すぐ!

 そして相変わらず、とんでもなく軽い!


『ケン君、さっきから話は聞いてたよ~ん』


『そ、そうですか! で、では!』


『ええっと、どうしようかねぇ……まあ、いっか』


 まあ、いっかって?

 あれ?

 あっさり、認められそう。


『うん、OK! 但し事前に言っておくよ~ん。会話の内容が不適格の場合にはピー音が入るからねぇ』


『あの、ピー音ってベタですね……せめて自主規制音って言わないんですか?』


『所詮、意味は同じだよ~ん』


 この異世界では、俗っぽい表現だと思うけど……

 まあ良いです、許可して頂ければ!


『ありがとうございます!』


『あはは、頑張れよ~ん! ばっはは~い』


 管理神様は例によって軽いノリで帰って行った。

 クッカは俺と管理神様のやりとりを聞いていたが、俺が許可を取るとガッツポーズをした。


 リゼットの奴……

 吃驚した上に、趣味が同じ綺麗なお姉さんと話せたら喜ぶぞ!


 俺は、手招きしてリゼットを呼ぶ。

 急に呼ばれたリゼットは、「何事か?」と飛んで来た。

 首を傾げる仕草が、超可愛い。


「リゼット……よければクッカと話してみないか?」


「え!? 女神様と? お話が出来るのですか?」


 俺が用件を伝えると、リゼットは吃驚した様子だった。

 何故、いきなりクッカと話す必要があるか?

 俺は、具体的な理由を言ってやる。


「ああ……実はクッカがさ、ハーブにすっごく詳しいからきっと楽しいぞ」


「ええっ! それならぜひ、お話ししてみたいです!」


「おお、そうか」


「はい、……但し、ケン様に負担がないならという条件付きで。もしも負担があるのなら私、我慢します」


 おいおい……リゼット、お前って本当に優しい子だなぁ。

 どうやらクッカも、同じ事を感じているようだ。


『うふふ……相変わらずですね。心配しなくても旦那様やリゼットちゃんに危険や負担は無いって、伝えて下さいな』


 俺はクッカの言う通り、俺やリゼットに対する危険や不可は無いって伝えてやった。

 

 するとリゼットが、了解して頷いた。

 クッカもリゼットを見て、嬉しそうに大きく頷く。


『うふふ、OKのようですね! じゃあ失礼します……ケン様を発動体にして……お口を借りますよ』


『ああ、思う存分やってくれ』


 クッカが何か、言霊を唱える。

 

 ああ、俺の中へ強い波動が流れ込んで来た。

 そうか、クッカの温かい気持ちが、伝わって来るんだ。

 おお、発動体になるって……こんな感覚かあ。


「……旦那……様、……大丈……夫で……す……か?」


 リゼットの声が、まるで凄く遠くで聞えるような感覚になる。


 ああ、これって何だ?

 まるで、俺が俺でなくなるような感じだぞ。

 

 その瞬間!


 まるで身体を乗っ取られるような感覚に囚われる……

 と同時に、俺の口は勝手に動き出したのであった。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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